井上過冷金属プロジェクト(概要)


1.総括責任者

 井上明久(東北大学金属材料研究所 教授)

2.研究の概要

 溶融状態の金属・合金(金属液体)は融点以下の温度では不安定であり、通常の冷却速度では直ちに結晶に凝固してしまう。しかしながら、1988年、Mg-Ln-M系(Ln=希土類金属、M=Ni,Cu,Zn)という特殊な合金において、結晶化に対する異常安定化現象が見出された。また、最近では、従来不可能と言われていた鉄族合金系でも同様の安定化現象が見いだされている。異常安定化現象とは、10秒間に1度というゆっくりした冷却速度でも融点の半分程度の温度域まで液体状態を保ち、ガラス遷移温度以下でガラス相に遷移し、結晶化に対して高い安定性を持っている現象であるが、このような現象を示す合金を「過冷金属」と呼ぶ。従来、このような安定化現象は金属・合金においては無縁であるとされてきた。従って、この過冷金属の安定性についての解明の研究は新たな物質科学の創出と新規な機能を持った金属材料の創製にとって重要な課題であると考えられる。
  金属液体の安定化現象の研究は、上記のようなゆっくりした冷却速度でもガラス相に凝固し、最大75mm直径の大形状金属ガラスの作製に成功したことが契機となっているが、金属液体の異常安定化は特殊な現象でなく、3つの経験則である(1)3成分以上の多成分系であること、(2)約12%以上の大きな原子寸法比を有していること、(3)負の混合熱を有していること、を満足する液体において見られる普遍的な現象であることが明確になりつつある。
  本研究では、金属液体の高安定性の極限と機構とを探求することを目的として、異常に高い安定性を示す過冷金属の局所原子配列構造、物性、生成条件を探査し、過冷金属の本性と安定化現象の機構を探求する。また、ガラス相への凝固挙動と構造・物性の記憶性、清浄化とドーピング効果、ガラス相の基本物性、ならびにそれらに及ぼす外的因子(磁場、電場、応力)の影響を調べて金属ガラスの特徴と本性を探る。さらに、この過冷金属を利用した有用な物性を有する非平衡物質の生成の可能性を探求する。
  本研究では、未知の新しい相変化の概念の創出が期待されるとともに、この相変化の利用により新たな機能や特性を持った新材料の創出が期待される。

3.研究期間

 平成9年10月1日から平成14年9月30日まで


This page updated on March 26, 1999

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