自動車のカム、シャフト等の鋼製機械部品の多くは、一酸化炭素雰囲気下で加熱する等により表面から炭素を拡散浸透させ、内部の靱性を保ちつつ、表面のみを硬化して強度や耐摩耗性を向上させている(浸炭)。浸炭は部品表面全体を処理すると靱性が劣化し、あるいは後工程における切削加工、溶接等が困難になる。このため、摩擦を受ける回転、摺動部分のみを浸炭し、その他の部分は浸炭防止材によりマスキングして非浸炭状態のまま残している場合が多い(浸炭防止)。従来、浸炭防止は、有機溶剤、樹脂に酸化硼素等の浸炭防止材料を分散させた浸炭防止塗料が用いられている。浸炭防止塗料は、刷毛を用いて塗布する場合が多いが、乾燥が必要で、そのうえ二度塗り、三度塗りすることも多く、工程が煩雑であるとともに自動化が困難である。また、有機溶剤を用いているため作業環境に問題があり、作業者の負担が大きい。更に、微細なパターンの浸炭防止膜形成も困難である。このため、これらの問題をなくした新しい浸炭防止技術が望まれている。
本新技術は、酸化硼素にポリエチレン等の熱可塑性樹脂、シリカ、アルミナ等の無機添加材を混練分散した粉体をレーザー照射、高周波加熱等により所望の部分のみに熱融着することで、鋼製部品を浸炭防止するものである。
浸炭防止膜形成に粉体を用いることについては、以下のような利点がある。
研究者らは粉体のこのような利点に着目し、粉体の組成や粒径等について研究、試作を行った。その結果、酸化硼素、ポリエチレン、少量のシリカ及びアルミナを混練分散した粉体を鋼製部品に熱融着させることで、良好な浸炭防止膜が形成できることを確認した。すなわち本新技術においては、350℃程度に加熱した鋼製部品に粉体を塗布、あるいは鋼部品に粉体を静電塗布後レーザー照射すると、ポリエチレンがバインダーの役割を果たし、融着膜が形成される。浸炭処理温度は一般に930℃前後であり、この温度域ではポリエチレンは熱分解して消滅し、融点が約450℃の酸化硼素を主とする無機物質がガラス状膜を形成する。このガラス状膜が浸炭防止効果を示す。また、酸化硼素のみのガラス状膜では浸炭処理時に膜が流れ、浸炭防止性能が低下するが、少量のシリカ、アルミナを添加することで高温での粘性を向上し、膜の流れを防止することができる。
本新技術による粉体を用いた浸炭防止方法は以下の通りである(図参照)。
本新技術は、
などの特徴を持つため、
などに利用されることが期待される。
This page updated on April 20, 1998
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