ホームJSTについて情報の公開・個人情報保護機構の評価に関する情報(参考) 科学技術振興事業団(平成14年度まで)の評価結果科学技術振興事業団機関評価報告書4.今後の事業のあり方に関する提言

4.今後の事業のあり方に関する提言


 事業団を取り巻く環境は近年大きく変化してきている。中央省庁再編により、総合科学技術会議や文部科学省が新設され、我が国の科学技術政策の推進体制は大きく強化された。また、多くの国立試験研究機関が独立行政法人化し、更に平成16年度からは国立大学の法人化が予定されている。事業団自身平成15年10月から独立行政法人として事業を行うこととなっている。
 このような環境の変化は当然ながら事業団の事業のあり方にも大きな影響をもたらす。本委員会としては、独立行政法人化後も視野に入れて、事業団が今後どのように事業を進めて行くべきか、議論を行った。
 事業団は科学技術の振興に関し、政策的目標の達成(いわゆるトップダウン型科学技術振興)に取り組むことを基本とし、かつ、研究者等の意向や希望を十分に尊重しつつ事業を進めてきた。これは事業団ならではの優れた特色であり、今後もこうした取り組みを継続し、拡充、発展させることを望みたい。
 また、本委員会は、我が国の科学技術システムの改革に果たす事業団の役割は非常に重要であると考える。すなわち、大学、公的研究機関、企業等の間に立って、既存の組織を越えた研究体制を組織したり、人的ネットワークを構築していく事業団の事業手法は他の機関には期待できないものであり、今後ともこれまで蓄積してきた土台を基に、事業団あるいは独立行政法人科学技術振興機構が一層業務を発展させることを期待する。国立大学や国立試験研究機関の法人化は、組織間の壁を低くするものであり、事業団の活躍の場が広がると捉えるべきであろう。
 個々の事業については既にこれまでまとめた5つの報告書のなかで、具体的な提言を行っているのでそれらが尊重され、実施されることを期待する。また、事業全体のあり方については、委員会としては以下が重要と考える。

(1)基本ミッションの再確認と変化への迅速、柔軟な対応
 本報告書の冒頭に述べたとおり、事業団は科学技術基本法に基づく施策を総合的に実施する中核的推進機関として設立されたものであり、この基本的性格は維持されるべきである。事業団は今後も、文部科学省をはじめ関係機関と密接に連絡をとり、事業団法あるいは独立行政法人科学技術振興機構法に定められた業務(表1参照)について、政府の科学技術振興施策を推進する観点から事業を総合的に展開していくことが必要である。
 このことは、同時に、常に変化に柔軟、迅速に対応する必要があることを意味している。すなわち、国に期待されていることは常に変化するものであり、国の科学技術政策も変化する。事業団は常に、実施している事業が時代の要請に応えているかを自ら問い直し、時代の変化に対応できていないものは迅速に事業内容、実施方法等を見直す姿勢が必要である。また、事業の評価、見直しに当たっては、その方法論も常に進歩、変化しているので、評価の方法の評価、見直しにも常に取り組むべきである。
 変化への柔軟、迅速な対応を強調した上で、委員会としては、以下の2点にも留意すべきと考える。
 第一点は、これまで実施してきた事業において、高い評価を得ている点、評判の良かった点は何かを分析し、新しい事業を始めるときには、それらの特徴が残るように配慮すべきである。時代の変化に対応して事業内容を変更することは重要であるが、これまでの事業で優れていた点を失っては意味がない。
 第二点は、事業の体系化、重点化を常に心がける必要があるということである。事業団の事業内容を見ると、その時々の要請、必要性に応じて多くの細かな事業を実施してきている傾向がみられる。それはそれで重要なことであるが事業の体系化、重点化も同時に留意する必要がある。

表1
特殊法人科学技術振興事業団の業務の範囲

(1) 科学技術情報の流通
(2) 研究者の交流の促進、共同研究のあっせん
(3) 研究開発の推進のための人的・技術的援助、資材・設備の提供
(4) 科学技術に関する知識の普及及び理解の増進
(5) 新技術の創製に資すると認められる基礎的研究
(6) 新技術の委託開発、開発あっせん
(7) 上記(1)~(6)の業務に附帯する業務
独立行政法人科学技術振興機構の業務の範囲

(1) 新技術の創出に資することとなる科学技術に関する基礎研究及び基盤的研究開発
(2) 新技術の企業化開発の委託
(3) 上記(1)(2)の業務の成果の普及・活用の促進
(4) 新技術の企業化開発のあっせん
(5) 科学技術情報の流通(注)
(6) 研究者の交流の促進、共同研究のあっせん
(7) 研究開発の推進のための人的・技術的援助、資材・設備の提供
(8) 科学技術に関する知識の普及及び理解の増進
(9) 上記(1)~(8)の業務に附帯する業務
(注)人文科学のみに係る科学技術情報を含む


