平成15年5月20日 |
埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)226-5606(総務部広報室) URL http://www.jst.go.jp/ |
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糖鎖とは、ブドウ糖やガラクトースなど様々な種類の糖が、特定の配列で結合して鎖のようにつながった分子であり、DNAやタンパク質にくらべてより多様性を持ち、ヒトを含む様々な生物の細胞に存在して重要な役割を果たしている。 例えば、インフルエンザウイルスの感染や、病原性大腸菌O157の毒素やコレラ毒素が細胞に侵入して障害を与えるも、ウイルスや毒素が特定の配列をもつ糖鎖を介して細胞と結合するからである。またある種の癌細胞では特異的な糖鎖が細胞表面に現れるなど、糖鎖は細胞に個性をあたえる重要な分子とされている。 研究者らは、ゲノムDNAの配列が完全に決定されているモデル生物である線虫(C. elegans)を研究材料にして、糖鎖の基本的役割をあきらかにするため、様々な糖鎖の合成や分解に関わる遺伝子など、様々な糖鎖関連遺伝子の働きについて研究を進めている。今回、その研究の中で、従来その機能が明らかになっていなかった糖鎖であるコンドロイチン(注1)の機能を明らかにすることができた。 コンドロイチンおよびそれを合成する酵素は、線虫のみならずヒトやマウスなどさまざまな生物でその存在が明らかになっている。しかしその機能については全く不明であった。 研究者らは、コンドロイチン合成酵素遺伝子を失った線虫と、RNA干渉法(注2)により遺伝子発現を阻害した線虫を用いてコンドロイチンの機能解明を試みた。この結果、コンドロイチンの量が減少するにつれて、線虫の受精卵の細胞分裂(注3)が異常をきたし、核の分裂と、細胞質の分裂の同期がはずれて細胞質分裂が逆行、順行を繰り返すなどの特異な現象を見いだした。 従来、細胞分裂には細胞の表面が重要な働きをしていると予想されていたが、細胞表面のどのような分子が働いているのかについては全く不明であり、特に糖鎖が働いていることは全く予想もされていなかった。しかし、今回、細胞分裂、特に細胞質の分裂にコンドロイチンという糖鎖が不可欠であることが明らかになった。 この研究成果は、コンドロイチンという機能が知られていない糖鎖の機能を明らかにしたのみならず、糖鎖が細胞分裂制御に不可欠であることを世界で初めて明らかにしたものであり、細胞分裂のメカニズムの解明に新しい光をなげかける研究成果として引き続き研究をすすめている。 コンドロイチンやその仲間の糖鎖は、線虫のみならずヒトやマウスなどさまざまな生物でその存在が明らかになっており、これら生物でも、これらの糖鎖が細胞分裂を制御している可能性が高い。そこで、糖鎖の異常が細胞分裂の異常を引き起こして癌細胞の出現に関与しているか否かなどを検討することで、癌の治療応用にもつながることが期待される。さらに細胞表面の糖鎖を改変することで細胞質分裂を逆行させたり、細胞の分化をコントロールして必要とする細胞を分化誘導するなど、再生医学や細胞分化制御工学への応用が期待される。 | |
[用語説明] 注1:コンドロイチン プロテオグリカンと呼ばれる糖蛋白質に結合している糖鎖の一種。コンドロイチンの糖鎖が硫酸化されたコンドロイチン硫酸は健康食品でおなじみであり、すでにいくつかの機能が知られている。しかし硫酸化されていないコンドロイチンは、生物界に広く分布しているがその機能は全く不明であった。 注2:RNA干渉法 ある特定の遺伝子の機能を阻害するため、個体や細胞に特定の遺伝子がつくるmRNAをもとにした二重鎖RNA を導入する方法。二重鎖RNAに対応するmRNAだけが特異的に分解されることで、遺伝子ノックアウトと同様の効果が簡単に得られる。 注3:細胞分裂 一つの細胞が増殖するために複数個の細胞に分割される現象。この際には、遺伝情報の倉庫である「核」の分裂と、細胞そのものの機能を維持するための「細胞質」の分裂が起こる。 | |
なお、本研究は平成13年度より戦略的創造研究推進事業にて研究を推進している。
Nature発表タイトル: Chondroitin proteoglycans are involved in cell division of Caenorhabditis elegans doi :10.1038/nature01635 | |
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