コラーゲン製眼科用手術補助剤


(背景)
望まれる手術後に除去しやすい眼科用手術補助剤

 現在、我が国では白内障の治療が年間50万件程度行われているが、そのほとんどは濁った水晶体を除去し、視力矯正用の眼内レンズを挿入する手術である。この手術では、角膜内皮を保護し、眼内レンズの挿入を安全かつ確実に行うために、粘弾性物質の手術補助剤を眼内に注入している。眼科用手術補助剤に必要な性質は、無菌的で非発熱性、非抗原性であるなどの医療材料の要件に加えて、十分な粘弾性がある、透明である、親水性で希釈可能であり、手術の終わりに洗い出せるなどの性質が要求される。現在、これらの性質を持ちあわせる眼科用手術補助剤の材料として、多糖類の一種であり、粘弾性に優れたヒアルロン酸が用いられている。しかし、手術後においては、かえって粘弾性が高いために完全に除去することが難しく、残留の可能性がある。この残留物が、副作用として眼圧上昇を起こす原因といわれており、完全に除去されていない場合、手術後数日間は眼圧上昇による眼痛や頭痛、眼のかすみが生じることがある。

(内容)
コラーゲンをアルカリ処理にて可溶化し、溶解工程で発熱性や抗原性の物質を除去して、体温付近で粘弾性が時間とともに低下する眼科用手術補助剤を製造

 コラーゲンは、飲料、食品や化粧品などの用途に実用化されているタンパク質資材である。また、生体親和性に優れる面から、抗原性を除去したアテロコラーゲンが、人工真皮や止血材等の医療材料として利用されている。しかし、眼科分野のような敏感な器官での用途に関しては、コラーゲン自体の抗原性の充分な除去に加えて、細菌等原料に混入する夾雑物に起因する発熱性を除去する等、安全面から最大の注意が必要とされる。
 研究者らは、コラーゲンの溶解工程にアルカリ処理を施すことにより、発熱性や抗原性をなくすことができ、中性で溶解し透明な溶液が得られることに着目した。また、コラーゲン分子は、熱によって急速に変性するのに伴い、粘弾性が低下する性質にも着目した。そして、アルカリ可溶化コラーゲンの粘弾性がヒアルロン酸と同等であることや、アルカリ可溶化により変性温度を体温付近に調整できることを見出すとともに、手術時には手術補助剤に必要な粘弾性を保持するが、時間の経過とともに体温により粘弾性が急速に低下し、手術終了時には除去が容易となることを見出した。
 本新技術は、アルカリ可溶化コラーゲンを眼科用手術補助剤に適用するものである。これまでに、動物実験により、前眼部手術補助剤に必要な性質である前房保持作用、角膜内皮細胞保護作用、及び前房注入における安全性が確認されている。

(効果)
白内障手術や角膜移植での補助剤としての利用が期待

 本新技術による手術補助剤は、

1. 粘弾性の低下が速いため、手術後の除去が容易である。
2. 製造工程で発熱性や抗原性の物質をほとんど除去でき、敏感な器官を扱うための安全性が要求される眼科分野に最適である。
3. 安価な製造が可能である。

などの特徴を持つため、

1. 白内障の手術における眼内レンズ挿入の補助と角膜内皮の保護
2. 提供角膜内皮の保護及び角膜移植時の前眼房の保護

などに利用されることが期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 野田または小泉までご連絡下さい。


This page updated on March 26, 1999

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