研究主題「膜組織能」の研究構想(概要)


 細胞が形を決めたり、物質をやりとりするためには細胞膜が多機能なシステムとして有効に働いている。そのためには細胞膜の構造が広い範囲で組織化される必要がある。この組織化は、分子の自己組織化だけでなく、細胞の能動的機構(ATPのエネルギーを用いた機構)とうまく共同させることによっておこなわれると考えられ、最近その中心的な働きをしているのが、膜骨格であるらしいということがわかってきた。膜骨格は細胞膜と細胞骨格の境界にあって、両者の相互作用を媒介する働きをもっている。しかし、膜骨格が細胞膜分子を組織化する機構(膜組織能)の研究は、緒についたばかりである。さらに、多細胞集団の形態形成は、細胞膜同士、および細胞膜と細胞骨格との相互作用によって担われているので、これらにも膜骨格は重要な役割を演ずるが、その具体的な機構はほとんどわかっていない。
 本研究は、細胞膜が必要に応じて変わる多様な機能発現を可能にしていると見られる、能動的な膜の組織化の機構、特に自己組織化との共同的機構を膜骨格に焦点を当てて、探求するものである。具体的には、まず生きている細胞の中で、1分子レベルで膜タンパク質の動きとそのタンパク質にかかる力を、サブピコニュートン、1ナノメートルの精度で、しかもサブミリ秒の時間分解能で長時間(数時間)観測する方法を確立する。細胞は「分子の手」(分子間相互作用)を用いて分子を組織化するが、本研究ではいわば「科学の手(主に光)」を用いて、分子を同じような精度と力で操作し、細胞膜分子の組織化の機構・原理を明らかにしていく。このような、生きている細胞に適用できる1分子直視・直接操作技術をさらに発展させ、同時にそれらの技術を用いて、生細胞における膜骨格と膜タンパク質同士の相互作用などを調べ、膜骨格の機能である膜組織能とその分子機構の解明を目指す。
 この研究によって細胞膜の組織化の機構を明らかにし、熱運動とエネルギーの効率的利用に関して、生物の分子機械システム特有の過程と機構を明らかにする。さらに本研究は、新しい機能が柔軟に変化するような素子の設計に指針を与えるものと期待される。

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This page updated on August 3, 1998

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