科学技術振興事業団報 第323号
平成15年6月3日
埼玉県川口市本町4−1−8
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面内ヘテロ・フォトニック結晶による光ナノデバイスの実現

−極微小領域での光の自由自在な制御がいよいよ可能に−

 京都大学(学長:長尾眞)と科学技術振興事業団(埼玉県川口市、理事長:沖村憲樹)は、新しい光ナノ構造として期待される「フォトニック結晶」に、新たに「面内ヘテロ構造」という概念を導入し、従来の1/1,000〜1/10,000以下と極めて小さな光ナノデバイス実現に初めて成功した。この研究成果は、京都大学工学研究科電子工学専攻の野田進教授等によって得られたもので、6月6日付の米国科学誌「サイエンス」で発表される。
 光の波長程度の周期的な屈折率分布をもつフォトニック結晶の中では、その周期に対応する波長域の光の存在が禁止される「光の禁制帯 "フォトニックバンドギャップ"」が現れる。その結晶中に、周期的な構造を乱す人為的な欠陥を導入することにより、フォトニックバンドギャップ内に光が存在することが可能となり、様々な光の制御が可能となる。
 本研究では、このフォトニック結晶に、新たに「面内ヘテロ構造」という概念を世界に先駆けて導入し、次世代通信・ネットワーク分野を支えるキーデバイスとして期待される超小型多チャンネル光アッド・ドロップデバイスの実現に成功した。「面内ヘテロ構造」とは、複数の異なる周期をもつフォトニック結晶を面内にアレイ配置するという概念である。各結晶領域には、様々な欠陥の導入が可能であるが、本研究では、特に、光を極微小域で導波するための線欠陥導波路、およびこの極微小導波路から特定の波長の光を自由空間へドロップ(あるいは自由空間から導波路へアッド)するための点欠陥共振器を導入し、各領域の導波路が一列に並ぶように面内ヘテロ構造を形成した。具体的には、材料として、シリコン (Si) を用い、それぞれの周期の差が、〜1nm(ナノメートル)という極めて小さな7つの結晶領域からなる「面内ヘテロ構造」を作製し、0.4nmという高い波長分解能をもつ7チャンネル(波長)の光ドロップ(アッド)動作に成功した。
 この「面内ヘテロ構造」は、フォトニック結晶に基づく各種の光ナノデバイス実現のための重要な指針を与えるもので、極微小領域での光の自在な制御がいよいよ可能になるものと期待される。なおこの研究は、科学技術振興事業団戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「フォトニック結晶による究極の光制御と新機能デバイス」の一環として行われたものである。

<研究概要>

 新しい光ナノ構造、フォトニック結晶(図1)は、極微小域で光を曲げ伸ばししたり、極微小点に光を捕獲したり、さらには、物体から生じる発光を抑制(あるいは増強)させるなど、従来にない画期的な光の制御を可能とする物質として、近年大きな注目を集めている。本研究においては、このフォトニック結晶に対し、「面内ヘテロ構造」という新しい概念を導入することにより、世界に先駆けて、従来の1/1,000〜1/10,000以下と極めて小さな光ナノデバイスの実現に成功した。
 「面内ヘテロ構造」(図2)とは、周期の異なるフォトニック結晶を面内に複数個アレイ状に配置するという概念である。各フォトニック結晶領域には、光をコントロールするための様々な欠陥(*1参照)を導入しうるが、本研究では、特に、線欠陥および点欠陥を導入している。線欠陥は、極微小光導波路として動作し、点欠陥は、導波路を伝播する光のうち、特定の波長の光を捕獲し、上方向(自由空間)に放射するという光ドロップ機能をもつ(あるいはその逆の光アッド機能をも併せもつ)(*2)。各結晶領域は、異なる周期をもつため、領域毎に光ドロップ(アッド)動作の波長が異なり、結果として多チャンネル動作が可能となる。ここで、重要な点は、各結晶領域が、周期以外、全く同様の構造(つまり相似構造)をもつことである。そのため、各領域においては、周期で決められる光ドロップ(アッド)波長は変化するが、それぞれの波長において、線欠陥から点欠陥、さらに点欠陥から自由空間への光の流れの様子が、一定に保たれることになる。これにより、各領域から常に一定のドロップ(アッド)効率と波長分解能が得られ、デバイスのもつ最大性能を幅広い波長域で引き出すことが可能となる。
 本研究では、フォトニック結晶の構成用材料として、超LSI形成のため広く用いられているシリコン(Si)を用い、わずか、〜1ナノメートルという極めて小さな周期の差をもつ面内ヘテロ・フォトニック結晶(図3)を作製し、波長分解能0.4nmの7チャンネルの波長ドロップ(アッド)動作(図5)の実証に成功した。
 以上の結果は、フォトニック結晶を用いた超小型光デバイスが世界で初めて実現されたことを意味し、今後の光ナノデバイスの進展にとって、極めて重要な成果と言える。この成果は、次世代通信・ネットワーク、光情報処理はもちろんこと、超小型光センシング、医療、バイオ・光融合分野等にも寄与出来るものと期待される。

