ロータリー型心室内血液ポンプ


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれる小型軽量で、より信頼性の高い補助人工心臓

 心筋梗塞や心筋症等の心不全により心臓の機能が低下した場合には、薬剤投与により症状の改善を図るほか、大動脈内バルーンポンピングによる補助循環等を行うが、重症患者では心臓の機能を補って必要な血流量を確保し、患者の病状緩和、あるいは救急患者の救命を目的として補助人工心臓が用いられている。
 現在使用されている補助人工心臓は、心臓と同じように拍動するポンプを空気圧等により駆動している。このポンプは主として心臓の外部にあり、人工血管を介して左心房から血液をポンプに導入し、動脈へ送り出す方式をとっている。また、ポンプの駆動装置等はコンソール型の場合、小型冷蔵庫程度の大きさのものを体外に置くような装置構成となっている。また、拍動型ポンプではポリウレタン等の高分子薄膜を用いたダイヤフラムやサックを動かすことにより血液を送り出しているため、ダイアフラム薄膜の耐久性向上や、ポンプ部への血液流入を制御している人工弁やダイアフラム結合付近に血栓が付着、凝固しやすいことも課題となっている。

(内容)
ロータリー型ポンプを用いた構造が簡単で信頼性の高い心室内血液ポンプ

 本新技術は、心筋梗塞や心筋症等の重症心不全患者の心臓機能を補助する血液ポンプに関するものであり、左心室心尖部より挿入したロータリー型ポンプが心室内の血液を吸引し、上行大動脈へ送り出す(図1参照)ことにより、血流量を確保しつつ心臓の負荷を低減し、患者の病状改善を図るものである。
 研究者は、ロータリー型ポンプは小型化が可能であり、かつ構造が簡単、流速が比較的早いため血液滞留による血栓発生が少ないことに着目し、左心室にポンプを挿入し血液を上行大動脈へ送り出す心室内血液ポンプを考案した。また、シール部等ポンプが血液に接触する部位の温度を50℃以下に保つことにより、血液凝固を抑制できることを見出した。また、長期安定性に優れるメカニカルシール(注1)の採用により血液の駆動部への流入を抑制でき、パージ液(注2)のポンプ内循環によるポンプの冷却効果等により血液凝固が防げることを明らかにした。
 本ロータリー型心室内血液ポンプは、モータと駆動軸、回転翼(動翼)、案内翼(静翼)、パージ液循環系等からなっている。ポンプの駆動軸は耐摩耗性に優れた動圧軸受(注3)により支えられており、先端部軸受けは回転翼部分とのメカニカルシールを兼ねている。パージ液はポンプの冷却とともにポンプ内に漏入した血液の凝固防止並びにモータ等の冷却を行い、体外にあるフィルタを通して不純物を除去しながらポンプとの間を循環する。システム全体としては、ポンプ・モーター部は体内に埋設され、電源ケーブル及びパージ液循環用チューブでつながっている制御装置並びに電源等は、体外の可搬型容器に納められる構成となる(図2参照)。
 本新技術による血液ポンプは、構造が簡単で信頼性が高い、血液滞留による血栓発生が少ない、小型軽量であるなどの特徴を有するものである。

(効果)
重症心不全などの治療への応用

 本新技術による血液ポンプは、

@ ロータリー型ポンプの採用により、ポンプが小型軽量で構造が簡単、血液滞留による血栓発生が少ない等、信頼性が高い。
A パージ液の循環とメカニカルシールとの組み合わせにより、駆動部内部への血液の漏入及び内部での血液凝固の危険性を低減できる。
B 左心室心尖部からポンプを挿入する手術方式のため、手術時間が短く患者の負担が少ない。

などの特徴を有し、

(1) 心不全治療用血液ポンプ
(2) 人工心肺用血液ポンプ

などに利用されることが期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 野田または出村までご連絡下さい。



(注1) メカニカルシール
回転軸の軸封部の漏れを回転リングと固定リングの滑りにより機械的に抑える機構。
(注2) パージ液
ポンプ内部を循環し、除熱及び漏入血液による凝固防止の役割を果たす液体。
(注3) 動圧軸受
回転軸(シャフト)を保持する機構であり、固定側軸受と回転側軸受の隙間を液体(この場合はパージ液)で満たし、回転側軸受の回転に伴い流体の粘性により軸受間に圧力が発生することを利用し、機械的に無接触で軸受となる方式。


This page updated on March 3, 1999

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