カルボキシ末端アミノ酸配列決定装置


(背景)
望まれる実用的なC末端アミノ酸配列決定装置の開発

 たんぱく質は20種類のアミノ酸がさまざまな配列で結合した鎖(ペプチド鎖)の構造(一次構造)を基本としており(図1)、一般的に数百のアミノ酸で構成されている。 一次構造のアミノ酸配列は、より高次の立体構造を誘起し、結果的にそのたんぱく質の形状や機能を規定する基礎となっているので、アミノ酸配列を決定することは、たんぱく質の研究には不可欠の作業である。たんぱく質のアミノ酸配列を知るには、たんぱく質の設計図と見なされる遺伝子の情報を基に推定する方法と、直接たんぱく質のアミノ酸配列を分析する方法がある。
 直接たんぱく質のアミノ酸配列を決定する方法として、特殊な試薬を用いた化学反応によりペプチド鎖の一方の端であるアミノ基側の末端(N末端)からアミノ酸を順に外して解析するエドマン法があり、この方法による自動分析装置(N末端アミノ酸配列決定装置)が開発・製造され、普及している。この方法では、N末端から最大50個程度のアミノ酸が決定できるが、一般にはペプチド鎖を一度に解析できないことや他方のカルボキシル基側の末端(C末端)側のアミノ酸配列はエドマン法では解析しにくいこと、さらには約半数のたんぱく質においてN末端が修飾されてエドマン法を直接適用できないことなどから、C末端からも解析する技術の確立が望まれていた。
 C末端に対してエドマン法に相当する分解反応の研究やその自動化も試みられてきたが、各分解サイクルでのアミノ酸誘導体の収率が低く、決定できるアミノ酸数や、微量試料への対応の面で必ずしも十分ではなかった。C末端からのアミノ酸配列の微量分析技術は科学技術会議の21号答申(「先端的基盤科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申、平成6年12月12日)にも開発すべき技術として指摘されていた。

(内容)
新規のオキサゾロン法によりC末端アミノ酸配列を高感度自動決定

 本新技術は、本研究者の研究成果である、たんぱく質に過フッ素酸を作用させることによりカルボキシ末端(C末端)のアミノ酸を逐次遊離し、これを蛍光物質等で修飾したのち分離・同定するオキサゾロン法を用いて、C末端アミノ酸配列を決定する自動分析装置(C末端アミノ酸配列決定装置)に関するものである。
 オキサゾロン法は、過フッ素酸によりC末端から順にアミノ酸が遊離する分解反応を制御し、1サイクルでC末端アミノ酸だけが遊離し、遊離したアミノ酸を分離・同定できるようにしたもので、分解のサイクルは(1)C末端アミノ酸をオキサゾロン誘導体に変換する脱水反応(環化)、(2)オキサゾロン環の開裂によりC末端アミノ酸を遊離させる反応(開裂)、(3)あとに残ったエステル化したたんぱく質ペプチド鎖のC末端を脱エステル化する反応(脱エステル化)の三つの化学反応からなる(図2)。この分解過程では、過フッ素酸による逐次分解反応は低温でも進むので、開裂・遊離を低温で行うことで高い収率が得られるため、決定できるアミノ酸の数が多くなる。また、アミノ酸が化学的な修飾のなされていない形で遊離するため、遊離したアミノ酸を蛍光物質などで修飾しやすく、高感度分析に適しているため、微量試料の解析が可能となる。
 本装置の主要部は、

(1)
たんぱく質の分解反応や遊離アミノ酸の修飾を行う本体反応部、
(2)
アミノ酸の同定を行う高速液体クロマトグラフィー(HPLC)部、
(3)
試料や試薬等の輸送や反応条件等を制御する制御部

よりなる。

(効果)
先端的な研究開発の基盤となる分析ツール

本新技術によるカルボキシ末端アミノ酸配列決定装置は、

(1)
たんぱく質のC末端アミノ酸を自動的に逐次遊離することによりC末端部分配列を直接決定できる、
(2)
遊離したアミノ酸を蛍光物質などのアミノ試薬で修飾することにより高感度分析が可能である、

などの特徴を有し、生物関連の先端的な研究開発において、微量たんぱく質の一次構造(アミノ酸配列)の決定に用いられ、分子生物学、医学・薬学への貢献が期待される。


This page updated on April 20, 1998

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