腎臓病モデル動物の開発
科学技術振興事業団 研究成果最適移転事業
腎疾患動物チーム/リーダー 宮田 敏男、 サブリーダー 上田 裕彦


研究成果の概要
 腎臓病に対して根本的な治療薬がないのは、腎臓病治療薬を探索するための標的分子や薬効を実証するための最適な腎臓病モデル動物など、創薬のためのインフラ不足が原因でした。我々は、新薬開発促進のための有効な評価系を確立するために、腎臓の細胞に特異的に発現する遺伝子であるメグシンを改変することにより、メグシントランスジェニック(Tg)マウス/ラットを作製しました。

メグシンTgマウスとメグシンTgラットの特徴を以下に示します。

【メグシンTgマウス(特許PCT/JP00/06988、特許出願中:特願2002-033148)】
 メグシンTgマウス(ヘテロ)は発育や寿命は野生型と変わりません。腎以外の主要臓器には特に病理的異常は認められませんが、腎においては加齢とともに異常病理を認めます。20週齢まではほとんど病理変化を認めませんが、40週齢では約75%のメグシンTgマウスがヒトのメサンギウム増殖性糸球体腎炎に類似の病像、つまり糸球体肥大、メサンギウム領域の拡大、糸球体内細胞の増加(図1)、を呈します。拡大したメサンギウム領域にはコラーゲンIV型とラミニンの蓄積が認められ、基質の量的及び質的変化を認めます。



図1. メグシンTgマウスの腎臓病理所見(40週齢、PAS染色)

【メグシンTgラット(特許出願中:特願2003-099135, 特願2003-099136)】
 ホモ(図2)では全例、早期に高度の蛋白尿と腎機能の低下を認め(図3)、腎不全に至ります。さらに、メグシンTgラットは腎不全だけでなく、早期に高血糖と低インスリン血症、すなわち糖尿病も呈します。分子レベルでの解析の結果、病態の発症にはセルピノパシー(serpinopathy)に基づく小胞体のストレスとそれに伴う腎糸球体上皮、膵臓細胞傷害が関与していることが示されました。腎臓あるいは膵臓など各臓器に特異的なプロモーターを用いて、臓器特異的にメグシンを高発現するモデルも作製しており、腎不全単独モデル、糖尿病単独モデルとして確立し、さらに腎不全モデル、糖尿病モデルとして有用な病態モデルに改変します。

図2. 野生型ラットとメグシンTgラット(8週齢)メグシンTgラット(ホモ)は、腎不全だけでなく発育不全も認められる 図3. 野生型ラットとメグシンTgラットの血清クレアチニンと尿蛋白(7週齢)

今後は、さらにユニークな新規腎臓病モデルマウスの確立を目的として、種々の病態マウスとの交配等を行っています。

 以上、これらユニークな腎臓病モデルマウス/ラットを腎臓病治療薬の評価系として、新たな腎臓病治療薬の開発に利用されることが期待されます。

戻る


This page updated on June 25, 2003

Copyright©2003 Japan Science and Technology Corporation.