蛋白質、脂質、DNAといった生体高分子は自ら集合し、お互いにダイナミックに相互作用して、情報変換、エネルギー変換、複製など生命活動に重要な働きを担っている。このような生物分子システムは、人工機械では実現できないような高い自律性、柔軟性を示し、非常に効率よく働いているが、その仕組みはよく分かっていない。これまでの生化学的研究や構造学的研究による生体高分子の"役割"や"形"に関する知見に加え、実際の細胞の中で個々の生体高分子がどのように動作しているか直接調べる必要がある。
近年、生体高分子1個の動き、化学反応、構造変化や状態変化を直接観測する技術、ナノメーターの精度で操作する技術が開発され、分離精製された生体高分子の特性が解析されている。その結果、1個の生体高分子は動的に多様な構造をとり、また、入力シグナルに対しても環境に応じて多様な応答をすることが分かってきた。このような生体高分子の特性が、細胞などの生物システムの中の分子でも見られるのか、また、どのように機能と結びついているのかは分かっていない。さらに、このような生物分子システムには複数の多種分子が含まれ、それらが互いに相互作用しダイナミックに変化する複雑な系であり、詳細な実験データが得られたとしてもその理解にはかなりの困難が予想される。一方、このような複雑な系を理論的に扱う研究も大きく進展しつつある。
本共同研究では、システム化が深く機能と関連している細胞情報や遺伝情報の変換を担っている情報変換分子システムに注目し、計測と理論両面から生物分子システムのメカニズムの解明へアプローチする。計測では、生物分子システムの中で、生体高分子1個を見て操作する技術、例えば3次元空間で1分子を実時間観察する技術などを開発し、生物分子システムの中で働く個々の生体高分子の挙動、構造変化そして物理化学状態を実時間実空間でイメージングする。このようにして生体高分子のユニークな特性を明らかにするとともに、得られた実験データを基礎として実体に沿った理論を展開し、生体における情報変換分子システムの巧妙な動作アルゴリズムの解明を目指す。
本共同研究では、具体的に次の事項について研究を進める。
|
|
|
|
|
|
これらの研究を日本側からは主に計測によるアプローチを、イタリア側からは主に理論的なアプローチをし、双方から交流しながら行う。この結果、生体分子システムや細胞の研究に、時間・空間の軸が導入される。演劇に例えれば、"役者"を中心に研究してきた従来の分子生物学・構造学的手法に、それら個々の"演技"を実際に見る実験法(物理工学的計測法)と"劇"の内容を理論的に理解する手法(情報システム論)が加わることになり、生命科学の基本をなす生体高分子や細胞の研究にブレークスルーが期待される。
This page updated on April 20, 1998
Copyright© 1998 Japan Science and Technology Corporation.
www-pr@jst.go.jp