(資料5)

戦略目標



戦略目標:情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築(平成15年度設定)
1.名称
情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築

2.具体的な達成目標
量子力学的もつれ効果を活用することにより超高速計算や大容量通信を行うことを可能とする量子情報処理の実現を目指し、光子、電子スピン、核スピン等を用いた量子情報処理素子の研究開発を行うとともに、アルゴリズムや回路、システムも含めた包括的な研究開発を同時並行的に行い、競争的環境下において実施することにより、最も有効なアプローチを抽出し、量子情報処理技術の実現を支える技術基盤を構築すること。
量子情報処理技術の実現に向けた量子デバイスの研究開発(高性能化・多量子ビット化、長寿命化・安定化)
量子情報処理技術の実現に向けたアルゴリズム、システム等の研究開発

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
「量子重ね合わせ」現象を利用して多数の計算を同時に行い、全体として超高速の計算を実現する量子情報処理技術の確立は長期的課題ではあるが、その実現のあかつきには、情報通信分野における大きな革新をもたらすものである。具体的には、現在のスーパーコンピュータで何年~何十年もかかる医薬品や高機能ナノ材料などの構造・性能のシミュレーション、通信のセキュリティの究極的な確保、複雑な暗号を解読するような膨大な計算を瞬時に完了することができると言われている。
本技術の研究開発については、長期的課題であるものの、現在欧米豪の三極で既に大規模プロジェクトが立ち上がり、競争が激化している。我が国においてもこれらの国に遅れをとることなく組織的に取り組まなければ、海外に基本特許等を押さえられるなど、本分野における国際競争力の弱体化といった弊害が想定される。
量子情報処理技術の実現に向けた取組みについては、現段階では非常に基礎的な段階であり、不確定な要素も多いが、量子コンピュータの開発に必要な要素技術の開発により、新たなIT関連市場の創出も見込まれる。
以上のことから、我が国においても、本技術の開発について早期に国家的に取り組む必要がある。

4.目標設定の科学的裏付け
量子情報処理技術の実現に向けた取組みとしては、構成単位となる量子ビットを実現するデバイスの開発が行われており、現段階では、単量子ビットを実現する素子から多量子ビットを実現する素子の開発にまで至っており、この素子を用いた量子もつれ合いの解明が行われつつある。
量子デバイスを用いた量子情報処理技術の実現のためには、デバイスの多量子ビット化及び長寿命化とともに、演算を行うための新しいアルゴリズムの開発が必要であり、これらを組み合わせ、基本的な論理演算を行う素子を実現することが当面の目標とされている。
上記のように、量子デバイスの開発については、基礎的な段階とはいえども方向性が見えてきた段階であり、今後、集中的・戦略的に取り組むことにより、大きなブレイクスルーが期待される。
量子情報処理実現のための基盤技術の開発は、本分野において国際的なイニシアティブを取ることにつながることから、国際的にも競争が激化しており、海外においては国家的な取組みがなされようとしている段階である。
我が国においては、各研究機関において独自に取組みが行われている状況であり、こうした状況を踏まえると、我が国としても、国家として戦略的に取り組む必要がある。
また、本分野では長期間にわたる研究開発を必要とすること、また、本分野の研究開発が現在若手の研究者を中心として実施されていることから、次代を担うべき若手研究者を活用して研究開発を実施していくことが重要な鍵となる。
以上のことから、複数のアプローチを同時並行的に競争的環境下で進めることにより、最も有用なアプローチを抽出し、世界に先駆けて量子情報処理の基盤技術を確立することが肝要である。さらに、若手研究者の活用にも重点を置く必要がある。

5.重点研究期間
平成15年度から平成17年度までの3年間にわたり、新規研究課題の募集を実施し、研究期間は1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を挙げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戦略目標:教育における課題を踏まえた、人の生涯に亘る学習メカニズムの脳科学等による解明(平成15年度設定)
1.名称
教育における課題を踏まえた、人の生涯に亘る学習メカニズムの脳科学等による解明

2.具体的な達成目標
教育における課題に対して、脳科学をはじめ関係する諸科学による貢献を目指すという観点からの対話・交流を進めつつ、以下の項目の中で特に社会的要請の強いものを対象に研究を実施する。
 なお、ここで言う「教育」とは、人の胎児期を含む生涯を通じた教育、即ち、乳幼児教育、小・中・高等学校教育、高等教育、高齢者教育、また、職業人を対象とした新たなスキル習得等のための能力開発や再教育、さらにはリハビリテーション、語学教育、芸術教育、体育等を包含した広義の概念として取り扱うものである。
胎児期・乳児期・幼児期における脳機能発達の解明。特に環境が及ぼす影響、シナプス過剰形成と刈り込み、可塑性と臨界期・感受期、機能統合、言語発達、髄鞘化と機能発達の関係等の解明
児童期・青年期における、教育・学習の方法、記憶や注意のメカニズム、学習の意欲や動機付け、創造性等に関する脳機能、共感性、学習・行動の障害と脳機能の発達の関係等の解明
成人期における、能力開発・再教育の方法と脳機能との発達の関係の解明、及びストレスが脳機能に与える影響の解明
高齢期における、健やかな脳機能の保持及び損傷を受けた脳機能の回復メカニズムの解明
上記のための研究・計測方法論の開発

 なお、将来的には、これらの研究の成果を踏まえた脳機能と学習メカニズムの関係に関する知見の蓄積により、育児や学習指導に関する重要な考え方を確立するとともに、教育における課題を踏まえつつ、成果を育児や教育の現場をはじめとする様々な場に提供することを目指す。

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 ITをはじめとする科学技術の加速度的な発達による生活様式の変化やコンピュータ上でのバーチャル体験の普及、少子高齢化や食生活の変化等、現代社会における生活環境や社会環境は大きく変容してきている。このような環境の急激な変化を踏まえ、社会経済の発展基盤である人の知性と感性が健やかに育まれ、人が本来有する能力と個性が適切に発揮できるように、新たな視点からの研究が必要である。

 また、これまでは、例えば言語獲得の臨界期・感受期に関連した教育・学習の時期に関する課題や、学習・行動障害のような教育の現場において生じている問題に対して、児童心理学や教育心理学の知見及び教育現場において蓄積された知見を活かすことによる取組みがなされてきた。一方で脳科学からの知見の蓄積が進んできていることから、その蓄積に基づいて、教育関係者が長い経験によって得た暗黙知を顕在知とすることにより、育児や学習指導に関する重要な考え方が得られると強く期待されている。

 このように新たな知識が急速に蓄積されつつある脳に関する研究を、認知科学、心理学、社会学、医学及び教育に関する研究と架橋・融合し、従来の脳科学や教育学とも異なる新分野の研究として実施することにより、将来に向けて、教育の改善に繋がる可能性が考えられている。

4.目標設定の科学的裏付け
 脳の発生初期の神経細胞分化や回路形成メカニズムに関する研究は、分子生物学的手法が非常に有効なこともあり、我が国でもこの領域の研究は著しく進展し、既に多くの知見が得られている。また、近年、人を対象とした脳機能の非侵襲計測が可能となり、分子生物学、医学、行動学、心理学、工学等を基盤とした脳に関する研究の進展と相まって、脳科学は飛躍的な発展を遂げており、教育学、社会学、医学、言語学等の広範な分野に亘る研究を架橋・融合した研究を進めることが可能な環境が整備されつつある。
 また、OECD(経済協力開発機構)のCERI(教育研究革新センター)においても、1999年より「学習科学と脳研究(Learning sciences and brain research)」に関するプロジェクトを開始しており、2002年4月から着手した第II期プロジェクトでは、幅広い分野の専門家により、脳の発達と生涯に亘る学習(日本による調整)、脳の発達と算術能力(英国による調整)、脳の発達と読み書き能力(米国による調整)に関する研究ネットワークが構築されている。

5.重点研究期間
平成15年度から平成17年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を挙げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戦略目標:がんやウィルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立(平成14年度設定)
1.名称
がんやウイルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立

2.具体的な達成目標
2010年までに、免疫反応、がん転移などに関与する「糖鎖」及び糖鎖関連生体情報分子の探索及びその機能解析による情報伝達のメカニズムを解明し、副作用のないがん治療薬(がん細胞だけを特異的に攻撃する治療等)、各種ウイルス・バクテリア感染症の治療・予防薬(ウイルス・バクテリアの標的となる糖鎖を改変するなどによって感染を防止)、糖鎖の制御による遺伝子治療、免疫機能調整等の効率化などを実現することを目指して、以下を達成目標とする。
細胞内及び細胞間ネットワークの情報伝達系可視化、超微量解析技術の開発
機能分子及び情報伝達分子の特定と機能修飾の解析
生体膜構造と情報伝達の関連解析
脳神経等における機能分子、形態形成・分化関連分子の機能修飾及び輸送・動態の解析

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
ヒトゲノムの解析がほぼ終了し、ゲノム情報を活用したポストゲノム研究として、タンパク質の構造・機能解析や、遺伝子多型研究などの国家的なプロジェクトが進行しつつあるが、それとともに遺伝子やタンパク質のみでは表現できない多様な生物シグナル伝達物質として、「糖鎖」をはじめとする生体情報分子の意義が強く認識され、その機能発現のメカニズムを解明する重要性が高まってきている。
また、各種疾患は、生体情報分子の介在により、何らかの異常が細胞内に取り込まれることによって生じ、そのメカニズムの解明が、病気の予防・治療に貢献するなど、幅広い応用が期待される。
このため、今後は糖鎖の基礎的研究における我が国の強みを一層発展させ、新規医薬品等の開発につながる糖鎖の機能解析を推進するとともに、革新的な解析技術を開発することが重要である。

4.目標設定の科学的裏付け
(1)科学的裏付け
糖鎖はタンパク質及び脂質等に結合して、細胞間の認識や相互作用に関わる働きをもち、がん、慢性疾患、感染症、免疫・脳・発生などの異常、老化などに関わっている。例えば、細胞ががん化すると糖鎖の構造変化が起こることが分かっている。
また、コレラ菌、O-157などの有毒性腸細菌やインフルエンザウイルスなどは、細胞の特定の糖鎖を認識し結合することにより、細胞に侵入し感染することなどが知られている(このことを利用してインフルエンザの症状を劇的に軽減する薬が開発されている。)。
がん、腎臓病、免疫疾患、感染症等に対する医薬品等の開発の重要なターゲットとなるタンパク質の多くは、特定の構造の糖鎖が結合していないと機能せず、あるいは、構造解析に必要な結晶化に困難をきたすので、ゲノム創薬を実現するためには、標的となるタンパク質の構造・機能解析を的確に行うには、適切な構造の糖鎖をタンパク質等に結合させることが必須であることから、糖鎖機能の解明を行うことは極めて重要である。

(2)我が国の研究能力及び海外の動向
糖鎖は、遺伝子やタンパク質に比べ解析が困難なため、主要生体高分子としての重要性を早くから認められていながら研究者の数が少ない領域であったが、我が国は伝統的にこの領域の研究を進め、世界をリードしてきた。
糖鎖の合成に関与する遺伝子はヒトでは約300個あると予測されているが、これまでに発見されている約110個の半数は日本人の手によるもの(米国は約3割、残りは欧州)。特許においても5割以上を日本人が出願している。
我が国では、10年以上前から他国に先駆けて糖鎖の機能研究を推進してきた経緯があり、今日、複数の世界的な研究拠点が形成されつつある。
また、脳神経、免疫系などの発生・再生過程及び異常症と糖鎖についても、大学等における多数の研究者が存する。
米国NSFは昨年9月報告書を発表し、その中で日本の糖鎖研究の先進性を指摘するとともに、糖鎖研究をポストゲノム研究の中心分野の一つとして位置付け、研究開発の促進を提言した。また、NIH(国立衛生研究所)では5年間で約44億円をかける糖鎖研究のプロジェクトを昨年9月から既に開始しているなど、米国においても糖鎖研究に対する取り組みが強化されつつある。
本目標の達成に向けた研究開発を推進するのに必要な基盤的な成果が現在生み出されつつあり、科学的ポテンシャルがある。ただし、近未来のゲノム創薬等を目指してさらに十分な科学的ポテンシャルを増すことが重要。

5.重点研究期間
平成14年度から平成16年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を上げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戦略目標:個人の遺伝情報に基づく副作用のないテーラーメイド医療実現のためのゲノム情報活用基盤技術の確立(平成14年度設定)
1.名称
個人の遺伝情報に基づく副作用のないテーラーメイド医療実現のためのゲノム情報活用基盤技術の確立

2.具体的な達成目標
2010年代において、ゲノム情報を活用した合理的な手法による創薬や、そうした手法により開発された薬剤をより効果的に人に適用するため、個人の遺伝情報に基づく、副作用のない効果的な個人に合った医療(テーラーメイド医療)の実現等を目指し、そのために必要となる基盤技術を開発することとし、以下を達成目標とする。
高速かつ安価に個人のゲノム情報(SNPs)を解析することが出来るシステムの実用化のための基盤技術の開発
例えば、現在100%外国技術を使用しているSNPsの解析技術(現在は、インベーダー法(米国TWT社)、TaqMan法(ABI社)、MALDI-TOF法(米国数社)が使用されている)について、
100%の解析精度を実現し、かつ解析速度を現在よりも1桁(現在、1億タイピング/年)上げ、コストを2桁(現在1SNPあたり、100-200円程度)程度下げるための我が国独自のSNPs解析技術の開発及びその高度化
日本人固有の疾患遺伝子型の特定と創薬のための技術開発
例えば、日本人のゲノム配列と外国人のゲノム配列のわずかな差の比較による、薬剤感受性、感染症への抵抗性、生活習慣病の環境要因、がん・アルツハイマー病等に関する日本人固有の疾患遺伝子型の解明に決定的な情報の迅速な取得、及び同情報を活用した効果的かつ効率的な創薬のための技術開発

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
21世紀は、世界各国で高齢化が進み、特に我が国においては世界に例を見ない速度で高齢化社会を迎えることが予測されている。このような状況はかつて経験したことのないものであり、高齢化社会にどのように対応していくかという問題は、人類の直面する大きな課題。
また、人口構成の高齢化の進展とともに、生活習慣病をはじめとする各種疾患の増加等により、医療費の社会的な負担の増や、少子化による労働生産力の低下等が問題となりつつある。
このため、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握することで、個人個人に合った副作用のないテーラーメイド医療を実現し、患者個人の精神的・肉体的負担を大きく軽減するとともに、
医薬品の副作用の減少による医療費の大幅な削減
(米国では副作用により派生する医療費は9~10兆円にも達するものと推定されている)
効果的な治療による死亡率の低下、入院期間の短縮
疾病にかかる期間の短縮による労働生産性の向上
 を達成することは、社会的、経済的ニーズが極めて大きいことから、あらゆる手段を用いて早急に実現する必要がある。特に、現在は米国において確立された手法、試薬によりSNP解析を行っているため、膨大な特許料を支払う必要がある。このため今後は我が国発の技術を開発し、国際競争力を確保する観点から、高速かつ安価に個人のSNPsを解析するための基盤技術の開発や、比較ゲノムによる日本人固有の疾患関連遺伝子型の特定による創薬開発を推進することが極めて重要である。

4.目標設定の科学的裏付け
ゲノム研究からポストゲノム研究へ
平成12年6月のヒトゲノム塩基配列概要解読終了。平成13年2月に概要解読の解析結果が公表。我が国は国際ヒトゲノムコンソーシアムの一員として約6%の貢献。
平成13年度中にヒト遺伝子領域における約20万箇所の標準SNPsの位置を同定。現在、ミレニアム・プロジェクトなどにより体系的な疾患遺伝子探索の研究が進行中。
我が国の有する遺伝子多型の解析能力は現時点では世界最速であるとともに、保有するSNPタイピングデータ量についても欧米をしのいでいる。
日本75,000カ所 約5,500万SNPタイピングデータ
欧米5大センターの合計60,000カ所 約600万SNPタイピングデータ
また、大学、理化学研究所等に豊富な研究人材が存在する。
本目標の達成に向けた研究開発を推進するのに必要な基盤的な成果が生み出されつつあり、科学的ポテンシャルがある。ただし、近未来のゲノム創薬等を目指してさらに十分な科学的ポテンシャルを増すことが重要。

