マイクロロッドレーザ装置


(背景)
波長1.5μm帯での高出力レーザ装置が望まれていた

 長1.4μm以上のレーザは、万一、目に入射しても角膜表層で吸収され、再生能力のない網膜まで到達しにくく、比較的目に安全と言うことが一般に知られている。一方、波長1.5μm付近のレーザは、光通信において使用されている石英系光ファイバの伝送損失が一番少ないこともあり、広く利用されている。
 現在、波長1.5μm帯レーザとしては、V−X族4元化合物(InGaAsP)半導体レーザや、エルビウム添加ガラスレーザが用いられている。しかし、半導体レーザを用いた波長連続可変のレーザ装置は出力が必ずしも十分ではない。また、エルビウム添加ガラスレーザは、励起に最適な波長(980nm)の半導体レーザなどを励起光源に用いることで、無駄な発熱を減らして連続発振が可能であるが、この措置を講じても、ガラスの熱伝導性が良くない上に、レーザ発振の際に発熱は避けられないため、ガラスが昇温しやすく高出力化が困難であった。
 光源の高出力化は、一般に信号対雑音比(S/N比)を高くするのに有利であり、伝送損失が多い空間光通信や光計測の分野で望まれていた。また、通常は伝送損失が少ないため低出力光で通信が行われている光ファイバ通信の分野でも、先の利点に加え、使用される光ファイバの回線検査、通信機器や部品の開発などにおいて、わずかな異常などを検出するために高出力レーザが必要であることから、開発が望まれていた。

(内容)
エルビウム添加ガラスを微細形状にすることで放熱を促進し高出力化を実現

 新技術は、エルビウム添加ガラスを毛細棒状(マイクロロッド)もしくは微細板状(マイクロチップ)の形状に加工し、熱良導支持体と接合させて温度制御ができるようにし、これを半導体レーザで励起することにより、波長1.5μm帯のレーザが安定して得られる小型固体レーザ装置に関するものである。(図1図2
 本新技術の研究者らは、レーザ媒質をマイクロロッドの形状にして熱良導支持体に支持する実験から、放熱が促進されるため、安定した高出力レーザ発振が可能であるとの研究成果を得た。
 その成果を基に考案された本新技術のレーザ装置の構造は次のとおりである。
 レーザガラスの形状をマイクロロッドとした場合は、ロッドの側面周囲を金属やサファイアなどの熱を通しやすい材質(熱良導支持体)で囲み、また、マイクロチップとした場合は、チップの前もしくは後へサファイアなどの透明な熱良導支持体を重ねる。これにより、ガラスと熱良導体との接触面積が大きくなり、ガラス周囲より熱良導支持体へ放熱が促進される。さらに、熱良導支持体へペルチェ素子(注1)などの冷却機構を付加し温度を制御することにより、ガラスの温度を一定に保ち安定したレーザを得ている。
 以上のことから、本新技術によるレーザ装置はマイクロロッドの場合で波長1.535μmで50mW以上、マイクロチップの場合は波長1.541μmで100mW以上の高出力な連続波レーザを得ている。
 本新技術によるレーザ装置は外部共振器を用いることで発振波長を1.525〜1.556μmまで連続可変となる。また、ウランドープのフッ化カルシウムのパッシブQスイッチ(連続波レーザのエネルギーを内部で蓄積して、一定のエネルギー量が蓄積されると一気にパルスレーザとして放出する装置)を用いることで波長1.5μm帯で100W以上の高出力なパルスレーザを得ている。

(効果)
光通信、光計測などの分野での光源として利用が期待

(1)
比較的目に安全で、光ファイバでの伝送にも適している1.5μm帯において高出力連続発振可能。
(2)
構造が簡単であるためレーザヘッドが小型
(3)
半導体レーザに比べ波長安定化が容易に図れる。
(4)
外部共振器を付加することで波長可変が可能。
(5)
パッシブQスイッチなどを付加することで高出力なパルスレーザが得られる。
などの特徴があり、次の用途が期待される。
(1)
光ファイバ通信あるいは空間光通信分野における回線検査や光通信機器の機能評価用の光源。
(2)
高出力パルスレーザにすることにより、レーザレーダなどの光計測用光源
(注1)
ペルチェ素子:
2種類の金属または半導体の接合面を通じて電流を流すとき、その接合部に発熱または吸熱が生ずる現象(ペルチェ効果)を利用して、電子的に冷却を行う素子。


This page updated on August 3, 1998

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