研究主題「共生システム」の研究構想(概要)


 現在の生物学は、ヒトゲノム計画に代表される一連のゲノム解析プロジェクトなどによって、生命現象に関わる要素(遺伝子、酵素など)の特定を非常な勢いで進めており、おびただしい量のデータが生み出されようとしている。しかし、選択的に相互作用する膨大な数の要素が作り出す、システムの総合的な理解に関しては、ほとんど手がついていないというのが現状である。
 本研究は、生命現象を広義の共生系と捉え、遺伝子発現の調節、代謝、神経回路網の形成等に対しシステム工学としての解析を加えるとともに、それによってもたらされる新たな知見を工学的に応用する新概念の提唱を目的とする。まず、分子生物学の分野では、遺伝子発現調節と代謝ネットワークの大規模かつ精密なコンピュータ・シミュレーション・モデルの構築、及びそれに付随する解析手法の探究を行う。具体的には、まず、酵母、線虫などを主な対象に、数万遺伝子規模の形態形成・分化・神経発生のシミュレーション・モデル、及び、シミュレーション・モデルと連動し、未知の遺伝子・代謝回路を(半)自動推定する知的仮説生成システムの構築を図る。当然、現象の正確な再現には、多くの生物学的情報が不足である。そこで、このシステムを利用し、情報の不足している具体的な現象に対して予測・仮説の提示を行う。その上で、実際の生物実験を行い検証を行う。これら、モデルの構築と検証を通して、複雑な生命システムのもつ基本的構造の理論的研究および遺伝子や発生という概念を内包した新たな工学システムの体系を提唱する。また、高度な知能の発現に関しても、多様性と選択性がキーとの視点に立ち、高度な移動ロボットと精密なシミュレーターを用いて多様な感覚入力と非常に大きな自由度を持つ体を統合した系の挙動と制御の研究を行う。
 この一連の研究は、分子生物学の研究に、理論予測という側面を強く加えることとなり、生命現象に対するより精密な理解を推進する可能性を含んでいる。また、この生命をシステムとして捉えるアプローチはシステム・デザインに新たな道を拓くものと期待される。

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This page updated on August 3, 1998

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