金属磁性材料用反応性イオンエッチング技術


(背景)
望まれる金属磁性材料を対象とした反応性イオンエッチング技術

 半導体素子や磁気素子における微細加工技術は、一般にはリソグラフィー技術とこれに続くエッチング技術の2つのプロセスから構成されている。エッチング技術には、ウェットエッチング法と、低真空のプラズマを利用したドライエッチング法がある。一般に、後者は加工精度、プラズマの方向性による異方性加工の実現、マスクと被加工材料の密着性等において、前者より優れている。特に、プラズマ中にて反応性ガス(CF4、CCl4等)の活性種を被加工材料の表面に反応させて揮発性を有する反応生成物(CF4、CCl4等のハロゲンガスを用いた場合にはハロゲン化合物)を生成させ、これを基板表面から脱離させることによりエッチングする反応性イオンエッチング法(以下、RIEと称す)が、より微細な加工を実現できる技術として広く用いられ、シリコン超LSIをはじめとする各種半導体素子の微細加工プロセスにおける基本技術として大きな発展を遂げている。
  一方、半導体素子と並んで重要な磁性体素子についても、近年、高密度記録用の磁気記録媒体の高密度化や、磁気ヘッド、移動体通信機器用のコイルやトランス等のマイクロ化に伴って、より精度の高い微細加工の必要性が高まってきている。現状では、光リソグラフィーとウェットエッチングの組合せや、高電圧に加速したアルゴンイオンを真空中で被加工材料に照射しスパッタリング作用で物理的に削り取るアルゴンイオンミリング法が用いられているが、微細化や生産性等に限界があった。そのため、金属磁性体の加工ができるRIE技術の開発が要望されていた。しかし、半導体のRIE技術を、磁気ヘッドや磁気メモリ等に広く用いられるパーマロイ(Fe-Ni合金)など遷移金属元素を主成分とする金属磁性材料に直接適用しても、反応生成物である遷移金属ハロゲン化合物が基板表面から蒸発しにくいため、微細加工が困難であった。

(内容)
一酸化炭素ガスとアンモニアガスのプラズマを用い、金属磁性材料表面に蒸発しやすい遷移金属カルボニル化合物を生成させてエッチング

 本新技術の研究者は、遷移金属カルボニル化合物〔Fe(CO)5、Ni(CO)4、Co2(CO)8等〕が、遷移金属化合物の中でも蒸発しやすい化合物であることに着目し、一酸化炭素(CO)ガスのプラズマを用い、COの活性種により被加工材料の遷移金属表面で遷移金属カルボニル化合物を生成させ、真空中での蒸発作用あるいはスパッタリング作用によりそれを剥ぎ取るRIEを提案した。一般に、COガスはプラズマ中で炭素単体と二酸化炭素分子に分解する不均等反応が進行するため、COガスをプラズマ化してもCOの活性種が得にくく、かつ遊離した単体炭素が遷移金属元素と反応して遷移金属炭化物を形成し、磁性体表面を保護するため、エッチングが進行しない。同研究者は、アンモニアガス(NH3)が遷移金属の存在下でCOガスの分解を抑える作用を有することに着目し、COガスにNH3ガスを添加したところ、エッチング速さが増大し、金属磁性材料に対する選択性が向上することを見出した。また、異方的なエッチングがなされ、鋭い形状の細線格子が得られる等、本新技術が金属磁性材料の微細加工に有効であることを確認した。
 本新技術は、真空中にCOガスとNH3ガスを導入し、高周波で励起してそれらのプラズマを発生させ、その雰囲気中に被加工材料の金属磁性材料薄膜を置き、電界をかけることにより金属磁性材料のみを選択的にエッチングするRIEに関するものである。本新技術は、金や銅等の導電材料の微細加工にも有効である。本新技術によるRIEを行う装置の構成に、チタン等の耐エッチング性並びに耐真空性の金属材料を使用することにより、装置の腐食や被加工材料の汚染等の問題を防ぐことができ、金属磁性材料の超微細加工が可能となる。

(効果)
磁気ヘッドや磁気集積回路等における金属磁性材料の微細加工技術としての利用

 本新技術は、

(1)磁性合金等の遷移金属の選択的な超微細加工が可能となる。
(2)エッチング速さが大きくエッチング処理工程に要する時間が少ない。
(3)被加工材料の表面に垂直方向にエッチングする異方性加工が可能となる。
(4)被加工材料に与える結晶学的損傷の程度が小さい。

等の特徴を有し、磁気ヘッドや磁気メモリ、磁気集積回路の製造、及びマイクロモーター、 マイクロアクチュエーター等微小機械の製造における微細加工技術としての利用が期待される。


This page updated on March 26, 1999

Copyright© 1999 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp