科学技術振興事業団報 第327号

※ 「Cell」が当該プレスリリースに関する研究論文を取り下げたことに伴い、
平成28年3月25日付けで本プレスリリースを取り下げました。

平成15年6月23日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL:http://www.jst.go.jp/

新しい染色体構造調節因子複合体とある種の遺伝疾患との関連の解明に成功

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「遺伝情報制御分子としてのステロイドレセプター」(研究代表:加藤茂明 東京大学分子細胞生物学研究所 教授)で進めている研究により、ビタミンDレセプター(注)に結合する新たな染色体構造調節因子複合体(注)の同定に成功し、更にこの複合体の遺伝的機能不全がウィリアムス病(注)発症の原因の一つであることをつきとめた。本成果は、東京大学分子細胞生物学研究所 加藤茂明らの研究グループによって得られたもので、平成15年6月27日付の米国科学雑誌「セル」で発表される。

 遺伝情報の発現は、DNAを包み込んでいる染色体そのものの構造変化を介して制御されている(染色体構造調節)。近年、この染色体構造調節は、染色体構造調節因子複合体により行われることが明らかになりつつある。
 本研究テーマにおいて、ビタミンDレセプターによる遺伝子発現の調節機構について分子レベルで明らかにするために、細胞核抽出液よりこのレセプターに結合する調節因子複合体を精製同定した。その結果、新たな染色体構造調節因子複合体(WINAC)を見出した。更に、このWINACはウィリアムス病の原因遺伝子と考えられてきた「WSTF」を含んでいた。
 精製されたWINACを生化学的に解析したところ、ATPの存在下で染色体構造を変化させることが確認できた。また、WSTFはビタミンDレセプターの主たる機能である遺伝子発現調節機能を顕著に亢進することを見出した。これらの結果から、WINACはビタミンDレセプターと直接相互作用することで、染色体DNA上の特定DNA配列への認識結合を担い、特異的標的遺伝子群の発現を可能にする複合体と考えられた。
 一方、ウィリアムス病の患者の培養細胞を解析したところ、WINACの機能低下、ビタミンDレセプターの機能低下が観察された。更に、この培養細胞に対してWSTFを強制的に発現させたところ、これらの変異はいずれも回復された。これらの結果から、ウィリアムス病発症の一因はWINACの機能不全と考えられる。この遺伝病は、染色体構造調節因子複合体機能不全に伴う遺伝病としての初めての例である。


語句説明

・ビタミンDレセプター:
 細胞に存在し、細胞外からの物理・化学的な刺激を認識して細胞にその刺激を伝達するレセプタータンパク質の一種。ビタミンDレセプターは、ビタミンDに応答し、細胞核内に局在する核内レセプター。核内レセプターはヒトでは48種類存在し、他に性ホルモン、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミンA等に応答して、遺伝子の発現を転写レベルで制御するDNA結合性転写制御因子である。

・染色体構造調節因子複合体:
 ビタミンDのような脂溶性物質は、核内まで届いて、核内に存在するビタミンD受容体と結合し転写調節が行われる。その受容体は、核内レセプターを含めたDNA結合性の転写制御因子であることが知られている。 通常、核内レセプターに対応するリガンド(この場合はビタミンD)が結合しないときには、転写を抑制する転写共役因子が結合している。リガンドが結合するとそれが外れ、転写を活性化させる「コアクチベーター」が結合するが、このコアクチベーターは単独の分子ではなくタンパク結合因子、DNA複製因子群、その他様々な因子が形成する巨大な複合体であることが最近になってわかってきた。この複合体が染色体構造調節因子複合体である。

・ウィリアムス病:
 まれな先天性遺伝疾患であり、優性遺伝である。胎生致死に至る例も多いが、出生後多臓器に変異が見られ、早逝するが、成長後知能異常を伴う。原因については、染色体7番の特定領域(7q11.23)の欠失が見られ、この領域にWSTF遺伝子が存在する。WSTFタンパクの機能については、示唆するデータはあったものの、大部分その機能については不明であった。

Cellタイトル: The Chromatin-Remodeling Complex WINAC Targets a Nuclear Receptor to Promoters and Is Impaired in Williams Syndrome
doi :10.1016/S0092-8674(03)00436-7
参考

********************************************************
本件問い合わせ先

 加藤 茂明(かとう しげあき)
  東京大学分子細胞生物学研究所 核内情報研究分野
   〒113-0032 東京都文京区弥生1−1−1
   Tel: 03-5841-8478 Fax: 03-5841-8477    

 高木 千尋(たかぎ ちひろ)
  科学技術振興事業団 研究推進部 研究第三課
   〒332-0012 川口市本町4−1−8
   TEL:048-226-5636 FAX:048-226-1164
********************************************************


This page updated on March 25, 2016

Copyright©2003 Japan Science and Technology Corporation.