5.重点研究期間
平成14年度から平成16年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を上げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戦略目標:医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立(平成14年度設定)
1.名称
医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立

2.具体的な達成目標
計算機内で微視的(ミクロ)現象から巨視的(マクロ)現象までを統合的に解析することで、 2010年頃を目処に、物質材料・デバイス等の原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計開発や、細胞内タンパク質の挙動解析、生体機能シミュレーションによる高度治療等を可能とする、統合解析シミュレーション技術の実用化を目指し、以下を達成目標とする。
マルチスケール・シミュレーション技術の確立
マルチフィジックス・シミュレーション技術の確立
熱、構造、流体、化学反応、電磁気的現象等の連成現象(マルチフィジックス現象)を統合解析できるマルチフィジックス・シミュレーション技術の確立。
ネットワーク上に分散した多数のソフトウェア・データベース等を有機的に統合し、複雑問題を解析するシステム構築手法(データベースシステム技術等)の確立
―ネットワーク上に分散した大規模データに自由にアクセスし、データを収集・分析可能とするデータベースシステム技術の確立。
―複雑現象が連成して同時並行的に生じる事象の並列シミュレーション技術(タスク並列技術、収束化技術 等)の確立 等。
革新的アルゴリズムの開発
逆問題解析、高速最適化計算手法(収束化技術等)の確立 等。

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 近年のコンピュータ、ネットワークの驚異的進歩を背景に、ミクロ現象からマクロ現象にいたる多様な現象を統合的に解析できる技術が確立すれば、ナノ材料や生体高分子機能等を物理化学の法則に基づき正確に把握でき、開発に精密性が求められるナノデバイス設計や精度の高さが恒常的課題として求められる最適治療が可能になる等、医療・情報産業における精密製品設計・高度治療等の飛躍的発展を実現できる。これにより、研究開発や医療現場における高い成功率・スピード化を実現し、ナノ、バイオ市場の拡大速度を加速するとともに、製品化に至るまでの開発ステップの簡略化、治療期間の短縮化等による時間的・経済的な効率化が図られる。また、高度なシミュレーション技術には、スパコン、サーバー、データベース等の計算資源をネットワーク上に共有化するための技術開発や環境整備が不可欠となることから、次世代のIT基盤への貢献も期待でき、社会的・経済的な波及効果は極めて大きいと考えられる。
 以上の理由から、当該目標の達成に向けた研究開発を推進することに対し、社会的、経済的要請が大きいと判断した。

4.目標設定の科学的裏付け
 シミュレーション技術は、従来の理論、実験とは異なる新しい研究手法を実現し、科学技術のブレークスルー・国際競争力の強化に資する基盤技術として、その重要性が高まっている。欧米では、従来から積極的な取組みが進められており、特に、米国では、ASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)プロジェクト(※1)等の国家プロジェクトの中で、コンピュータの高速化とともにシミュレーション技術の研究開発が集中的に行われている。
 また、現在のシミュレーション技術は、流体や構造の特定の物理現象の解析、量子化学計算に基づくミクロ現象の解析、古典論に基づくマクロ現象の解析等に止まっており、ミクロからマクロにいたる多様な現象を統合的に解析できるシミュレーション技術は確立されていない。
 我が国は、実用シミュレーションソフトウェアでは大きく遅れを取っているものの、研究者の基礎的研究の水準では、欧米と互角、一部では優位な分野もある。例えば、量子化学計算を用いたタンパク質の機能・構造解析では、我が国は100残基(1500原子)以上の大規模タンパク質の電子計算に成功して世界をリードしており、循環器系の血流のシミュレーション技術では世界の最高水準にある。更に、新しいアルゴリズムや並列計算技術等の研究も進めらており、タンパク質の機能解析等、特定の研究テーマにおいては、統合シミュレーション技術の研究も取組まれはじめている。
 また、地球シミュレータの本格的運用やスーパーSINETの整備が進む等、必要なハードウェアの環境が整いつつあるとともに、Grid技術等、ネットワーク上の計算資源を共有化するミドルウェア技術の研究も急速に進展している。
 以上の理由から、当該戦略目標の達成に向けた研究開発を推進するために十分な科学的ポテンシャルがあると考えられ、当該目標の下、国内の最高峰の研究者の総力を結集し、研究の体系的取組みを行うことで、技術の飛躍的進展が期待できる。
(※1) 1994年~2004年の10年間に約1,400億円を投入し、超並列コンピュータの実現と大規模シミュレーション技術等開発を目標とした米国家プロジェクト。

5.重点研究期間
平成14年度から16年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題は、概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を挙げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戦略目標:非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製(平成14年度設定、平成15年度一部追加)
1.名称
非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製

