パワーレーザはエネルギー密度が非常に高いことや、加工条件に対する制約が少ないなどの利点から、材料の切断や除去、接合、アニール等の加工分野やレーザ蒸着やレーザアシストデポジション等の材料作製に利用されている。これまでは、出力が数kW〜数十kW級のCO2レーザや数百W級のYAGレーザが利用されている。しかしながらCO2レーザはエネルギー変換効率が20%以下、YAGレーザはエネルギー変換効率が現状で10%以下と低く、発熱が大きく冷却が必要になる、加工コストが高い等の難点を有している。また、CO2レーザは装置重量が大きいもので数トンになり簡便には扱えないものである。このため、高効率かつ小型のパワーレーザの開発が望まれている。
従来、YAGレーザでは励起光源としてフラッシュランプ又はアークランプ等を利用しているが、その場合エネルギー変換効率が5%程度である。それに対しレーザの小型化、高効率化に向けて、近年、半導体レーザ(LD)を励起光源としたYAGレーザの研究開発が行われており、一部は製品化されている。LDそのもののエネルギー変換効率は50%を越えるものもあり、また励起光波長をレーザ媒質の光吸収率の高い波長とあわせることにより結合効率をあげることができることから、LDを励起光源とすることにより高いエネルギー効率が得られるものと期待されている。しかしながら、現状ではレーザ媒質の性能や励起方式等が十分でなく、総合効率は10%程度にとどまっている。
本新技術の研究者らは、LDそのもののエネルギー変換効率の高さに着目し、単体では1W程度以下の出力しか得られないLDを複数個集積し、それらのレーザ光をレンズで集光し、試料に直接照射すれば、小型かつ効率の良いパワーレーザとなることに着目した。しかしながら、LDからのレーザ光は発散角が大きく、そのままでは複数個のLDからのレーザ光を効率よく集めることがことが困難である。このため、LDを集積したアレイの前面に個々のLDに対応した微小なレンズ(マイクロレンズ)を装着することにより平行光を得、さらにレンズで集光する構造を提案した。
LDアレイは1cm2当たり100個程度のLDを集積するため、各LDからのレーザ光を平行光にするには直径1mm程度の大きさのマイクロレンズを高精度で作製する必要がある。このため、金型等を用いてプラスチックのレンズアレイを形成する。さらにレンズの精度を向上する方法として、研究者らはレーザアブレーション法を応用することに着目した。具体的には、プラスチックマイクロレンズを透過したLDからのレーザ光を測定し、波面収差を除去するようにArFレーザで表面を整形するという方法で、波面収差を波長程度まで抑制し、集光特性を改善することが可能であることを確認した。
また、LDも極力集光しやすいように単一横モードで広がりが少なく、かつ高出力発振が可能なものが必要となる。単一横モード発振にするためには、通信用等のLDのように活性領域の幅を狭くすれば良いが、LD内でのレーザ光の漏れや端面の破壊などで高出力化が困難である。このため、活性領域の誘電率を周囲より高めることにより光漏れを抑制することを試み、その結果、単一モードで従来の数mWクラスの出力に比べて一桁高い30mWの連続発振が可能なLDを8個並べたLDアレイが得られた。さらに端面に光学窓を設ける等の構造的な工夫により高出力化が期待される。
本新技術によるパワーレーザは、マイクロレンズアレイの前面に形成した単一モードLDアレイを積層したユニットと集光用レンズ、電源部等からなる。アレイを積層する際には層間に放熱板を挟み込むなどしてLDから発生する熱の影響を避ける構造となる。
本新技術によるLDアレイパワーレーザは、
などの特徴を有し、
などに利用されることが期待される。
This page updated on April 20, 1998
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