水溶性抗がん剤の乳化調製技術(肝癌用)


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
がん部位に沈着して全身に広がりにくい抗がん剤含有乳化物製剤の調製技術への期待

 肝癌の治療法の一種である肝動脈薬物投与療法では、水溶性の抗がん剤等を投与するが、抗がん剤が全身に広がるため、副作用を抑制するのが容易でないなどの問題がある。
 造影剤に用いられているヨウ素化ケシ油が、がん部位に沈着することが知られており、これを利用してヨウ素化ケシ油の液滴の中に抗がん剤水溶液の液滴が分散したW/O/W(水/油/水)型の乳化物製剤を調製し、がん部位に一定期間薬物を留める方法が検討されている。この方法を進めるためには、抗がん剤を含む乳化物の液滴が均一である必要があるが、攪拌法などの従来の乳化技術では、乳化物中の液滴の径が不均一で、径の制御も困難であり、乳化物の沈着、抗がん剤の放出の制御に限界がある。
 このため、肝癌治療に適した径の均一な液滴を含む乳化物製剤を調製する技術の実現が強く望まれている。

(内容)
シラス多孔質ガラス膜を用いた乳化法による抗がん剤を含む液滴径の均一な乳化物製剤の調製と肝動脈薬物投与療法への適用

 本新技術は、南九州に豊富に存在するシラスと、石灰、ホウ酸等を出発原料として得られる細孔径が均一なシラス多孔質ガラス膜を用いて、抗がん剤を含む水溶液とヨウ素化ケシ油からなる液滴径の均一なW/O/W型乳化物製剤を得、肝癌の肝動脈薬物投与療法に用いるものである。
 肝動脈薬物投与療法ではカテーテルを肝動脈中に挿入して肝臓付近で薬物を注入する。ヨウ素化ケシ油を肝動脈から注入すると、がん部位の血管内壁に沈着することが知られており、油性抗がん剤とヨウ素化ケシ油の懸濁物を投与する療法が実用化され、がんの部位にねらいを定めた薬物送達が可能となってきている。
 しかし、既存の抗がん剤のほとんどは水溶性であり、油性のヨウ素化ケシ油に高濃度で溶解させることは難しい。ヨウ素化ケシ油の液滴に抗がん剤水溶液の液滴を分散させたタイプの乳化物の調製が検討されているが、従来の攪拌法などの乳化技術では、乳化物中の液滴径が不均一であり、径の精密な制御が困難であり、乳化物の沈着、抗がん剤の放出の制御に限界があるなどの問題がある。
 新技術の研究者らは、細孔径が均一で径のサイズ制御が容易であるシラス多孔質ガラス膜を通して油性の液体を水溶液中に押し出すことにより、所望の径の均一な液滴を含む乳化物を得る技術に着目し、医療への応用について検討をすすめ、肝動脈薬物投与療法による肝癌の治療に適用できることを見いだした。
 シラス多孔質ガラスはシラスと、ホウ酸、石灰等を出発原料として得られる。シラスはそれ自身均一なガラス状物質であり、これを原料の一つとすることにより容易にガラス化でき、熱処理工程、酸処理工程等を経て細孔径がそろったシラス多孔質ガラスが得られる。
 新技術による抗がん剤含有乳化物製剤の調製、肝癌治療の内容は以下のものである。

(1) W/O型乳化物製剤の作製
水溶性抗がん剤、水、ヨウ素化ケシ油、乳化剤を混合、攪拌してW/O型(ヨウ素化ケシ油の中に抗がん剤水溶液の液滴が分散したもの)乳化物製剤を得る。
(2) W/O/W型乳化物製剤の調製
W/O型乳化物製剤をシラス多孔質ガラス膜モジュールを通して生理食塩水中に押し出すことにより、W/O/W型乳化物製剤を得る。この場合、生理食塩水中にヨウ素化ケシ油の油滴が分散し、この油滴の中に抗がん剤が含まれる水滴が分散した構造となる。
(3) 肝動脈薬物投与療法による治療
患者の股の付け根部分を切開してカテーテルを肝動脈中に挿入し、W/O/W型乳化物製剤を肝臓付近で注入する。乳化物中の液滴径は均一であり肝癌の治療に適した径に精密に制御できるので、乳化物の沈着、抗がん剤の放出を制御できる。したがって、がん部位以外への抗がん剤の分布を抑え、副作用を抑えることが可能となる。
(効果)
抗がん剤による全身性の副作用を抑えた効果的な肝癌の治療

 本新技術によるW/O/W型乳化調製技術(肝癌用)は、

(1) 各種水溶性抗がん剤を含むW/O/W型乳化物製剤を容易に調製し、肝動脈薬物投与療法により肝癌の治療を行うことができる。
(2) 乳化物中の液滴径は均一でありその径を精密制御できるので、がん部位の血管内壁への乳化物の沈着、抗がん剤の放出を制御することが可能である。
(3) がん部位以外への抗がん剤の分布を抑えることができるので、抗がん剤による全身性の副作用を抑制し、患者の身体的負担を軽減することが可能である。

などの特徴を持つため、 肝癌の治療に利用されることが期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8994 蔵並または湯浅までご連絡下さい。


This page updated on March 3, 1999

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