科学技術振興事業団報 第320号
平成15年5月22日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
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「高性能透明トランジスターを実現」

――透明酸化物半導体:InGaO3(ZnO)5膜を用いて――

 科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業 細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)は、「反応性固相エピタキシャル法」により育成した「InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜」を電子移動層に用い、また「酸化ハフニューム(HfO2)」をゲート絶縁層に用いた「透明電界効果型トランジスター(FET)」の作製に成功した。このFETは、酸化物半導体でありながら、現在実用化されているポリシリコン並みの特性を持ち、また素子自体が透明であるという特徴がある。FETは、電子回路を構成する基本的な素子であり、この成果は、透明酸化物光・電子回路実現への大きなステップとなることが期待される。
 従来の良く知られているZnOやSnO2のような酸化物半導体では、酸素が容易に結晶から抜けるため、電圧を加えない状態でも電流が流れてしまい、電子の移動度も他の化合物半導体に比べ1桁以上低かった。
 同プロジェクトは、透明酸化物半導体であるIn2O3、Ga2O3とZnOから構成されるInGaO3(ZnO)5という層状構造をもつ化合物が、構造的に酸素の欠損が生じ難いことに注目し、同プロジェクトが独自に開発した「反応性固相エピタキシャル法」を用いることにより、緻密で平滑な単結晶薄膜を効率的に作成することに成功した。こうして作成された薄膜上に、HfO2をゲート酸化膜として使ってFETを作製することで、オンオフ比が約10、チャンネル内電子の移動度が80cm2/Vsという、従来の酸化物半導体FETのトランジスター特性を1〜3桁向上し、現在使用されているポリシリコン並みの特性を実現した。本材料は、ポリシリコンと違い透明であることから、次世代の表示素子として期待される有機ELの駆動などへの応用のみならず、光・電子回路等の全く新しい用途展開が期待される。
 本研究成果は、平成15年5月23日付の米国科学誌「サイエンス」に掲載される。

 高品質のInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜は、細野プロジェクトが独自に開発した「反応性固相エピタキシャル法(R−SPE)」により育成した。R−SPE法では、まず、イットリア安定化ジルコニヤ(YSZ)単結晶基板上に、極薄のZnOエピタキシャル膜を育成する。その上に、InGaO3(ZnO)5アモルファス膜を室温で堆積する。次に、膜の成分の蒸発を防ぐために上部にYSZ基板を被せ、1400℃で温度アニールする。温度アニールにより、ZnO単結晶層とInGaO3(ZnO)5アモルファス膜が固相反応し、基板上にInGaO3(ZnO)5極薄膜が成長する。成長した膜は、約2nmの高さでInO2層とGaO/ZnO合金ブロックの層が繰り返しの構造となっていることがわかる。(図1参照

 得られたInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜上にアモルファスHfO2薄膜を堆積し、リフトオフ法を用いたリソグラフィー手法により、ソース、ドレイン、及びゲート電極を作製した。なお、HfO2膜は、ゲート絶縁膜として機能する。また、電極材料として、ITO膜を用いて、透明FETを実現している。(図2図3参照)

 開発したトランジスターは、ゲートに電圧を加えない時は、ソース・ドレイン間には、電流(ドレイン電流)がほとんど流れず、トランジスターのオフ電流がナノアンペア(10−9A)オーダーである。しかし、ゲートに電圧を印可すると電流が流れ始め、ソース・ドレイン間電圧(ドレイン電圧)8V程度以上で電流が飽和する典型的なトランジスター素子特性を示す。その飽和電流は、20ミリアンペア(10−3A)に達し、トランジスターの特性を示す「オン・オフ比」(ゲート電圧の印加によるソース・ドレイン間の電流増幅率)は、約10であり、従来の素子に比較して3桁以上改善された。また、ドレイン電流―ドレイン電圧カーブから得られるチャンネル内電子の移動度も、約80cm(v・秒)−1という大きな値を示す。この値は、従来の酸化物FETに比べて、1桁以上大きな値である。(図4参照

 一般的に酸化物は、酸素欠陥が出来やすく、酸素欠陥は電子ドナーとして作用するために、キャリヤー電子を少なくする事が難しい。このために、ZnOなどの酸化物を用いたFETでは、オフ電流が大きくなってしまう。
 これに対して、今回実現した高品質のInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜は、層状構造であるために酸素欠陥を除く事が可能で、その結果、キャリヤー電子の少ない固有絶縁体を得ることができ、トランジスターのオフ電流を小さくできた。また、結晶が緻密で欠陥が少ないこと及び層状構造による電子の二次元性により、チャンネル内電子移動度が大きくなり、トランジスターの飽和電流を大きくする事ができた。
 更に、高誘電率のHfO2をゲート絶縁膜として用いた事により、チャンネル表面欠陥を減少する事ができ、FETの高性能化に寄与している。
図1 InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜
図2 透明酸化物電界効果型トランジスターの構造
図3 透明酸化物電界効果型トランジスターの写真と光透過スペクトル
図4 透明酸化物電界効果型トランジスターの特性

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本件問い合わせ先:

 細野 秀雄(ほその ひでお)
  東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授
   〒226-8503  横浜市緑区長津田町 4259
   TEL: 045-924-5359、FAX: 045-924-5339

 長谷川 奈治(はせがわ たいじ)
  科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
  特別プロジェクト推進室 調査役
   TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
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