<研究背景と今回の成果の位置づけ>

 フォトニック結晶は、前述のように周期的な屈折率分布をもつ新しい光ナノ構造で、その周期に対応する波長の光が結晶の内部に存在出来ずに、一切排除されることを特長とする。ここで、結晶の周期性をわざと乱すと、その部分(これを欠陥と呼ぶ)にのみ光が存在出来るようになる。欠陥の導入の仕方を様々に工夫することにより、様々な光の制御が可能となり、超小型の光デバイスが実現できるものと期待される。
 我々は、すでに、フォトニック結晶に線状の欠陥と点状の欠陥を導入することにより、線欠陥導波路を伝播する光が、点欠陥共振器により捕獲され、結晶の上部へと放射(ドロップ)されるという現象を見出していた[英国科学誌ネィチャー 407 (2000) 608]。この結果は、フォトニック結晶による超小型デバイスの実現の可能性を示した世界初の成果であった。しかしながら、点欠陥からドロップ(あるいはアッド)される光の波長を変化させ、多チャンネル動作を行うために、同一の周期をもつ結晶中に、複数(>3個)の大きさの異なる点欠陥を導入すると、それぞれの欠陥からの光のドロップ効率が著しく異なる(場合によっては、光が全くドロップされなくなる場合も存在する)という大きな問題に遭遇した。さらに、点欠陥の大きさの違いにより、波長分解能も大きく変化してしまうという問題も生じた。
 そもそも、上記の問題は、フォトニック結晶がもつ広く一般的な問題であった。つまり、いくつかの欠陥を結晶に導入することにより、特定の波長において、所望の光機能が実現出来たとしても、全く同じ機能を、別の複数の波長で実現することは極めて困難であり、さらに言えば、これまで全く検討すらされていなかったのが実情であった。
 フォトニック結晶デバイスの特性を幅広い波長域で、最大限引き出すためには、結晶中に導入される一連の欠陥の間の光の結合状態を、どのような波長においても、常に一定に保つ必要がある。「面内ヘテロ構造」は、まさしく、この要求に応えるもので、幅広い波長域において、デバイス性能を最大限に引き出し、真の光ナノデバイスの実現を可能とするものである。本研究は、この「面内ヘテロ構造」の概念の提案と、実際に、〜1ナノメートルという極めて小さな周期の差をもつ面内ヘテロ構造フォトニック結晶デバイスを、シリコン(Si)を用いて作製し、7つのチャンネルで動作しうる超小型光デバイスを世界に先駆けて実現することに成功したものである。
(なお、今回は、点欠陥として、以前我々が用いていたアクセプタ型欠陥(結晶を構成する穴を周りの穴よりも大きくしたもの)から、ドナー型点欠陥(穴を複数個埋めたもの)に変化させ、波長分解能を約1桁向上させている点も特筆すべき点である。)