2.具体的な達成目標
DNA、タンパク質などの生体分子の動作原理等を活用した各種の機能性材料、生体適合性材料、バイオデバイス、システム等の開発及び、ナノマシンテクノロジー技術を活用した細胞手術、遺伝子治療システム、バイオアクチュエーター等の開発に向けた技術の確立を目指す。
 このため、2010年代に実用化・産業化を図るべく、以下のような成果等を目指す。
人間の五感に匹敵する又は五感を超える感度を持つ高感度な外場応答材などによるインテリジェントなセンサ技術の開発及び、情報処理機能を持つ使い易いマンマシンインターフェースとして、高感度かつ知的なセンサの開発
ドラッグデリバリーの標的精度を単一細胞レベルにまで高めるとともに、細胞・遺伝子治療の要素技術の開発を通じた、ナノテクノロジーを設計基盤とする安全・無痛・高効率医療効果を得るトータルなシステムの提案
タンパク質分子やその複合体が関与する生体内反応を手本に、分子構造及び分子間相互作用の柔軟な変化を利用した、素子自体が状況を判断して最適な動作をするナノソフトマシンの開発
遺伝情報に基づいて生体が行うようなプログラムに基づく自己組織化現象によるナノ構造制御の物質・材料構築技術の探索を通じた、生体を超える分子モーター、分子デバイス、五感センサ、脳型デバイス等の人工生体情報材料の開発

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 経済のグローバル化と国際競争の激化等に伴う産業競争力の低下、雇用創出力の停滞といった現下の経済社会の課題を科学技術、産業技術の革新により克服し、我が国の産業競争力を強化し、経済社会の発展の礎を着実に築くことが不可欠である。このような革新的な科学技術、産業技術の発展の鍵を握るものとして、ナノレベルで制御された物質創製、観測・評価等の技術であるナノテクノロジーが、近年急速に注目されている。
 具体的には、
 新たな医療システムとして期待の高い極小システムの構築が急がれる一方、
 ライフサイエンスとナノテクノロジー、電子技術などとの融合等が、次代の科学技術革命を拓くものとしての期待が高い。
 また、これらの実用化・産業化の目標を達成するためには、ナノレベルでの計測・評価、加工、数値解析・シミュレーションなどの基盤技術開発や、革新的な物性、機能を有する新物質創製への取組みが必須である。
 なお、総合科学技術会議分野別推進戦略(平成13年9月)においても、ナノテクノロジー・材料分野においては、国家的・社会的課題の克服のため、「医療用極小システム・材料、生物のメカニズムを活用し制御するナノバイオロジー」が5つの重点領域の1つとして位置づけられているところである。

4.目標設定の科学的裏付け
 創薬、再生医療等の医療への応用が期待されるライフサイエンス分野において、ゲノム技術の活用、疾病予防・治療技術開発、生物機能を高度に活用した物質生産、食料科学・技術開発等に加えて、新たな技術や手法の開発が求められており、そのためにナノテクノロジーの利用が不可欠である。
 このようなナノバイオテクノロジーは、米国においては、2000年からCornell大学を拠点として、Nanobiotechnology Centerプロジェクトを開始している他、英国でも、オックスフォード大学、グラスゴー大学を中心としたナノバイオテクノロジーへの総合的な取り組みが開始されている等、昨今、欧米における取り組みの強化が目立つ分野である。ナノバイオテクノロジーについては、バイオテクノロジーと物理、ナノテクノロジー、電子技術などの融合が次代の科学技術革命を拓くものとして期待が高く、我が国においてもこのような新たな分野において、世界のトップを目指すべく、緊急かつ戦略的な取り組みを開始すべき領域である。
 具体的には、
高感度かつ知的なセンサーに関しては、情報を検知するセンサーについての開発は進んでいるところであるが、さらに多様な情報を超高感度で検知し、情報を処理伝達できる知的センター及び材料の開発が重要度を増している。
IT化医療に関しては、個々のDNA分子に対して自由に人工操作を加えるトップダウン型ナノテクノロジー的方法の開発が急務であるとともに、ドラッグデリバリーシステムとしては、高度なターゲット制度、放出医薬のモニター方法、ナノマニピュレータの開発が待たれている。
ナノソフトマシンについては、既に個々のタンパク質の動態を観察、操作し、分析するための1分子テクノロジーはほぼ確立しているが、これを発展させ、細胞内での個々の生体分子複合体レベルでの機能解明と相互の分子の作用ネットワークのメカニズムの解明及びその医療応用等への取り組みが求められている。
プログラム自己組織化については、最近では複数の分子種を構造制御しながら配列しようとする研究がなされているところであるが、人工分子を機能デバイスとして発展させていくためにより高密度に集積するとともに、集積した機能物質を利用したセンサー、メモリー等の開発等が求められる。

5.重点研究期間
ナノテクノロジー分野については、競争が激しく多くの研究領域を推進する必要があるため初年度のみの公募とし、次年度以降には新たに同じ研究領域での公募は行わない。1研究課題は概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果をあげている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)
 (以下、平成15年度に追加)
 基本的には、初年度(平成14年度)のみの公募としていたが、特に緊急性の高い研究課題については、限定的に2年度目についても少数の課題に限り公募する。


戦略目標:情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製(平成14年度設定、平成15年度一部追加)
1.名称
情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製

