触媒CVDによるシリコン成膜装置


(背景)
望まれる高生産性、大面積基板対応の低温多結晶シリコン成膜技術

 半導体素子構造の製作において、基板や下層構造の過度の変形や損傷を避けるために、300℃前後の低温での薄膜堆積が求められることが少なくない。特に、廉価なガラス基板などの上に半導体素子を低温で形成する技術は、薄膜トランジスタで駆動される液晶ディスプレイの高度化や普及のため、さらには多様な機能をパネル上システムとして実現する新たな半導体技術の発展のために、要求が高まっている。
 従来の実用的な低温成膜プロセスとしては、原料ガスをプラズマ状態にして分解し、シリコンなどを生成・堆積させるプラズマCVDがあり、液晶ディスプレイの画素をスイッチングするための薄膜トランジスタは、シランなどを原料ガスとしてこの方法で成膜された非晶質シリコン膜により形成されている。しかし、各画素に配置されたスイッチング用薄膜トランジスタの占める面積を小さくして開口部の割合を大きくとって明るい画面を構成するため、あるいは制御回路も同一の基板に構成して、ディスプレイパネルをより薄く、信頼性の高いものにするためなどには、薄膜トランジスタを多結晶シリコン膜で形成することが必要となる。現状では、基板温度を高温にせずに多結晶シリコン膜を得るには、まずプラズマCVDで非晶質シリコン膜を形成し、熱処理でこの非晶質シリコン膜中の水素を追い出したのちにエキシマ・レーザを走査してシリコンを溶融して結晶化させる(レーザ・アニール)工程などが必要であり、大面積化や生産性の向上が難しい。このため、多結晶シリコン膜などを生産性よく、低温の大面積基板上に形成できる技術が望まれていた。

(内容)
原料ガスを加熱したタングステンなどの触媒体に接触させて反応種に分解し多結晶シリコンなどを直接、大面積基板上に形成する装置を実現

 本新技術は、原料ガスを加熱した触媒体により接触分解して成膜する触媒CVDを用いることにより、多結晶シリコン膜や低水素含有量の非晶質シリコン膜を直接、低温の大面積基板上に形成できる装置に関するものである。
 本研究者らによる触媒CVDは、タングステン線などの触媒体を備えた真空容器内で、触媒体に直接電流を流して加熱し、この触媒体越しに原料ガスを基板に向けて吹き付けることによって行われる。原料ガスとしてシラン(SiH4)ガスと水素(H2)ガスを用いることにより成膜可能であり、これは、原料ガスを1700℃程度に加熱された触媒体に接触させることで、シリコンの生成・堆積に必要なSiH3、 SiH2やHなどの反応種が生じる過程によるものとされている。本研究者らの研究によって、各原料ガスの流量比や圧力などの条件を選択・設定することにより、含有水素の少ない良質な非晶質シリコン膜や結晶性の高い多結晶シリコンが得られることなどが判明している。
 本新技術によるシリコン成膜装置は、大面積にわたって触媒体を張り巡らせることなどにより、大面積基板上への成膜が可能とした触媒CVD装置である。本装置は、触媒体と基板ホルダーを内包する真空容器、および原料ガスの導入や真空の保持の機構、基板と触媒体を加熱・温度制御する機構などから構成される。

(効果)
液晶ディスプレイ用薄膜トランジスタのシリコン成膜などへの利用が期待

本新技術は、

(1)
多結晶シリコン膜や水素含有量の小さな非晶質シリコン膜を低温の大面積基板に直接成膜できる、
(2)
プラズマを用いないため生成中の膜または基板へのイオン衝撃による損傷がない、
(3)
装置構造が単純で、装置の大きさや形状に対する制限が少ない、

などの特徴を有し、

(1)
液晶ディスプレイのスイッチングまたは制御用の薄膜トランジスタの製造におけるシリコン膜の形成プロセス
(2)
その他太陽電池などにおけるシリコン系半導体膜形成への利用が期待される。
(注1)
非晶質シリコン膜
ガラスと同様に結晶性をもたないシリコン(珪素)膜。アモルファスシリコンとも呼ばれる。
(注2)
多結晶シリコン膜
小さな結晶粒の集まりからなるシリコン膜。ポリシリコンとも呼ばれる。


This page updated on April 20, 1998

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