(2)事業団の事業の特徴 ―変革を先導する事業への取り組み―
 事業団はこれまで日本の科学技術システムの変革を先導するような事業を実施してきた。例えば、基礎研究においては、自ら恒久的な研究施設やパーマネントな研究者を保有せず、卓越したリーダーのもとに既存の組織の枠を越えて人材を結集し期間を区切って集中的に研究を実施するシステムを開発してきた。このようなシステムは内外において高く評価され、我が国の他の機関においても採用するところが出てきている。
 変革を先導する事業に率先して取り組む-この姿勢を事業団は今後も持ち続けることが重要である。すべての機関が変革を迫られている今日、このことは決して容易ではない。事業団関係者が常に自己点検を怠らず、真摯に努力することを期待する。
 また、事業団の事業のほとんどは国費により実施されている。国費を使用する以上、民間では出来ないことに取り組むべきである。そして、事業実施の過程で蓄積されたノウハウ等を民間に移転することを心がけて欲しい。
 更に科学技術関係の他の法人などが実施している事業と事業団が実施している事業とはどこが違うのか、事業団の事業の特徴は何なのか、という点にも常に留意すべきである。これは、国費による事業の重複を避けるという意味からも、また、公募事業に応募しようとする研究者、企業等の立場からしても事業の趣旨が理解しやすいという点で重要である。

(3)関係機関との連携の強化
 事業団の事業は他の機関との連携の上に成り立っていると言っていい。事業を一層有効なものにするためには、他機関との連携を今後一層強化する必要がある。
 基礎研究における大学等の研究機関との連携、技術移転事業における研究者、企業との3者連携等の重要性は言うまでもないが、本委員会は、これまでの報告でも、技術移転事業におけるTLOとの連携、科学技術理解増進事業における学校や草の根的な活動との連携の重要性を指摘してきた。
 先に述べたように各機関とも変革を迫られている。事業団の事業が各機関にどのような影響を与えているのか、これまで各機関にとってメリットと考えられていたことがデメリットになる可能性はないのか、常に分析し、各機関の意向を十分にくみ上げて事業を推進すべきである。また、連携の基礎となる人的ネットワークの形成・維持にも引き続き努力が必要である。

(4)国民への説明責任、事業団事業の認知度の向上
 事業を実施していくうえで、「国民に十分説明できているか」、「国民の知りたい要望に応えているか」という視点が重要である。例えば、事業団は「人」中心というコンセプトに基づいていくつかの事業を実施してきているが、この場合、単に事業の成果を評価、公表するだけでは不十分である。誰がどのようにしてその「人」を選んだのか、その選択は正しかったのか、また、選ばれた「人」は、自分の思い通りに事業を実施できたのか、といった点が重要であり、これらの点についても、評価し国民に説明していく必要がある。
 また、本委員会の審議においては、事業団は重要な事業を実施しているにもかかわらず、国民一般や中小企業等の事業団に対する認知度が低いのではないかとの議論があった。事業団は、事業の実施に当たっては、募集要項の配布、説明会の開催、新聞広告等の手段で事業の周知を図っており、また、事業の成果については、シンポジウムの開催、各種フェアへの参加等によりその普及に努めている。今後はこのような努力を更に強化するとともに、周知手段の有効性を検討し、更に国民の事業への要望を吸い上げて事業団の認知度が向上するよう努力すべきである。この点に関しては、事業団が科学技術理解増進事業を実施していることは重要であり、今後様々な理解増進事業の実施を通じて、国民の科学技術への期待や知識を深めるとともに事業団の存在自体の認知度、更には各事業の認知度が向上していくように考えるべきである。

(5)中小企業、学協会への浸透
 事業団の事業のうち、技術移転事業、情報流通促進事業は、企業を主な対象としている。中小企業の我が国経済に果たす役割を考えると、事業団の事業に中小企業が参画することは重要であるが、現実には中小企業の参画は活発ではない。④で述べたこととも関連するが、中小企業の間で事業団の事業が十分知られていないことが問題である。今後、きめ細かな周知活動等を実施し、中小企業の参画が増えるよう努力すべきである。
 また、学協会については情報流通促進事業の情報提供源として事業団と深い関わりがある。我が国の学協会は、国際的な情報発信力の強化等の課題を抱えており、事業団として学協会に対する支援という視点を持って事業を進めることを期待する。

(6)事業団内部の人的体制の充実
 事業団の事業は多岐にわたり、かつ、その実施に当たっては事業団だけで完結せず多くの機関を巻き込んで全体をプロデュースする性格のものが多い。また、先に述べたように外部環境の変化を把握し、変化に柔軟、迅速に対応することが求められている。このような事業を的確に実施するためには、事業団内部の人的体制の充実が不可欠である。人的体制充実の基礎は、個々の職員の意欲、能力の向上であり、職員が互いに努力、研鑽する雰囲気を醸成するとともに、研修プログラムの充実等も必要である。
 特に、独立行政法人は、特殊法人に比べ、組織、定員についての制限が緩和されるので、独立行政法人化を契機として人的体制の一層の充実に取り組むことを期待したい。

(7)人文・社会科学と自然科学との連携の強化
 最後に人文・社会科学と自然科学の連携強化について強調しておく。事業団は既に、異分野研究者交流促進事業(例えば平成14年度には、「科学技術と芸術」を一つのテーマとしている)、社会技術研究事業などにおいて人文・社会科学と自然科学の連携に取り組んできた。
 自然科学を中心とした科学技術はこれまで多くの成果を生んできた。その反面、科学技術の発展が新たな問題を生み出している面もある。自然科学に偏重した科学技術だけでは、今日、人類、地球が抱える難問は解決できないことも多い。今後、科学技術と社会との望ましい関係を築いていくためには、人文・社会科学と自然科学の調和のとれた発展が重要であり、更に、両者の知見を結集した新しい科学技術の潮流を形成していく必要がある。
 我が国の科学技術の変革を先導する取り組みの一つとして、異分野研究者交流促進事業などのあり方を見直すなど、人文・社会科学と自然科学の連携強化を目標に、積極的に取り組んでもらいたい。

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