本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 安全性が高く、多様な効果が期待できる植物成長調整剤の開発が期待されています。

 現在、各所で天然物を中心に新規の植物成長調整剤の研究が盛んになされつつある。しかし従来の植物成長調整剤は対象作物がかなり限定されたり、作用効果も限られたものが多いといった課題がありました。このため、幅広い作物に成長を促進させる効果を示し、かつ低温障害に対する抵抗性の付与などさらなる作用効果を持つ植物成長調整剤の実現が強く望まれていました。
 本開発は、低濃度で穀類、果実、等の成長促進のほか、低温障害に対する抵抗性といった効果も期待できるジャスモン酸誘導体による植物成長調整剤の製造技術に関するものです。

(内容) 有機合成法により有効性の高いジャスモン酸誘導体を合成します。

 ジャスモン酸は、熱帯・亜熱帯産のモクセイ科植物であるジャスミンに含まれる天然の化合物であり、1970年代にはジャスモン酸が植物に対して成長阻害等の作用を及ぼすことが見いだされていました。近年、その多様な植物生理作用についての研究が進み、ジャスモン酸は新しい植物ホルモンとして認知されつつあります。
 新技術の研究者らは、ジャスモン酸の使用濃度を適切に選ぶことにより、新たに成長促進作用が現れることを見いだし、ジャスモン酸誘導体が植物の成長調整剤として活用できる可能性を示しました。
本開発では、このジャスモン酸を化学的に合成することで大量製造を可能とすると共に、より有効性の高いジャスモン酸誘導体を選択するため分子構造を部分的に変えた一連の化合物について実際の農場での試験を通じて検討を進めました。その結果、植物への強い成長促進作用等を維持しつつ、農場でも実用的に使用し得る新規のジャスモン酸誘導体(プロヒドロジャスモン)を見いだしました。その後、薬効・薬害試験や安全性試験、環境への影響試験、残留性試験等を実施し、植物成長調整剤として農薬登録認められました。

(効果) 土壌で速やかに分解するため安全性が高く、成長調節機能以外への応用も期待されます。

 本開発による成長調整剤は、エチレンによる成熟促進とは別の機構で着色を促進するため、果実品質や日持ち性は、自然に成熟した果実とほとんど変わらないという利点があります。今後今回登録されたリンゴ以外への、用途の拡大も期待される他、リンゴ、ナシ、オウトウ等の果樹や茶の晩霜害低減効果(低温障害抵抗性)についてもその効能に関し検討を進めています。 プロヒドロジャスモンは土壌中や河川等での分解が速やかで、有用昆虫に対する影響もなく、環境に与える影響の少ない植物成長調整剤であることから、他の植物成長調整剤との組み合わせ効果も含め、広く農薬としての利用が期待されます。

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This page updated on September 16, 2003

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