戦略的基礎研究推進制度における戦略目標について


平成9年2月
科学技術庁

 我が国は、世界全体のグローバル化、ボーダーレス化と、それらに伴う国際的な経済競争の激化、さらには史上類を見ない速度で進行している人口の高齢化等により、産業の空洞化、社会の活力の喪失、生活水準の低下等の危機的事態に直面することになるのではないかと強く懸念されている。これらの諸問題に対処していくためには、それらの解決の鍵をにぎる科学技術の推進が極めて重要である。また、その成果が人類の共有し得る知的資産としてそれ自体価値を有し、人類に対し貢献し得る基礎研究への期待も非常に大きくなっている。
 このため、様々な科学技術に革新的発展をもたらし、新技術・新産業の創出を目指すとともに、人類全体に共通な地球的規模の問題に取り組んでいくことが極めて重要であり、このような目的を持ち、新たな知的資産の形成も念頭においた基礎研究を、重点的かつ戦略的に進めていくことが必要である。
 これらの状況に鑑み、国として重要であり、かつ緊急に取り組むべき課題を踏まえ、戦略的基礎研究推進制度における新規募集課題の戦略目標を以下のように設定する。
 なお、基礎研究の推進に当たっては、異なる発想・価値の相互作用の中から研究活動の活性がより生まれる可能性が高いとされていることを踏まえつつ、国立試験研究機関、公設試験研究機関、特殊法人、特別認可法人、公益法人の研究者が研究代表者となって、異なるセクターにまたがる研究チームを構成しているものからの提案課題に対して、これら研究機関の活性化の観点から、積極的にその推進を図ることが適当である。

戦略目標1:大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦

 我が国が、長引く景気の停滞や国内産業の空洞化を克服し、活力ある社会を維持・発展させていくためには、既存の概念にとらわれず、新たな分野・領域を開拓し、独創的・革新的な技術の創生を通じて、新技術・新産業を創出していかなければならない。また、我が国の国際的立場に鑑みれば、それ自身が価値を有するものとしての、人類の新しい知的資産の拡大にも積極的に貢献していく必要がある。
 このような観点から、多くの新たな知見の獲得が期待されてはいるが、未だ知られていないことが多い領域、例えば、複雑で多様な生命現象の解明、分子・原子単位の極微細な領域の解明及び超高圧・超高真空等の極限的な状態における現象の解明を通じて、革新的な技術の確立を目指す研究を進めることが不可欠である。
 したがって、第一の戦略目標を、以上のような多くの未知を抱えた領域の現象の解明により知的資産を拡大するとともに、新技術・新産業の創出を目指す「大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦」とする。

戦略目標2:脳機能の解明

 脳は多くの画期的な発見が行われる可能性を秘めている研究対象であり、21世紀に残された数少ない巨大フロンティアのひとつである。また、脳科学の進歩は、人間たる所以の根元である脳を知ることにつながり、脳を知ることは即ち人間を理解することにつながる。また、脳科学研究の成果は、脳の老化の防止、アルツハイマー病等脳・神経系の困難な病気の克服、脳の原理を生かしたコンピュータやロボットの開発による新技術・新産業の創出につながる。このような意味で脳科学の推進を図り、脳機能の理解を行うことは、正に人類的課題となってきている。
 したがって、第二の戦略目標を、人間の理解の基礎として脳の働きを知るとともに新技術・新産業の創出にも繋がることを念頭においた「脳機能の解明」とする。
 なお、この脳機能の解明を行うためには、脳の働きの理解を目指す「脳を知る」、脳の老化、疾病のメカニズムの理解と制御を目指す「脳を守る」、脳型の情報処理システムの理解と構築を目指す「脳を創る」といった研究領域において、明確な研究目標を設定し、計画的に取り組むことが必要である。

戦略目標3:環境にやさしい社会の実現

 地球上の人口は現在約58億人であり、1970年を境に増加は減速しつつあるものの、依然として年率1.5%で増加しており、2025年には83億人、2050年には98億人に達すると予想されている。今後人類が、真に豊かで快適な生活を実現し、維持していくためには、地球規模での無制限な開発や化石燃料の過剰使用等による環境の破壊を来すことなく、必要な食料及びエネルギーを確保するとともに、種々の人間活動やその結果生じる廃棄物等の生態系への影響を極力低減していくことが重要である。
 このためには、地球規模の諸現象の解明とその予測を行うとともに、これらを基礎として人間の諸活動の環境への影響を正確に把握することや、環境保全関連技術の確立が不可欠であり、それらを踏まえて環境にやさしい社会を構築していくことが必要である。
 したがって、第三の戦略目標を、地球変動のメカニズムの解明とその予測、環境への影響の把握、環境保全関連技術の確立等により人間の諸活動の環境への負荷の低減を目指す「環境にやさしい社会の実現」とする。


This page updated on March 26, 1999

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