科学技術振興事業団報 第329号
平成15年6月26日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
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「カーボンナノチューブのソフトマテリアル化に成功」

 科学技術振興事業団(理事長:沖村憲樹) 創造科学技術推進事業 相田ナノ空間プロジェクト(総括責任者:相田卓三、東京大学大学院工学系研究科教授)は、単層カーボンナノチューブをイオン性液体と混合し、乳鉢ですりつぶすなどの極めて簡便な手法により、新規なカーボンナノチューブゲル状複合体が得られることを見出し、成型加工が容易なカーボンナノチューブのソフトマテリアル化に成功した。このゲル状物質は、力を加えると流動化する特性があり、塗布、描画、押出、射出等の方法を応用することにより、容易に成型加工することが可能である。また、カーボンナノチューブと混合するイオン性液体の種類を選ぶと、作製したゲル状複合体を重合させることにより、カーボンナノチューブの分散性が良好で、大幅に向上した力学特性とともに高い導電性を有するポリマー複合材料が得られる。媒体として用いたイオン性液体は、環境負荷の低減を目的とするグリーンケミストリーや、電気化学デバイスの電解質としての観点から最近注目を集めているが、カーボンナノチューブの加工媒体という新しい側面が引き出されたことになる。
 同プロジェクトは、「外部環境から遮蔽された分子の機能発現」をキーワードに、ナノ空間の新しい科学を探求しているが、その過程でカーボンナノチューブの表面とイオン性液体分子とが特異的に相互作用するという事実を発見し、ゲル状複合体の作製に至った。
 この成果は、日本で発見され、次世代先端材料としての活発な応用開発研究が世界的に進められているカーボンナノチューブの実用化への障害である成型加工性を大幅に改善するだけでなく、ポリマー複合材料への応用に向けての大きなステップとなることが期待される。
 本研究成果は、平成15年6月27日付の米国科学誌「サイエンス」に掲載される。

 単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube、以下SWCNTと略)は、直径1ナノメートル程度で、長さがその数千倍の筒状構造を有する炭素のみからできた材料である。驚異的に高い強度、耐熱性、耐薬品性を有し、金属や半導体に似た特性を示すことから、軽く、強く、そして電子デバイス素子としての応用も期待されている次世代の先端材料であり、多くの研究者・技術者が、その用途開発にしのぎを削っている。粉体であるSWCNTを実際に使用する場合、最も有効な手段はプラスチックとの混合である。プラスチックにSWCNTを少量混合するだけで、プラスチックの強度が跳ね上がり、高い導電性も付与される、との予測がなされている。しかし、これまでの研究では、注目すべき成果はあがっていない。その最も大きな理由が、ナノチューブとプラスチックの低い相溶性にある。SWCNTは、実は一本一本が独立に存在しているのではなく、束になって絡み合っている。従って、SWCNTの表面とプラスチックとの相性が良くなければ、その絡み合いはほどけない。つまり、SWCNTはプラスチック内に団子状態で分散することになり、期待された特性を発現できない。
 イオン性液体とは、塩でありながら、室温で液体として振る舞うユニークな物質であり、電荷を有することから、電気化学デバイスの電解質として注目されている一方、通常の溶媒のように蒸発しないことから、環境負荷の低減を目的とするグリーンケミストリーの媒体としても興味が持たれている(図1−(1)参照)。本研究では、イオン性液体を媒体に用いることによりSWCNTが高度に分散した新規なプラスチックを開発することに成功した。重量にしてわずか4%のSWCNTを混合するだけで、対応する純粋なポリマーと比べ、プラスチックの力学特性(動的硬度)が400%程度にまで向上し、同時に、0.56 S cm-1(25℃)という、SWCNT含有プラスチックとしてはトップクラスの導電性を実現した。この画期的な技術を可能にしたのが、「イオン性液体がSWCNT表面に強く結合するという偶然の発見」である。相田ナノ空間プロジェクトの福島研究員は、ある目的でSWCNTをイオン性液体に分散させ、乳鉢ですりつぶすと、数分間で系の粘度が急激に上昇し、光沢のある糊状物質(ゲル)に変化し、柔らかく、糸やフィルムなど、いかなる形状にも成型加工可能なことを発見した。

1.SWCNT/イオン性液体ゲルの作製
 イオン性液体を乳鉢にとり、重量比で1%のSWCNT(黒色粉末)を加えると、ナノチューブは溶解せずに懸濁する。この懸濁液を乳棒でこすると、懸濁液は次第に艶のある液体に変化する。そして数分後には粘性が急激に上昇し、黒色の糊状物質に変化する。過剰のイオン性液体を用いた場合には、糊状物質を遠心分離にかけると、黒色のゲル相から過剰分のイオン性液体相(透明)が分離する(図1−(2)参照)。このゲルは、力を加えると流動するので、様々な形状に成型加工できる。例えば注射器で糸状に押出成型することが可能である(図1−(3)参照)。押出成型以外にも、塗布、射出、噴射等も行うことができる。
 電子顕微鏡による観察から、このようにして得られたゲル中には、SWCNTがかなりほぐれた状態で存在していることが分かった。さらに詳しい検討から、この系では、まずイオン性液体分子がSWCNT表面に付着し、それが引き金となり、近傍のイオン性液体分子が疑似的な結晶構造を形成することが明らかとなった。この際、SWCNT同士が結びつけられ、系がゲル化(図2参照)、すなわち、イオン性液体がSWCNTの「接着剤」の役割を果たしている。

2.SWCNT含有導電性プラスチックの作製
 重合可能なイオン性液体とSWCNTからゲルを作製し、イオン性液体を重合させると、高度に分散したSWCNTを含むプラスチックが得られる(図3参照)。イオン性液体は、SWCNT表面上への濡れ性が高いゲル原料であるので、当然ながら、それが重合してできるプラスチックとSWCNTの相性もいい。事実、重量比で僅か4%のSWCNTを添加しておくと、生成するブラスチックの力学強度(動的硬度)が、SWCNTを添加しないときに比べ400%程度にまで向上する。また、この複合体はSWCNT含有プラスチックの中ではトップクラスの高い導電性(0.56 S cm-1、25℃)を有していることも明らかとなった。

 本法は、SWCNTの成型加工法としては最も実用的である。通常のゲルは、空気中に放置すると次第に溶剤が揮発し、干からびてくるが、イオン性液体からなるゲルは、イオン性液体が蒸発しないため、空気中に放置しても乾燥しないで、流動性を維持することができる。
本研究により、SWCNTの実用に際して障害になっている取扱性の向上や成型加工性の改善された材料提供が可能となり、高性能帯電防止プラスチックの開発のみならず、次世代電子ナノデバイスの開発等の全く新しい用途展開が期待される。

[補足説明図1]
[補足説明図2]
[補足説明図3]

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本件問い合わせ先
  相田 卓三(あいだ たくぞう)
東京大学大学院 工学系研究科 教授
 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
 TEL: 03-5841-7251、FAX: 03-5841-7310  
長谷川 奈治(はせがわ たいじ)
科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
特別プロジェクト推進室 調査役
 TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703  
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This page updated on June 27, 2003

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