虚血性心疾患は、動脈硬化が要因となり、心筋に酸素を供給する冠状動脈に狭窄もしくは閉塞が起こることで血流が阻害され、胸痛(狭心症)や心筋の壊死(心筋梗塞)を引き起こすものであり、日本国内においてその増加は著しい。これらの疾患は、初期には全く無症状で経過し、ある程度病変が進行するまで臨床症状は出現しない。現在、虚血性心疾患の初期病変の診断は、高脂血症や糖尿病、高血圧、喫煙等のいわゆるリスクファクターの累積評価に依存している。一方、動脈硬化が進展して胸痛等の症状が既にみられ、虚血性心疾患の疑いが強い場合や発病後には、超音波ドップラー法等の血流動態検査法や動脈造影法等の観血的診断法等による診断が行われる。
近年、非侵襲的かつ操作方法が簡便な虚血性心疾患の診断方法として、血液中のリポ蛋白(Lp(a))の濃度をモノクローナル抗体を用いて測定する診断薬が市販されている。しかし、診断の確度に関する評価が大きく割れている。そのため、虚血性心疾患の初期病変をより的確に診断する方法の開発が望まれていた。
プロスタグランジンD2(PGD2)は、睡眠誘発をはじめ、血小板凝集阻害、眼圧調節、血管弛緩、気管支収縮等、多彩な生理機能を有する生理活性脂質である。プロスタグランジンD合成酵素(PGDS)は、生体内でのPGD2の生合成を司る蛋白質であり、主に中枢系や生殖系に存在することが明らかにされている。本新技術の研究者らは、ヒトの心筋細胞において活発にPGDSが産生され、それが血液中に分泌されていることや、正常な血管ではPGDSは産生されないが、動脈硬化巣では血管の平滑筋にPGDS産生が起こることを見出した。これは、動脈硬化巣では、血管内皮細胞の損傷により血管内壁に血小板が接着、凝集して血栓が生じやすい環境となるため、PGDSを産生して血小板凝集阻害機能を有するPGD2を合成し、血栓生成を抑える自己防衛反応が起きているからと考えられる。
これらのことから、血液中のPGDS濃度が虚血性心疾患診断の指標として利用可能であることが期待されている。本新技術の研究者らは、PGDSの構造を明らかにするとともに、PGDSに対し高い特異性を示す抗PGDSモノクローナル抗体を作製、選択し、認識部位の異なる2種類の抗PGDSモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法(2抗体酵素抗体法)によるPGDS測定系を構築した。そして、この測定系を用いて、狭心症患者の心臓の冠状動脈における狭窄部位でPGDSが盛んに分泌されていることを見出すとともに、この測定系が、末梢血液でも適用できること、他のリスクファクターの累積評価と比して確度よく虚血性心疾患を予測できることを確認した。
本新技術による診断薬の製造法及び測定法は、以下の通りである。
本新技術には、次のような特徴がある。
従って、以下の用途に利用が期待される。
This page updated on April 20, 1998
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