堀越ジーンセレクタープロジェクト(概要)


1.総括責任者

 堀越正美(東京大学分子細胞生物学研究所 助教授)

2.研究の概要

 遺伝子が担う様々な情報は、その全てが常に読み出されているわけではない。変化する環境に応じて、必要な情報が選択され的確に読み出されている。この選択において、DNA上の特定の約10塩基対配列に転写因子と呼ばれる様々な蛋白質が相互作用して、RNAへの遺伝情報の転写を調節することが明らかとなってきている。
 一方、DNAは、ヒストンと呼ばれる蛋白質が結合してヌクレオソームと呼ばれる構造体をとり、その複合体は様々な蛋白質を巻き込み、更に何段階かの巻き込みを経て高次の複合体となって、最終的に染色体を形成している。したがって、DNAの持つ情報はこの複雑な染色体構造内に埋め込まれた状況にあり、DNAに書き込まれている多数の情報を任意に引き出すには、高次DNA構造体の一部が選択的にほどかれなければならないと考えられている。
 しかしながら、高次DNA構造体の状態から様々なタイプの蛋白質が解離した、いわゆるむき出しのDNA構造状態に変換する仕組みおよびその反応に関与する機能分子については殆ど全く知られていない。
 本研究は、高度に組織編成された染色体構造内のDNAを取り巻く蛋白質群の存在やそれらの相互作用に着目して、染色体の一部を選択的にほどく仕組みを探求し、生体内DNAの本来の状態からDNAの持つ情報を選択的に引き出す「ジーンセレクター」を捉えようとするものである。具体的にはDNAを取り巻く非ヒストン性の蛋白質や蛋白質複合体を単離し、その立体構造と機能に関する解析を通じて、それらの相互作用を明らかにする。また、染色体構造の変換過程におけるこれらの蛋白質群の働きを解明することによって、高次レベルでのDNAからの情報選択の一般的メカニズムを理解するための足がかりを探る。更に、構造や機能を変えた蛋白質の発現を細胞内で自由にコントロールすることによって遺伝情報の選択に対する時間軸に対応した蛋白質群の相互作用の機構を解析するとともに、これを制御する方法を探索する。
 本研究では、これまで研究の進んでいなかった生体内での遺伝情報が選択されていく機構の解明が期待されるとともに、生物の遺伝子地図の読み取りの制御に関する研究への新たな知見の提供、また、細胞の増殖、個体の発生・分化等の異常によって引き起こされる疾患に対する診断・治療応用や医薬品の開発などへの貢献が期待される。

3.研究期間

 平成9年10月1日から平成14年9月30日まで


This page updated on March 26, 1999

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