(参考)

 遺伝情報の発現は、DNAを包み込む染色体構造全体の構造的機能的調節により、達成される。近年、このような染色体構造調節は、ATP依存的染色体構造調節因子複合体により行われることが明らかになりつつある。
 我々は、ビタミンDレセプターによる遺伝子発現調節機構を分子レベルで明らかにする目的に、このレセプターに結合する機能的調節因子複合体群を細胞核抽出液より精製同定した。その結果、新たな染色体構造調節因子複合体WINACを見出した。WINACは、13種類の異なるタンパク因子から構成されており、染色体構造調節に必須なATP-ase、ヒストンタンパク結合因子、DNA複製因子群、転写伸長反応促進因子などを含んでいた。更に、ウィリアムス病の原因遺伝子と考えられてきたWSTF因子を含んでいた。
 精製されたWINAC複合体をin vitroで生化学的に解析したところ、ATP依存的に染色体構造を調節することが確認できた。また、WSTFはビタミンDレセプターの主たる機能である遺伝子発現調節機能を顕著に亢進することを見出した。これらの結果から、WINACはビタミンDレセプターと直接相互作用することで、染色体DNA上の特定DNA配列への認識結合を担い、特異的標的遺伝子群の発現を可能にする複合体と考えられた。
 一方、ウィリアムス病の患者の培養繊維芽細胞を解析したところ、WINACの機能低下、ビタミンDレセプターの機能低下が観察された。更に、WSTFを強制的に発現させたところ、これらの変異はいずれも回復された。これらの結果から、ウィリアムス病発症の一因はWINACの機能不全と考えられた。また、この遺伝病は染色体構造調節因子複合体機能不全に伴う遺伝病としての初めての例である。


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