半導体用クラスターイオン注入装置


(背景)
望まれるpMOS作製における浅い接合技術

 MOSFETのうちpMOSでは、n型シリコン基板上のソース・ドレイン部に不純物としてボロンを注入したp型シリコン部分からなり、ゲート電圧でソース・ドレイン間を流れる電流のON-OFFを制御している。現在不純物を注入する方法としては、注入量及び注入深さの制御性が良いことからイオン注入法が用いられており、ボロンを含む低分子量のBF3分子をイオン化したB+又はBF2+イオンを数10kVの電圧で加速してシリコン基板に注入している。
 pMOSの高速化及び微細化のためには、ソース・ドレイン間の抵抗を低くするとともにゲート長を短くする必要がある。前者のためには、ソース・ドレイン部の不純物濃度を高くしなければならず、注入するボロン量も多くなり大電流のイオンビームが必要となる。一方、後者については、ゲート長の短縮にともない基板の深い部分で電流の漏れが生じる短チャネル効果が問題となり、それを抑制するためにソース及びドレイン部の極浅い領域にのみ不純物を注入し、pn接合を形成(浅い接合の形成)する技術が必要となる。浅い接合を形成するためには、ボロンが軽い元素であることから非常に低いエネルギーでイオン注入しなければならないが、低エネルギーのイオンビームは発散してしまい、十分な電流量を得るのが困難である。また、イオンを注入する際にイオンの衝突でシリコン基板に生じたダメージにより、イオン注入後行われる加熱(アニール)工程で、注入したボロンがシリコン内の広い範囲に拡散する現象(増速拡散)も不純物を極浅い領域に限定した浅い接合の形成を困難にしている。

(内容)
デカボラン等ボロンを含む質量の大きなクラスターイオンを用いたイオン注入により浅い接合を形成

 クラスターイオンビームは、数個から数千個の原子あるいは分子からなる集団(クラスター)をイオン化、加速したものである。クラスター内の原子、分子は互いに弱い力で結合しているため、クラスターイオンビームは固体表面に衝突した際にばらばらになり、原子一個当たりのエネルギーが非常に小さくなる、大量の原子を集中して打ち込むことができるなどの特徴を有するイオンビームである。
 本新技術の研究者は、ボロン原子を10個含むデカボラン分子(B10H14)を原料ガスとし、これをイオン化、加速してシリコン基板へボロンを注入することに着目した。その結果、現在ボロン注入用の原料ガスとして使われているBF3と比べて浅い領域にボロンが止まっていること、及びアニールを900℃で行った場合、ボロンの深さ方向の分布がほとんど変わらないことなどから浅い接合の形成に有効であることを明らかにした。さらに、そのようにして実効ゲート長0.15μmのpMOSデバイスを試作し、特性を評価したところ、短チャネル効果が抑制されており、電流駆動能力等について良好な性能を有することを確認している。
 本新技術は、n型シリコン基板にクラスターイオンビームにより低エネルギーかつ大量に不純物元素であるボロンを注入する装置に関するものであり、ボロンをシリコン基板の極浅い領域に注入することが可能である。

(効果)
ゲート長が0.1μm程度のpMOSの作製におけるイオン注入技術として利用

本新技術は、
(1)不純物元素をシリコン基板に高濃度で浅く注入することが可能である。
(2)クラスター内一原子当たりの電荷が小さく、イオン注入に伴う基板の帯電による素子破壊の危険性が少ない。

等の特徴を有し、ゲート長が0.1μm程度のpMOSの作製に必要な浅い接合を実現することが可能となり、半導体素子の微細化に寄与するものと期待される。

(参考)
 クラスターイオンビーム技術は、原子あるいは分子が数個から数千個からなる集団(クラスター)をイオン化したものを所望のエネルギーに加速し、固体表面に照射する技術である。特徴としては、従来のモノマーイオンビームと比べクラスター構成原子一個当たりのエネルギーが小さい、電荷一個で原子、分子を大量に輸送できることがあげられる。本技術は、イオン注入以外にもエッチングや薄膜積層など固体表面の加工技術としての応用が期待されている。


This page updated on March 26, 1999

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