科学技術振興事業団報 第322号
平成15年5月27日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
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ダイオキシン類が生体内のホルモン作用を乱す機構の解明

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「遺伝情報制御分子としてのステロイドレセプター」(研究代表:加藤茂明 東京大学分子細胞生物学研究所・教授)で進めている研究により、ダイオキシン類が生体内のホルモン作用を乱す、いわゆる内分泌撹乱作用の分子機構の一端を明らかにした。本成果は、東京大学分子細胞生物学研究所、加藤茂明らの研究グループによって得られたもので、平成15年5月29日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 ダイオキシン類(注)は、強力な毒物であると同時に、各種野生動物の性ホルモンバランスを撹乱することで、たとえばある種の動物のオスとしての機能を減退させるなどの一種の環境破壊を引き起こすことが大きな社会問題となりつつある。また、ヒトの健康に対する害も懸念されており、特に子宮組織に対して女性ホルモン、特にその一種であるエストロゲンと同じような働き(女性ホルモン様活性)を示すことで子宮内膜症(注)などを引き起こす疑いが高い。しかしながら、ダイオキシン類の生体内での作用については、その多くが不明のままである。
 今回、加藤グループは生体内に存在する二種類の受容体(注)、ダイオキシン類受容体と女性ホルモン受容体とを比較検討することで、ダイオキシン類による女性ホルモン作用への撹乱の分子メカニズムを詳細に検討した。
 その結果、ダイオキシン類の内分泌撹乱作用について、その一端を分子レベルで解明することに成功した。
 すなわち、女性ホルモンのない環境では、ダイオキシン類は女性ホルモン様活性を示す一方で、女性ホルモンのある環境では、ダイオキシン類は女性ホルモン濃度に応じて女性ホルモンの働きを抑制する作用を示すということである。
 今回の成果は、内分泌撹乱作用の分子機構の解明のみならず、細胞内シグナル伝達機構の制御解明にもつながることが大いに期待される。更に、この成果を利用した内分泌撹乱物質の同定や内分泌撹乱防止法構築への応用も期待される。

 具体的に得られた結果は以下の通りである。

1. 女性ホルモンが存在していない場合、ダイオキシン類は女性ホルモンと同様の作用を発揮することを見いだした。

2. ダイオキシン類も女性ホルモンも、それぞれダイオキシン類受容体と女性ホルモン受容体双方と反応するが、ダイオキシン類により刺激された女性ホルモン受容体は本来の女性ホルモン刺激による細胞内のDNA発現を抑える働きをする。一方、女性ホルモンにより刺激されたダイオキシン類受容体は本来のダイオキシン刺激による細胞内のDNA発現に影響を及ぼさなかった。このことは、女性ホルモンの働きはダイオキシン類により抑えられるが、ダイオキシン類の働きは女性ホルモンによって影響を受けないことを示す。

3. 子宮内膜の細胞増殖に対しても、ダイオキシン類は女性ホルモンと同様の効果を示した。


語句説明

・ダイオキシン類:
 ごみの焼却などの際にできる化学物質の一種。化学的には、PCDD、PCDF、コプラナーPCBという3種類物質群の総称で、ベンゼン環2つが酸素原子を介するなどして結合し、そこに塩素原子がいくつか付いた構造をしている(下図参照)。
 一度できると分解されにくい物質で、また水には溶けにくく、脂肪などに溶けやすいという性質をもっている。急性毒性と慢性毒性があり、慢性毒性については、発がん性、生殖・発生毒性、免疫毒性などが報告されている。

ダイオキシン類

ダイオキシン
ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs) ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)

コプラナーPCB
コプラナーPCB(Co-planarPCB)
・子宮内膜症:
 子宮内膜やそれに似た組織が、本来あるべき部位(子宮の内側)以外の部位に発生して、増殖する病気。病状が進むと激しい月経痛がおこる。また不妊との関係も指摘されている。子宮内膜の肥厚化は女性ホルモンに依存することが知られているため、最近ではダイオキシン類のような女性ホルモン様活性を有する化合物群と子宮内膜症発症の関連に興味が持たれている。

・受容体:
 細胞に存在して、細胞外からの物理・化学的な刺激を認識して細胞にその刺激を伝達し、蛋白質。例えばダイオキシン受容体は細胞外にダイオキシン類が存在することを、女性ホルモン受容体は細胞外に女性ホルモンが存在することを細胞内に伝達させる。細胞は、この伝達を受けることにより、遺伝子を発現させるなどして様々な反応を行う。


参考
Nature誌英文タイトル:
Modulation of oestrogen receptor signalling by association with the activated dioxin receptor
doi :10.1038/nature01606
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本件問い合わせ先

 加藤 茂明(かとう しげあき)
  東京大学分子細胞生物学研究所 核内情報研究分野
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   Tel: 03-5841-8478 Fax: 03-5841-8477    

 高木 千尋(たかぎ ちひろ)
  科学技術振興事業団 研究推進部
   〒332-0012 川口市本町4−1−8
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