合金分散高導電性プラスチックの製造技術


(背景)
望まれていた、高導電性プラスチック

 プラスチックは、軽量で比強度が高い、安価である等、優れた特徴を有する材料であるが、その中でも射出成形ができることが大きな特徴の一つである。射出成形は、粒状の熱可塑性プラスチックを溶融し、金型に高い圧力で注入して成形品を製作する加工法であり、自動化が可能で大量生産に適する、一次加工を経ずに直接成形品を製作できる等の長所があるため、精密機器部品等の小型部品から冷蔵庫のキャビネットのような大型部品の製造まで、広く利用されている。また、絶縁性に優れていることもプラスチックの大きな特徴であるが、逆に高い導電性をもつプラスチックが開発されれば、射出成形で自在に配線を作製でき、これまでの技術では製造が難しい立体配線基板や、家電製品の内部配線のプラスチックケースとの一体化が簡単にできるようになる。このため、金属並みに高い導電性をもつプラスチックが望まれていた。

(内容)
プラスチック中に錫合金を分散させることで、高導電性プラスチックを実現

 本新技術は、熱可塑性プラスチック、錫合金及び金属微粉末を250℃程度で混練し、プラスチック中に錫合金が細かく連続して分散させた導電性プラスチックを製造するものである。錫合金としては、錫に銅やニッケルを少量加えたものを、金属微粉末としては銅粉等を用いる。
 プラスチックに導電性を付与する方法として、プラスチック中に導電性材料を混入する方法があり、繊維状の銅やステンレスを混入したものが実用化されている。しかしながら、銅やステンレスを多量に混入すると成形性が劣化して射出成形ができなくなる。このため、混入量に限界があり、10-3Ω・cmオーダーの体積固有抵抗しか得られず、電磁シールド用として使用することはできても、通電用途に利用することができない。
 本新技術においては、成形性を劣化させないため、混入する導電材として射出成形温度で溶融する低融点の錫合金を用いた。この場合、錫合金はプラスチック中に細かく連続して分散していなければならない。しかしながら、錫合金を溶融させて熱可塑性プラスチックと混練しても、両者は分離して錫合金が大きな塊となってしまう。本研究者らは、このような問題を少量の金属微粉末を添加して混練することで解決した。このような技術を見出すに至った研究経緯は以下の通りである。

(1)
まず錫合金と同様に低融点の鉛合金を用い、液相と固相が混在する半溶融状態であれば、プラスチック中に分散できることを見出した。半溶融状態の鉛合金では、微細に晶出した鉛がプラスチックへの分散性を高めるため、分散できるものと推測している。
(2)
鉛合金は環境上の問題から、工業的に使用することができないため、他の低融点合金として錫合金を用いて研究を行った。錫合金は鉛合金と異なり、ほぼ液相のみ状態しか存在しない。そこで、本研究者らは銅粉等の金属微粉末を分散補助剤として混入することにより、錫合金に金属微粉末が固溶する過程で擬似的に半溶融となる状態をつくり出し、プラスチック中に分散させることに成功した。
(3)
試作条件の適正化により、錫合金をプラスチック中に細かく連続して分散させ、体積固有抵抗が10-5Ω・cmオーダー(銅の約10倍、ハンダの約2倍)の高導電性プラスチックを得て、導電材としての利用できることを確認した。
(効果)
自動車部品や家電製品用の射出導電材料としての利用が期待

本新技術による高導電性プラスチックは、

(1)
導電率が高いため、通電材料として使用することができる。
(2)
射出成形することが可能である。
(3)
鉛を含まず、環境にやさしい。

などの特徴を持つため、

(1)
家電製品、自動車部品等におけるプラスチックケースとの一体配線
(2)
電気、電子機器等の3次元配線基板
(3)
スイッチ、コネクタ等の電子部品

などに利用されることが期待される。


This page updated on April 20, 1998

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