2.具体的な達成目標
2010年に訪れると予想されている現方式のシリコン集積回路の微細加工限界(ムーアの法則の限界)を越えた、次世代の情報処理・通信を担う新たな情報処理・通信用デバイス・材料・システム開発をめざす。この際、シリコン基板及び非シリコン基板の双方の取組みを実施する。
 また、これらデバイス・材料・システムを活用するためのインターフェースとしても有用な各種センシング技術(最先端的計測法・先端センサー素子とセンサー管理システムの開発等)による健康・環境計測法の実現を目指す。
 これらの目標達成のため、革新的な物性を有する物質創成からデバイス・システム開発までの総合的な推進を目指す。
 このため、2010年代に実用化・産業化を図るべく、以下のような成果等を目指す。
現在の半導体よりも演算速度を2桁向上するとともに、消費電力を2桁以上低減する情報通信用デバイスの探索。
革新的なナノ素材とナノプロセスの開拓、新機能・新特性を持つ超集積素子の実現及び、医療応用・障害克服などに貢献するための集積システムの生体親和性の飛躍的向上。
革新機能を付与した単一分子の合成及び高度集積化法の開拓等、機能分子を望むように集積して回路を形成する技術の確立及び分子デバイスシステムへ応用
ナノメモリーの原理・素材・方式の解明を通じ、現在のハードディスクの記録密度の1000倍程度の記録密度を目指す。
固体量子ビット素子、超伝導系量子磁束素子、相関電子素子、相関光子素子、スピン制御素子、ナノチューブ・ナノワイヤ素子等、新原理素子の探索及び技術的な壁の打破
大容量・超高速の光通信技術に必要な光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示などへの革新につながるナノ構造フォトニクスや材料の開発を通じた次世代光技術の創製
バイオ分子の自己組織化を利用したナノスケールの新素子、新材料の創製を通じた高集積バイオチップの開発
半導体、酸化物や磁性体中の電子の持つもう1つの自由度であるスピンを電子デバイスにおける新しい自由度として積極的に活用した、新しいナノ構造を利用したスピンエレクトロニクス材料の探索・創製
超分子を用いたバイオナノ超分子センサー、導電性超分子スイッチング素子、ナノマシンなどの分子デバイス、ナノ材料の開発
フラーレンの集積化、ナノデバイスへの応用に不可欠なCNT超微細加工技術、コンポジット材料開発
フラーレン、ナノチューブに次ぐ新たなナノ集合体材料の創製と開発を通じたクラスター・ナノ粒子集合体をベースにした素子の実用化
従来は全く異なる物質・材料として扱われてきた有機物質と無機物質とをナノスケールで融合させた構造を持つ全く新しい物質・材料群による素子の開発

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 経済のグローバル化と国際競争の激化等に伴う産業競争力の低下、雇用創出力の停滞といった現下の経済社会の課題を科学技術、産業技術の革新により克服し、我が国の産業競争力を強化し、経済社会の発展の礎を着実に築くことが不可欠である。このような革新的な科学技術、産業技術の発展の鍵を握るものとして、ナノレベルで制御された物質創製、観測・評価等の技術であるナノテクノロジーが、近年急速に注目されている。
 具体的には、
 半導体を用いた高速・高集積・低消費電力デバイス技術に関し、国際競争力を確保することに加え、
 全く新しい原理を用いた次世代のデバイス・材料の礎を確立することが長期的展望にたった我が国の国際的な技術競争力の確保にとり必要不可欠である。
 また、これらの実用化・産業化の目標を達成するためには、ナノレベルでの計測・評価、加工、数値解析・シミュレーションなどの基盤技術開発や、革新的な物性、機能を有する新物質創製への取組みが必須である。
 なお、総合科学技術会議分野別推進戦略(平成13年9月)においても、情報通信分野においては、国家的・社会的課題の克服のため、「次世代情報通信システム用ナノデバイス・材料」が5つの重点領域の1つとして位置づけられているところである。

4.目標設定の科学的裏付け
 情報通信分野における我が国の技術競争力は、欧米に比べて全体的に低下傾向にある。これまで大きな役割を果たしてきた民間の研究開発については、その投資額の日米格差が急速に拡大しており、内容的にも製品開発に重点を移しつつあるため、我が国の競争力強化に向け、リスクの高い研究開発等について国の役割が一層重要となっている。
 特に、次世代情報通信システム用ナノデバイス材料においては、2010年に訪れると予想されている現方式のシリコン集積回路の微細加工限界(ムーアの法則の限界)を越えた、次世代の情報処理・通信を担う多様な新原理デバイス・材料・システムの構築に向け、現在、各国が世界標準の獲得競争のまっただ中にある。我が国として、次世代情報通信用デバイス開発において、世界を凌駕するための取り組みを緊急に準備することが必要であるが、この際、シリコン基板及び非シリコン基板の双方について産業化を見据えながら段階的な目標設定も行いつつ、戦略的に取り組むことが必要である。
 ソフトウエア無線等の新規通信方式への転換につれて、通信システムの急速な高速・大容量化が今後とも予想されているが、半導体の集積化・高機能化はムーアの予測に従い、3年で4倍のペースで進んでおり、2005年には素子の最小寸法が100nmを切り、ナノデバイス時代に突入することとなる。このため、大容量、高演算速度、省エネルギー、高セキュリティーその他の画期的な機能を有する新原理デバイス・材料・システムの開発が急がれている。
 具体的には、
現在の延長の技術においては、高速化限界、セキュリティー問題、消費電力等の課題の克服に加え、量子効果等により現れる素子の動作や製造技術上の物理的な限界、製造 コスト等の問題を回避するための革新的なナノ素材やプロセスの開発、量子ドット、量子細線、ナノチューブ等を取り込んだスイッチ素子の開発が求められる。
現在使われているLSIメモリ、磁気ディスク、光ディスクの性能限界の壁をうち破るとともに、強誘電体メモリーなどの次世代メモリーの開発が求められている。
更に、現在の方式の集積回路とは全く異なる新たな原理に基づくデバイスとして、単一分子素子、各種固体Qビット素子、超伝導系新量子磁束素子、スピンエレクトロニクス等の技術開発も次世代の世界標準獲得の観点から積極的に取り組むべき重要な課題である。
加えて、このようなデバイスやシステムの開発に際しては、革新的な物性、機能を有する新物質創製が必須であり、超分子、カーボンナノチューブ、フラーレン、クラスター・ナノ粒子をはじめとした積極的開発が必要である。

