科学技術振興事業団報 第317号
平成15年5月15日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
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生殖細胞で染色体を半数化する分子メカニズムの糸口を発見

 科学技術振興事業団(理事長:沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「均等分裂と還元分裂:染色体分配機構の総合的な解明」(研究代表:渡辺嘉典 東京大学大学院理学系研究科・助教授)で進めている研究により、減数分裂(生殖細胞で起こる特殊な細胞分裂)の際に重要な役割を果たす染色体接着タンパク質の機能を解明した。染色体接着タンパク質とは、細胞分裂に伴って起こる染色体分裂において、分裂した2つの染色体を一時的につなぎ止めるタンパク質である。本研究では、減数分裂においてこの染色体接着タンパク質が染色体の部位によって異なること、および、遺伝情報の伝達に重要な役割を果たすことがわかった。この研究成果は平成15年5月16日付けの米国科学雑誌「Science」で発表される。

 細胞の染色体(注1)は遺伝情報(ゲノム)を担うことで知られている。細胞が通常の細胞分裂を行う際には、保持している遺伝情報を新しく生成される細胞(娘細胞)に正確に伝達するため、分裂開始前に染色体を複製してそれに備えるが、複製された染色体は、コヒーシンと呼ばれる特殊な染色体接着タンパク質複合体によりお互いに張り付いた状態となっている。そして、細胞が分裂するときに、それぞれの染色体の中心部分(動原体)が反対方向に引っ張られ、接着が解除されることによりそれまでコヒーシンによって張り付いていた染色体が娘細胞に均等に分配されることとなる(図1)。

 一方、精子や卵子などの生殖細胞は、染色体が半数しかない。これが受精し、合体することにより、完全な数の染色体となる。
 この生殖細胞の染色体を正確に半数に減らす過程は、減数分裂(注2)という特殊な細胞分裂によって行われる(図1)。この際には、複製された染色体の腕と動原体でその接着が解除されるタイミングおよび役割が異なることが古くから知られていたが、その分子メカニズムについてはよく分かっていなかった。
 今回の研究により、減数分裂のときの染色体では、体細胞分裂のときの染色体と異なり、動原体部分とそれ以外の腕の部分で働くコヒーシンの種類が異なることが明らかにされた(図2)。
 また、染色体の腕の部分のコヒーシンは減数分裂時のゲノム情報の入れ替え(減数分裂組み換え)にも重要な役割をもち、動原体部分のコヒーシンは染色体を分けるときの方向を決定するうえで中心的な役割を持つことも明らかにされた。
 今回の発見は酵母細胞を用いた研究によってなされたものであるが、このメカニズムは酵母からヒトにいたるほとんどの生物に保存されていると考えられ、ヒト等の別生物にも適応可能であると考えられる。
 本研究成果は、ヒトの精子や卵子を作るときの染色体分配の間違いに起因するダウン症候群(注3)などの原因解明に資することが期待される。

[用語説明]
注1
遺伝情報を担うDNAとタンパク質の構造体。ヒトの細胞では、父親と母親に由来する23組46本の染色体をもつことが知られている。

注2
染色体を半分に減らす特殊な細胞分裂。分裂が二次にわたって起こる。まず第一分裂では、染色体の中心部分の接着は離れないで腕部の接着だけが離れ、次の第二分裂では、中心部分の接着が離れて、一般的な染色体の分裂が起きる。この結果、一つの生殖細胞から4つの半数のゲノムをもつ卵子や精子が形成される(図1)。

注3
ヒトの先天性疾患で、減数分裂の染色体分配のミスにより21番染色体が1本余分に子供に受け継がれたときに起きる。

 なお、本研究は平成14年度より戦略的創造研究推進事業にて研究を推進している。
図1 体細胞分裂・減数分裂
図2 減数分裂の染色体と接着タンパク質

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本件に関する問い合わせ先:

渡辺 嘉典(わたなべ よしのり)
 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻
 〒113-0033 文京区本郷7-3-1
 TEL: 03-5841-4387 FAX:03-5802-2042

高木 千尋(たかぎ ちひろ)
 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第三課
 〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
 TEL:048-226-5636 FAX:048-226-1216
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