本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 心臓の血管狭窄部に直接薬剤を投与出来るデバイスへの要望

 心臓へ血液を送る冠動脈に狭窄が出来、血液の流れが悪くなって引き起こされる心疾患の治療法として、先端にバルーンのついたカテーテルを足の付け根から冠動脈に挿入し、狭窄部でバルーンを拡張することにより、血管を押し広げる経皮的冠動脈形成術(以下PTCAと称す)(図1)が広く用いられてきております。しかしながらこの方法を用いて狭窄部を広げても、約3割の患者は再び狭窄が発生し、再度の手術が必要となっておりました。
 再狭窄の原因の一つとして、血管内膜細胞の増殖が挙げられていますが、これに対しては現在のところ有効な対策がありませんでした。しかしながら、最近、HGF(肝細胞増殖因子)等、内膜細胞の増殖抑制効果が見られる薬剤の開発が進んでおり、これらの薬剤を狭窄部に直接投与出来るデバイスの開発が望まれていました。

(内容) 狭窄部の拡張、血流確保、薬剤の局所投与・滞留の3つの機能をもつバルーンカテーテルを実現

 本技術は、バルーンを拡張させるルーメン(管腔)、血流の維持とカテーテルの導入の役目をするルーメン、薬剤を投与するためのルーメンの3つのルーメンを有する細経チューブに、バルーン手前の血流流入用サイドホールや、バルーンの先での薬剤流出口などを設け、狭窄部血管を押し広げる機能以外に、血流の確保機能、薬物送達機能を同時に行うことが出来るようにしたPTCAバルーンカテーテルに関するものです。(図2
 本技術によるカテーテルの使用方法は、一度狭窄部を広げた後、患部手前で再度バルーンを広げて血流を止め、血流をカテーテル内部のルーメンを通じて確保すると共に、出来たデッドスペースに薬剤を投与し、薬剤が血管内壁より患部へ浸透するまでの間滞留させます。(図4)
 本技術の特徴は以下の通りです。
血流が維持できるので、薬剤が血管内膜から内部へ浸透するまでの間、局所に薬剤を滞留させることが出来ます。
バルーンによって出来た血流のデッドスペースに薬剤を投与するために、健全部位に対しての薬剤の副作用を抑制することが出来ます。

(効果) 再狭窄防止薬などのドラッグデリバリーシステムとしての期待

 国内のPTCA手術の年間症例数は、約12万例であり、約3割の患者で再狭窄が発生すると言われています。本カテーテルはそれらの患者に使用され、再狭窄を防止することが期待されます。また、本カテーテルは高濃度の薬剤を血管壁に局所投与出来るデバイスであり、病変部以外への薬剤の副作用を抑制することが出来るので、この機能を生かして、将来的には再狭窄防止のみにとどまらず、副作用を抑制しながら様々な薬剤を投与するデバイスとして広く使われ、医療の向上に役立つことが期待されます。
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This page updated on August 7, 2003

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