ホームJSTについて情報の公開・個人情報保護機構の評価に関する情報(参考) 科学技術振興事業団(平成14年度まで)の評価結果科学技術振興事業団機関評価報告書2.事業評価の概要

2.事業評価の概要


(1)個別事業評価の概要
 本委員会がこれまで行ってきた個別事業の評価結果の概要は以下の通りである。なお、事業の名称、実績データ等は、最新のものに統一した(実績データは、他に記載がない限り、平成15年1月末時点のものである)。

1 ))技術移転推進事業
【事業の概要】
 本事業は、大学等公的研究機関の研究成果の企業化推進を目的としており、企業に委託して研究成果の企業化開発を行う「委託開発事業」と、特許の取得、研究成果の育成、企業へのあっせん等を一貫してフォローする「研究成果最適移転事業」から構成されている。
 委託開発事業では、これまで、519件(特許数1,557件)の研究成果が取り上げられ、開発に成功した製品の市場規模は、事業団の実施料収入から推定した直接売り上げで3,690億円(注)である。この中には、「ヒト2倍体細胞由来インターフェロン製剤の開発」(実施料からの推定直接売り上げ409億円)、「青色発光ダイオードの製造技術」(同750億円)といった成功例も含まれる。また、研究成果最適移転事業においては、9,076件の特許を収集・管理し、研究成果の育成、大学研究者等によるベンチャーの設立支援、809件(特許数1,294件)を超える技術の企業へのライセンス等が行われている。
 両事業をあわせれば、2,851件の特許の企業化が行われていることとなる。

(注)  事業団に支払われる実施料は、特許権が存続する期間に限られており、また、実施料算定対象の売り上げ高も開発した技術が直接使われている部分に限られている。従って、実施料支払い期間終了後の売り上げや当該技術を活用した製品全体の売り上げを含めれば市場規模は格段に大きくなる。

【事業の評価】
 委託開発事業は、事業団の前身機関の一つである新技術開発事業団が昭和36年に設立されて以来継続して運営、実施されており、多くの成果をあげてきたことは高く評価できる。近年の経済状況を反映し、民間企業は中核事業への特化、短期的視点の研究開発にシフトしてきており、リスキーな独創的研究成果の実用化を国が支援する必要性は以前にも増して高まってきている。そのような意味で本事業はまさに今の時代にあった事業でもあり、より一層の規模の拡大も期待されている。
 過去の実績をみると、事業を実施することにより当初の技術的目標を達成した比率は極めて高いが(開発が終了した445件中、技術的目標を達成して成功と認定されたものは377件であり、成功率は85%)、技術目標を達成し企業化された課題から得られた実施料は少ない。成功率にこだわらず、むしろ不成功を許容し、よりインパクトが大きいリスキーな課題に挑戦することを事業の基本姿勢とすべきであろう。更に、開発費返済条件の緩和、開発成果の優先実施期間の延長、実施料率の柔軟な適用、開発費返済の担保の緩和、事務手続きの簡素化などにより開発受託企業にインセンティブを与える必要がある。
 研究成果最適移転事業は、大学等公的研究機関の研究成果の民間への移転促進が叫ばれる中で、極めて重要である。技術移転の成功の条件として、ニーズとシーズの両面を理解しこれを結びつける仲介者の存在の重要性が指摘されるが、本事業はこのような仲介者の役割を適切に果たしている。また、特許化支援、研究成果の育成についても開発段階への「橋渡し事業」として大きな意義が認められ高く評価できる。
 技術移転事業全体については、マーケットへの橋渡しという事業の本質を忘れることなく、TLOと協力しつつ事業を進めるべきである。

2 ))科学技術情報流通促進事業
【事業の概要】
 本事業は、内外の科学技術情報を収集し、データベースを作成して提供することを目的としている。「文献情報提供事業」では、科学技術関係の学会誌、技術レポート等を網羅的に収集し、日本語抄録、キーワード等を付与してユーザーに提供しており、収録記事件数は、JICSTファイルで1,854万件、年間の情報提供収入は82億円(平成14年度推定)である。また、文献情報以外にも、新産業創出総合データベースや各種ファクトデータベースの構築、電子ジャーナル等の事業を行っている。

【事業の評価】
 科学技術の振興を図る上で科学技術情報は基盤資源であり、我が国にしかない情報を確実にデータベース化していく意義は大きい。特に、日本国内で発生した文献について網羅的な収集・整備に努力するとともに、日本人に扱いやすい日本語データベースと日本語の検索システムを提供してきたことは評価できる。
 今後の事業の実施に当たっては、販売システムを適切に構築するとともに、需要サイドの要求、要望を的確に掴む必要がある。また、情報提供までの時間的遅れの短縮、抄録データの費用対効果の観点からの検討等が必要である。
 文献情報提供事業以外にも事業団は、新産業創出総合データベースや各種ファクトデータベースの構築、電子ジャーナルシステムの開発・運用などの多くの事業を実施している。これらについては、それぞれ様々な経緯を経て事業団の事業に取り入れられたものであり、個別的には積極的な意義が認められる。しかし、あまりにも多様であるため全体としてはこの分野で何を目標に活動しているかが不明確になっている。
 情報事業全体について言えばインターネット等の新しい情報科学技術の急速な発展は、事業団の事業の将来に大きなインパクトを与えることは確実であり、これに対応するため、事業の見直しを継続的に行っていくことが重要である。

