【補足説明資料】


 ノックアウトマウスを用いた解析から、目の水晶体に存在するDLAD (DNase II-Like Acid DNase) が水晶体繊維細胞の成熟過程におこるDNA分解を担う分子であることを明らかとし、この過程の欠陥が白内障へと導くことを示した。

 ヒトやマウスの目の水晶体は光の焦点をあわせるカメラのレンズの役割をしている。水晶体を構成している繊維細胞には核はない。この細胞は核を持つ上皮細胞 (epithelial cell)から分化するが、分化の過程で、核をはじめとする細胞内オルガネラを失う。しかし、どのような機構でオルガネラが除去されるか全く不明であった。

 DNase IIは酸性条件で活性を持つDNaseとして30年以上前に同定された酵素であり、主にマクロファージが発現している。我々はこれまでにDNase IIはマクロファージがアポトーシスを起こした細胞を貪食した後、死細胞のDNAを分解すること、赤血球の脱核の過程で、赤血球前駆細胞から抜け落ちた核のDNAを分解することを示した。

 一方、1999年DNase IIと35%の相同性を持つ遺伝子が東京理科大の田沼教授, アメリカDartmouth 大学医学部のEastman教授によってマウス、ヒトの遺伝子データベースに見出され、DLAD(DNase II-Like Acid DNase), DNase IIβと命名された。DLADはマウスの肝臓、ヒトの肺・唾液腺などで発現されていると報告されたがその生理作用は不明であった。今回、私達はDLADが水晶体で高発現していること、この遺伝子を欠損したマウスは水晶体の繊維細胞にDNAが未分解で残ることを示した。以上の結果は、水晶体繊維細胞の分化過程では、自らの細胞内器官 (オルガネラ)をオートファジーの機構を用いて分解することを示唆している。

白内障は目の水晶体が濁ることにより視力が低下する病気で、遺伝性と老人性が知られている。遺伝性は水晶体の構成成分、水晶体の形成に関与する遺伝子の機能不全によるものであり、老人性白内障は水晶体繊維細胞の代謝異常などにより、クリスタリンなどの水晶体構成成分が失活したことによると考えられる。今回、長田グループで見出した結果はDLAD遺伝子の異常が遺伝性の白内障を引き起こすことを明らかにしたもので、今後、白内障のヒトの患者にDLADの異常を持ったものが確認されれば、その患者に対する新しい治療法の開発にもつながるであろう。

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This page updated on August 28, 2003

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