5.重点研究期間
ナノテクノロジー分野については、競争が激しく多くの研究領域を推進する必要があるため初年度のみの公募とし、次年度以降には新たに同じ研究領域での公募は行わない。1研究課題は概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を上げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)
(以下、平成15年度に追加)
 基本的には、初年度(平成14年度)のみの公募としていたが、特に緊急性の高い研究課題については、限定的に2年度目についても少数の課題に限り公募する。


戦略目標:環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製(平成14年度設定、平成15年度一部追加)
1.名称
環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製

2.具体的な達成目標
原子・分子レベルで物質の組織・構造の制御等を行い、機能触媒及び循環可能な新材料等の環境保全材料並びに、高効率エネルギー変換システム等のエネルギー利用高度化材料の開発を目指す。この際、原子・分子レベルでの組織・構造の制御から求める材料開発までを総合的に推進する。
 このため、2010年代に実用化・産業化を図るべく、以下のような成果等を目指す。
太陽電池、熱電変換素子、超伝導電力貯蔵・超長距離送電、燃料電池、水素貯蔵用材料のナノ組織制御による画期的な高性能化
環境に余分な負荷を与えず、資源を無駄なく利用し、エネルギー効率を極限まで高めた、高速・高効率・高選択的物質変換プロセスと循環型エネルギーシステムを実現するためのナノ構造制御触媒の設計指針の確立及び調製技術の開発
ナノスケールオーダーの口径の微小な空間を持つ物質の微細構造を制御した、新たな触媒、分離膜、物質担体、光デバイス、電子デバイス等の創製
熱効率70%を可能とする超高効率ガスタービン材、片手でも持ち上がる自動車ボディー材、その他金属
セラミックス・高分子及びカーボンナノチューブ等の新素材を複合した新機能を持つコンポジット材料の開発
高機能・多機能化のためのナノ組織の設計の実現及び、地球温暖化防止・省エネルギーなどの環境材料、高度情報通信社会実現のための磁性材料等の革新的な金属材料の創製

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 経済のグローバル化と国際競争の激化等に伴う産業競争力の低下、雇用創出力の停滞といった現下の経済社会の課題を科学技術、産業技術の革新により克服し、我が国の産業競争力を強化し、経済社会の発展の礎を着実に築くことが不可欠である。このような革新的な科学技術、産業技術の発展の鍵を握るものとして、ナノレベルで制御された物質創製、観測・評価等の技術であるナノテクノロジーが、近年急速に注目されている。
 具体的には、多機能、多段階に機能する触媒、エネルギー貯蔵・変換効率の飛躍的に向上した材料開発等が特に求められる。
 また、これらの実用化・産業化の目標を達成するためには、ナノレベルでの計測・評価、加工、数値解析・シミュレーションなどの基盤技術開発や、革新的な物性、機能を有する新物質創製への取組みが必須である。
 なお、総合科学技術会議分野別推進戦略(平成13年9月)においても、環境・エネルギー分野においては、国家的・社会的課題の克服のため、「環境保全・エネルギー利用高度化材料」が5つの重点領域の1つとして位置づけられているところである。

4.目標設定の科学的裏付け
 将来の我が国経済社会の持続的な発展のため、リデュース、リユース、リサイクルを実現し、かつ廃棄物の適正処分や自然循環機能の活用等を図ることにより、天然資源の消費が抑制され、環境負荷が可能な限り低減される循環型社会の構築を図ることが必要である。物質・材料技術は、このような資源循環型技術の中でも主要な役割を担う技術の1つである。
 また、エネルギー分野においても、エネルギーインフラを高度化していくために必要な研究開発として、燃料電池、太陽光発電のためのエネルギー変換材料、エネルギー機器・インフラ等各種材料の開発が求められているところである。
 産業界においてもその取り組みの強化が図られている環境保全・エネルギー利用高度化材料については、既存の材料分野を越えた多機能・多段階に機能する触媒等の環境保全材料、革新的にエネルギー変換効率を向上させた燃料電池材料等のエネルギー利用高度化材料をはじめとした各種のナノ構造制御材料開発により積極的な取り組みを行うことが必要不可欠。
 具体的には、
現在の延長の技術においては、高速化限界、セキュリティー問題、消費電力等の課題の克服に加え、量子効果等により現れる素子の動作や製造技術上の物理的な限界、製造 コスト等の問題を回避するための革新的なナノ素材やプロセスの開発、量子ドット、量子細線、ナノチューブ等を取り込んだスイッチ素子の開発が求められる。
エネルギー貯蔵・変換材料については、既に、太陽電池、2次電池、水素吸蔵材料等様々な材料や製品が作られているが、エネルギー変換効率が未だ不十分であることから、ナノ組織制御材料により効率向上を目指すことが必要である。
高効率生産、環境浄化、エネルギー変換用などの触媒は現在までにおいても、多大な進化を遂げてきているが、ナノ構造を完全に制御した触媒により、必要な機能を単一の触媒上に付与する技術開発、多段階の合成プロセスについて、次々に機能する触媒開発、光機能触媒開発等への取り組みが求められている。
複合剤の研究は、金属系、セラミックス系、高分子系等既に様々な分野で進められているが、製造コスト、特性劣化の問題等により、製品としては、スポーツ用材料といった比較的小型の製品に限られている。発電用ガスタービン等、大型構造部材への応用のためにナノ複合化が急務である。

