シアル酸は、動物の細胞に含まれており、糖タンパクや糖脂質の末端に結合して存在している。これらシアル酸誘導体は細胞の分化・増殖のほか、近年、細菌やウィルス等の接着阻害活性、免疫グロブリン産生促進など多様な生理作用が報告され始めた。
現在、シアル酸及びシアリルオリゴ糖は研究用試薬として少量が製造されており、高価であった。しかしながら、これら研究の進展とともに、食品への添加や医薬品への応用が考えられ、シアル酸やシアリルオリゴ糖の製造法が注目されるようになった。
シアル酸を得るには、従来、牛乳に含まれるものを分離する方法や大腸菌の培養液から取り出す方法が知られているが、含有量が低いこと、精製分離工程が複雑などの問題があり大量製造には必ずしも適していなかった。また、酵素反応によりシアル酸を合成する方法や、シアリルオリゴ糖を化学合成する試みがなされているが、出発原料が高価であったり、合成反応が複雑なため実用規模での製造法は確立されていない。このようなことから、シアル酸やシアリルオリゴ糖を安価に工業的に製造する方法の開発が望まれていた。
本研究者らは、鶏卵にはタンパク質に8〜9個の単糖が結合し、その末端にシアル酸が結合した形態で存在し、かつ、卵黄に高い含有量があることを明らかにし、この卵黄を原料としシアル酸及びシアリルオリゴ糖を精製・分離することを試みた。
従来、鶏卵卵黄の利用状況については、そのままマヨネーズなど食品へ利用されるほか、有機溶媒で抽出された卵黄脂質は輸液や化粧品の乳化剤などに利用されるが、残渣の脱脂された卵黄(主成分はタンパク質)はそのまま廃棄されている。
本新技術によるシアル酸の製造は、この脱脂卵黄を酸により加水分解して、タンパク質に結合しているシアル酸を遊離させた後、中和、ろ過して、ろ液を分画膜処理し、次いで電気透析により塩類を除去し、さらに、クロマト分離によりシアル酸を精製し、乾燥して純度95%以上のシアル酸を製造するものである。
一方、シアリルオリゴ糖の製造は、まず脱脂卵黄にタンパク分解酵素を作用させて、タンパク質に結合しているシアリルオリゴ糖を遊離させた後、分画膜処理、濃縮乾燥の操作を順次行って純度10%以上のシアリルオリゴ糖を得る。(残り90%の主成分は蛋白質である)
シアル酸は白色粉末で、分子量は309.28、水に易溶、メタノールやエタノールには難溶である。本開発での製造法で得られるシアリルオリゴ糖は、淡黄色粉末で、水に易溶、熱に対して安定なため、加熱して加工する食品にも適用できる。
This page updated on June 19, 1998
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