本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)
より精度の高い抗癌剤感受性検査法が求められていました。

 癌の一般的な治療法の1つに化学療法があり、各種の抗癌剤投与が行われています。癌の種類や患者個々人の差により有効な抗癌剤は異なります。もし効かない抗癌剤を投与した場合は抗癌剤の副作用により患者の体力が低下し、次に効く抗癌剤を投与しても十分な効力を発揮できない恐れがあります。従って、投与前に有効な抗癌剤を選択できるよう、癌に対する抗癌剤の感受性検査が試みられています。しかしながら、従来技術では検査結果と臨床治療効果が必ずしも一致しないという問題があり、また固形癌(大腸癌、胃癌等)、浮遊癌(腹水癌、胸水癌等)の両方に適用可能な検査法はないため、より精度が高く、固形癌、浮遊癌の両方に適用できる検査法が求められていました。

(内容)
固形癌と浮遊癌の両方に適用可能な、高精度の抗癌剤感受性検査キットを開発しました。

 本新技術は、特殊なハイドロゲル(TGPゲル)中で癌組織片を各種抗癌剤と一緒に培養し、培養後の生存癌細胞の活性から抗癌剤感受性を精度良く判定できる検査キットに関するものです。本技術で使用するTGPゲルはゾル-ゲル転移温度を有し、低温(10℃以下)では水に近いゾル状態であるため、癌細胞に損傷を与えることなく癌組織を包埋できます。その後昇温すると(25℃以上)ゲル状態になり、癌組織の細胞間接触を保持したまま生体内と類似の三次元構築体の中で培養できます。このTGPゲル中では、癌細胞の活性を維持したまま培養でき、また従来技術で主に使われるコラーゲンゲルに比べて癌細胞以外の余分な細胞(線維芽細胞)が増えないので、純粋に癌細胞に対する抗癌剤の効果を調べることができ、感受性検査の精度が向上します。このTGPゲルを分注した検査用プレート上で癌組織を各種抗癌剤とともに培養し、培養後は生存癌細胞の活性を呈色反応により定量することで、治療薬の効果を確認します。
 抗癌剤感受性検査の工程は、以下の通りです。
検査用プレートに充填した滅菌済み乾燥TGPゲルを低温(10℃以下)で培養液に溶解
癌組織・癌細胞をTGP水溶液に包埋
昇温して(培養温度37℃)TGP水溶液をゲル化させ、抗癌剤と接触培養(4日~7日)
発色試薬を加えて生存癌細胞の活性を吸光度により測定
規定濃度以下で癌細胞の生存率を半減させる抗癌剤を有効と判定する

本技術の特徴は以下の通りです。
検査結果と臨床における効果との相関性(真陽性率)が90%であり、従来法(HDRA法では約60%)に比べ高精度である
固形癌(大腸癌)および浮遊癌(腹水癌、胸水癌)の両方に適用可能である


(効果)
抗癌剤感受性検査法としての利用が期待されます。

 国内の癌手術件数は年間約100万件といわれておりますが、従来法では信頼性が低いため、抗癌剤感受性検査の実施率は0.5%(約5000件)程度に止まっています。本新技術による検査キットは、従来法に比べ精度が飛躍的に向上しているため、抗癌剤感受性検査の普及に貢献するとともに、病院や受託検査所における抗癌剤感受性検査法としての利用が期待されます。本技術により、癌患者毎に適切な抗癌剤を選択できるようになるため、癌患者のQOL(クオリティオブライフ)の向上や、無効抗癌剤の使用抑制による医療費の削減につながることが期待されます。

戻る



This page updated on July 3, 2003

Copyright©2002 Japan Science and Technology Corporation.