5.重点研究期間
ナノテクノロジー分野については、競争が激しく多くの研究領域を推進する必要があるため初年度のみの公募とし、次年度以降には新たに同じ研究領域での公募は行わない。1研究課題は概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果をあげている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)
(以下、平成15年度に追加)
 基本的には、初年度(平成14年度)のみの公募としていたが、特に緊急性の高い研究課題については、限定的に2年度目についても少数の課題に限り公募する。


戦略目標:遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新(平成13年度設定)

 ヒトゲノム計画が進む中、遺伝子の塩基配列の解析技術は飛躍的に高度化し、併せて、遺伝子情報のデータベース化が急速に展開されている。
 今後、遺伝子レベルでの生命現象を理解するとともに、遺伝子情報の医療技術等への橋渡しを行うためには、これらの遺伝子情報を活用して、個々の遺伝子が作り出すたんぱく質が生体内でどのような役割を担っているのかを理解し、生命現象との係わりを解明することが重要である。
 また、これらの研究は、将来的には、遺伝子情報に基づいたゲノム創薬や、高機能食物の実現、たんぱく質の高機能化、たんぱく質のデザイン等の革新技術への展開が期待される重要な分野である。
 このため、戦略目標として「遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新」を設定し、ポストゲノム研究の大きな柱であるたんぱく質について、その構造・機能解析を進めることにより、たんぱく質の役割を明らかにする。
 なお、本戦略目標の下で行われることが想定される研究としては、例えば、たんぱく質の構造解析、たんぱく質の機能解析等が考えられる。


戦略目標:先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出(平成13年度設定)

 現在、ヒトゲノム計画の進展により、遺伝子の情報等遺伝子レベルでの生命現象が明らかになりつつあり、これらの知見を活用した新たな医療技術への期待が増大しつつある。
 急速な高齢化社会を迎えて、今後の社会をより豊かで活力のあるものとするためには、現状では克服が困難な疾患に対する新たな医療技術等の技術革新が望まれている。
 このため、戦略目標として「先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出」を設定し、DNA・たんぱく質工学技術、遺伝子ワクチン作製利用技術、ヒト幹細胞確立技術等の新しい医療技術の創出に向けた先端的基盤技術の探索・創出を進める。
 なお、本戦略目標の下で行われることが想定される研究としては、例えば、DNA・たんぱく質・細胞工学技術の確立・高度化、遺伝子ワクチンの開発等が考えられる。


戦略目標:新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築(平成13年度設定)

 現行のコンピュータをベースとした情報処理技術は、ハードウェア・ソフトウェア共に飛躍的な進歩を遂げ、20世紀における情報革命として社会の変革に多大な役割を果たしてきた。しかしながら、デバイスの微細化やアルゴリズム上の限界によりこれまでのペースでの性能・容量の向上は望めなくなってきている。
 一方、コミュニケーションの多様化に伴う通信・計算容量の増大や、立体映像データ処理や複雑系の解析を行うための高速演算の必要性等、高速大容量情報処理技術に対する社会的ニーズは依然として高く、これらのニーズに応じた技術の確立が喫緊の課題となっている。
 このため、戦略目標として「新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築」を設定し、量子コンピュータ、分子コンピュータ、ニューロコンピュータ等を含む新しい原理に基づく計算機構の探索を行うとともに、ノイマン型コンピュータにおいても全く新しい技術を導入し、新デバイスや通信技術も含めた高速大容量情報処理環境を構築するための要素技術を探求・確立することを目指す。
 なお、本戦略目標の下で行われることが想定される研究としては、例えば、量子計算理論及び量子システムの探索・開発、生体工学と情報処理科学による新規原理・システム等の探索・開発等が考えられる。


戦略目標:水の循環予測及び利用システムの構築(平成13年度設定)

 世界の人口のうち、約8%の人々が居住している地域では、現在も深刻な水不足が発生しており、最近取りまとめられた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第3次評価報告書に示されるように、今後もその悪化が懸念されている。特に、農耕地の急速な拡大や都市化による水不足の問題は、一つの国だけの問題にとどまるものではなく、国家間の問題を引き起こす要因となる可能性がある。
 また、安全な飲料水を確保するとともに、穀倉地域への安定した水の供給に貢献することは、我が国を含め、世界の食糧問題の解決にも資する重要な課題である。
 このため、戦略目標として「水の循環予測及び利用システムの構築」を設定し、地圏・水圏・気圏における水循環の解明・予測に向けた研究を行うとともに、土壌や生態系を含めた適切な水の利用・保全を行うためのシステムの構築を目指す。
 なお、本戦略目標の下で行われることが想定される研究としては、例えば、水循環と環境の相互作用の解明、水の機能を踏まえた水の利用・保全システムの構築等が考えられる。


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This page updated on September 18, 2003

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