薬剤投与型高機能バルーンカテーテル


(背景)
望まれるPTCAの機能と薬剤の局所投与の機能を併せ持つカテーテル

 日本国内において心疾患の増加は著しく、その大半は狭心症や心筋梗塞等の虚血性心疾患である。虚血性心疾患は、動脈硬化等により心筋に酸素を供給する冠状動脈に狭窄もしくは閉塞が起こることで血流が阻害され、引き起こされるものである。
 虚血性心疾患の治療は、これまでは開胸してバイパス用血管を縫合する等の大がかりの外科的手術が必要であった。最近では、先端にバルーンがついたカテーテルを足の付け根から冠状動脈に挿入し、狭窄部でバルーンを拡張することにより、血管を押し広げる経皮的冠状動脈形成術(以下、PTCAと称す)が開胸を要さずより侵襲の小さい内科的治療法として盛んに施行されている。しかし、PTCAを施行しても、術後30〜40%の割合で血管内膜肥厚による病変部の再狭窄が生じ、血流が阻害される。そのため、PTCA施行を繰り返す必要があり、手術の施行回数の削減が求められている。このため、患者の負担の軽減を図りつつ、再狭窄を抑制できる術として、PTCAの機能と薬剤の局所投与の機能を併せ持つカテーテルの開発が要望されている。

(内容)
狭窄部の拡張術に加え、バルーンの拡張時に血流を確保でき、薬剤を患部により長い時間投与、滞留できるバルーンカテーテルを実現

 従来、二重のバルーンより構成され、内側のバルーンと外側のバルーンとの間の注入腔に薬剤を注入し、微細孔を通して薬剤を外側のバルーンの表面に滲み出させる仕組みのダブルバルーンカテーテルが開発されている。しかし、バルーンの拡張時は血流が遮断されるため、虚血による胸痛を引き起こす恐れがあり、狭窄部を押し広げるのに要する時間(約1分間)以上の薬剤投与ができず、充分な薬剤の投与効率が得られていない。
 本新技術の研究者は、バルーンを拡張させるためのルーメン(管腔)、薬剤を投与するためのルーメン、及び血流の流通とカテーテルの導入の役目を兼用する血液/ガイドワイヤルーメンの3つのルーメンを有する細径チューブをもとに、バルーンの手前側で血液/ガイドワイヤルーメンの側面に形成されたサイドホールや、バルーンの先で形成された薬剤流出口、及びカテーテル先端に位置する血液流出口を有するPTCAバルーンカテーテルを発案した(図1)。本カテーテルによる治療方法は、次の通りである(図2)。

(1)
従前のPTCA施行によりバルーンを拡張して狭窄部を押し広げる。
(2)
バルーンを収縮させて患部の手前まで引き、再度バルーンを拡張して血管を閉塞し、血流のデッドスペースを形成する。
(3)
血液をサイドホールから先端の開口部へ流して血流を確保する。
(4)
デッドスペースに位置する薬剤投与口より薬剤を注入し、バルーンと血液の流出口との距離をとることで薬剤を患部への治療効率が高まるまで滞留させる。

 この方法では、バルーンの再拡張により血流を遮断しても、カテーテル内の血液/ガイドワイヤルーメンが人工血管の役割を果たして血液を前方に流すために、虚血の恐れが少なく、薬剤投与に充分な時間(10分程度)が確保できる。これまでに、試作カテーテルによるシミュレーション実験及び動物実験を行い、バルーン拡張時での薬剤の滞留状態や血流の確保を確認している。本カテーテルは、PTCAのみならず、患部への薬剤の局所投与にも適用できる他、サイズをより小さくできれば、脳腫瘍や脳梗塞の治療への適用も可能となる。

(効果)
PTCA施行後にみられる再狭窄の抑制の治療効率向上が期待

本新技術によるバルーンカテーテルは、

1.
バルーンの拡張による狭窄部の拡張術とともに、薬剤投与治療が可能となる。
2.
バイパス通路を介して血流を確保できるため、薬剤をより長い時間滞留させることができ、PTCA施行後にみられる再狭窄の抑制の治療効率向上が図れる。

などの特徴を持つため、

1.
狭心症や心筋梗塞の虚血性心疾患の治療用PTCAバルーンカテーテル
2.
脳腫瘍や脳梗塞治療用具としての適用
3.
ガン等の患部への局所的な薬剤投与への適用

などへの利用が期待される。


This page updated on April 20, 1998

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