<実験および成果の内容>

 作製した「面内ヘテロ構造」デバイスは、図3に示すように、7つの異なる周期をもつフォトニック結晶領域(PC7〜PC1)からなる。それぞれの結晶の基本周期は、a7=418.75nm, a6=417.5nm, a5=416.25nm, a4=415nm, a3=413.75nm, a2=412.5nm, a1=411.25nmであり、隣り合う結晶の周期の差は、わずか1.25nmである。本デバイスは、電子ビーム露光とドライエッチング技術を用いて、SOIと呼ばれるウエハ(*3)に作製された。まず、電子ビームレジストをSOIウエハ上に塗布し、電子ビーム露光によりデバイス全体のパターンを形成する。その後、電子ビームレジストをマスクとして、SOIウエハの最上層のシリコン層にパターンを転写する。続いて、シリコン層の下部に存在するSiO2層を化学エッチングにより除去し、フォトニック結晶スラブ(薄板)構造を形成する。作製した試料を斜め方向から電子顕微鏡により観察した結果を、図4に示す。また、点欠陥部分と界面部分の拡大電子顕微鏡写真を、図3の各部に添付する。
 図3のヘテロ界面部分の電子顕微鏡写真から分かるように、隣り合う結晶のもつ周期の違いは全く区別出来ない。これは、周期の差が、わずか1.25nmと極めて小さいことによる。しかしながら、驚くことに、このわずかな周期の違いが、デバイス特性に大きく反映され、まさしく所望の特性を得ることに成功した。図5(a)には、デバイスの左側の導波路端部から光を入射し、その波長を様々に変化させた場合の各結晶部からのドロップの様子を示す。観察は、赤外線カメラを用いて行った。同図から分かるように、入射波長が変化すると、各結晶領域(PC7〜PC1)の点欠陥から順に、光がドロップされていく様子が見て取れる。ドロップ波長の間隔は、平均5nmであった。図5(b)には各結晶部の点欠陥からドロップ光のスペクトルが示されている。(ただし、PC7の欠陥部分のドロップスペクトルは、入射光の散乱光の影響を受けるため、同図には示されていない。)また、同図には、デバイスの右側の導波路端部から出射された導波スペクトルも同時に示されている。同図から、それぞれの欠陥からのドロップ光スペクトルの半値幅は、〜0.4nmと極めて狭く、非常に高い波長分解能が得られていることが分かる。この半値幅をQ値(*4)に換算すると、〜3800と極めて高いものとなり、かつまたこの高いQ値が全ての欠陥に対して一様に達成されていることは特筆に値する。デバイス全体の大きさは、図6に示すように、従来デバイスの1/1,000〜1/10,000以下と極めて小さなものとなり、面内ヘテロ・フォトニック結晶により、光ナノデバイスが実現されたことが明確に実証出来たと言える。

<今後の展開>

 以上のように、フォトニック結晶に、「面内ヘテロ構造」の概念を導入することにより、従来の1/1,000〜10,000以下の大きさの光ナノデバイスを世界で初めて実現することが出来た。本研究に関連して、すでに住友電工、TDK、松下電工、アルプス電気等の企業とも共同研究を開始しており、今後、産業への展開が開けるものと確信する。併せて、ドロップ(アッド)波長を動的にチューニング出来るようなアクティブ機能を付加する等の、より高度な機能を追求することなども行っていく予定である。さらに、欠陥部分には、非常に強い光の電場が集中するため、様々な他の応用にも道が開けるものと考えられる。医療、バイオ、非線形、その他の様々な境界分野との融合研究も加速されるものと思われる。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:電子・光子等の機能と制御(研究統括:菅野 卓雄 東洋大学 理事長)
研究期間:平成12年度〜平成17年度

<用語解説>
図1 フォトニック結晶
図2 面内ヘテロフォトニック結晶
図3 開発した面内ヘテロ・フォトニック結晶デバイス
図4 作製したデバイスの全体像の電子顕微鏡写真(鳥瞰図)
図5 開発した面内ヘテロ・フォトニック結晶デバイスの動作特性
図6 従来デバイスとの大きさの比較

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本件問い合わせ先:
 野田 進(のだ すすむ)
  京都大学 工学研究科 電子工学専攻
   〒606-8501 京都市左京区吉田本町
   TEL:075-753-5297 FAX:075-751-1576    

 森本 茂雄(もりもと しげお)
  科学技術振興事業団 研究推進部 研究第一課
   〒332-0012 川口市本町4−1−8
   TEL:048‐226‐5641 FAX:048‐226‐2144
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