導電材用高強度銅合金の製造技術


(背景)
高強度で導電性の良好な材料が望まれていた

 従来、電線や電気部品などに使われる導電材として、銅を主成分とする合金が多数、開発されており、銅本来の良好な導電性を損なわずに必要な強度を得る努力がなされてきた。一般に、金属の強度を合金化や加工歪みの導入によって高めようとすると、導電率は低下する。そこで従来は、導電材用合金の開発で高強度を得るためには、素地の金属の純度を上げることで導電率を回復させる効果を重視し、一旦、銅へ一様に固溶(注1)させた添加物を熱処理により析出させて、その析出物が塑性変形を阻害する効果を利用して材料強度を得る方法(析出強化法)が比較的有利とされてきた。従って、原料の面からも、導電率の高い銅に対する添加元素として、ベリリウム、クロム、コバルト、ジルコニウムなどの析出効果の大きいものが選ばれており、ベリリウム銅合金などが実用化されている。しかし、上記添加元素は、何れも銅より導電率が劣り、銅合金の導電率低下は避けられず、ベリリウムは原料が人体に有害であり、製造上の問題となっていた。

(内容)
銀を添加し、熱処理と冷間加工の複合効果により強度と導電率を両立

 本新技術は、銅への添加元素として、析出強化の効果は大きくないが最も導電率の高い金属である銀を用い、製法においては、熱処理と伸延などの冷間加工を組み合わせて、加工による強化と同時に析出の効果を高めることにより、高強度と同時に良好な導電性を実現させたものである。
 本新技術による製法は、加工前に一旦添加物を銅に固溶させる溶体化処理は行わず、また、添加物を析出させる熱処理の後にも加工を加える点で、析出処理により加工性が著しく低下するため大きな加工を施すことができない従来の析出強化型合金の製法と大きく異なる。まず、銅に6重量%以上の銀を配合し溶解・急冷することにより銅固溶体(注2)と共晶相(注3)からなる鋳造合金を得る。このような鋳造合金に熱処理と冷間加工とを交互に施し、鋳造合金から溶質(銅固溶体における銀、銀固溶体における銅)を析出させながら組織を引き延ばす。この工程において冷間加工により導入される歪み(転位)は合金の強度を高めると共に析出のおきやすい場所を形成し、熱処理の際の析出を促進する。
 本新技術により、導電率を国際軟銅標準の80%以上に保ちながら引張強度800MPa以上まで強化した合金を得ることができる。得られた銅合金は銅固溶体と銅銀共晶とが各々ファイバー状となる複合構造を持ち、さらに、銅固溶体部分にも析出した微細な銀のファイバーが、また銅銀共晶相部分にも微細な銅のファイバーが形成される。導電性がよいのは、このように合金を形成している2相の固溶体の溶質が十分析出し、実質的に純銅と純銀の複合材料となっているためと考えられる。

(効果)
エレクトロニクス・メカトロニクス、鉄道、強磁場発生の分野で利用が期待

本新技術による銅合金は、

(1)
高強度と良好な導電性の両性質を併せ持つ。
(2)
リサイクルが容易。
(3)
環境問題を引き起こしにくい。
などの特徴があり、次の用途が期待される。
(1)
ロボット用ケーブルの様な高屈曲ケーブル導体や超小型モーター用の極細線などのエレクトロニクス・メカトロニクス部品
(2)
鉄道列車への電力供給用の架空線(トロリー線)
(3)
科学技術研究に用いる強磁場発生装置の導体などへの利用が期待される。
(注1)
「固溶」:
異なる物質が混合して均一な固相を成すこと。
(注2)
「銅固溶体」:
この場合は銅を主成分(溶媒)とし銀を溶質とする固溶体。
(注3)
「共晶相」:
銅固溶体と同じく銅を主成分とする固相(α相)と銀を主成分とする固相(β相)が競合して結晶が析出する事によってできたα相とβ相が混合した固相。


This page updated on June 19, 1998

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