3 ))基礎的研究推進事業
【事業の概要】
 本事業においては、新しい技術シーズの創出に資することを目的として、社会・経済ニーズを踏まえて国が設定する戦略目標の達成に向けた革新的、創造的研究等を推進している。本事業の特徴は、事業団は恒久的な研究施設やパーマネント雇用の研究者を持っておらず、目標の達成に向けた最適な研究体制を期間を限定して構築する点にある。すなわち、我が国として取り組むべき重要な研究課題について既存組織の枠を越えて迅速に研究体制を組織し、卓越したリーダーのもとに産学官の研究者を結集し、研究を効率的に行うために事業団がいわば姿なき研究所を期間を区切って設立し、一元的な運営を行っている。
 これまでに実施された研究には、超微粒子、不斉合成化学(注)、分子間の認識、ナノテクノロジー、量子効果素子、生体分子の運動、遺伝子発現、生物の発生・再生などがあり、重要な研究分野の発展にインパクトを与えて来ている。

(注)  平成3年10月から5年間にわたり、野依良治名古屋大学教授をリーダーとする「野依分子触媒プロジェクト」が実施された。野依教授のノーベル化学賞受賞理由に同プロジェクトにおける研究成果が含まれている。

 平成14年度の基礎的研究推進事業の予算は513億円で、事業団の各事業のなかで予算規模は最大である。また、このうち、競争的研究資金は427億円であり、我が国の競争的研究資金全体のなかで第二位となっている。この事業のもとで平成14年度下期には総計786研究課題(うち個人研究型406課題)の研究が遂行されている。
 事業は主として公募で行われており、応募倍率は10~15倍と高く、我が国の研究者コミュニティのなかで本事業が高く評価されていることが窺われる。また、英国ネーチャー誌に掲載された機関別の論文数では、事業団が国内で2年連続で第一位となっており、質の高い研究成果が活発に発表されているものと見られる。

【事業の評価】
 事業団は、近年において大きく変化した我が国の研究開発への戦略的取り組みに対応し、基礎的研究推進の諸制度を適切かつ有効に機能させてきたことは高く評価できる。
 事業団の基礎的研究推進事業の母型となった「創造科学技術推進事業」は、学際的なテーマを取り上げ、総括責任者の裁量を極力尊重し、期間限定の研究組織、任期付き雇用による新しい研究システムを創製した。このシステムは大きな成功をおさめ、それ以降各種研究事業等にその特徴が反映されている。明確な戦略目標の下に研究領域が設定され、公募により、厳しい評価を経て研究課題、研究者が選定されるという事業団の研究システムは、最も的確な今後の基礎研究の推進方向であり、研究全般を底上げするボトムアップ方式と相補い、我が国の基礎研究を支える重要な制度となっている。また、期間を限った直轄組織として運営することにより、若手研究者の雇用を進めるとともに、事務スタッフを事業団が配置し、予算の増減等に柔軟に対応するとともに、雑務から研究者を解放するというメリットがある。
 今後の事業の展開に当たっては、国際性を一層高めること、研究終了後のフォローアップシステムを整備すること、長期的な評価を行うことが特に重要である。また、大学、国立試験研究機関等が大きく変わろうとしていくなかで事業団の役割はますます重要となっており、事業を常に見直すことが必要である。
 なお、基礎的研究推進事業の評価は海外の著名な科学者、研究開発関連企業の経営者の参加も得て行われたものである。

4 ))研究交流促進・研究支援事業
【事業の概要】
 本事業は、研究交流を促進するための研究者の派遣、受け入れ、研究集会の開催、地域における科学技術振興事業の実施、研究支援者の研究機関への派遣等を行うものである。このうち、研究者の派遣、受け入れ事業については、先に述べた政府の特殊法人等整理合理化計画の一環で日本学術振興会に移管された。

【事業の評価】
 人材交流・国際交流関係事業及び研究支援者派遣事業は、国立試験研究機関を主な対象として実施されたもので、制度的な制約が多い国立試験研究機関等の国際化に貢献するとともに、競争的、流動的な研究環境をもたらしその活性化に寄与した点で意義は大きく評価できる。今後は、ほとんどの国立試験研究機関が独立行政法人化され、その研究環境が変化してきていることを踏まえ、事業展開を検討する必要がある。
 地域科学技術振興関係事業は、コーディネータを中心とした一連の事業を継続して実施してきた点で先見性に優れた事業として高く評価できる。今後も地域における科学技術の振興、地域COEの構築に向けた取り組みに対する重要性は増加するため、事業団においても地域関係の事業を継続、発展させる必要がある。

5 ))科学技術理解増進事業
【事業の概要】
 本事業は、科学技術に関する知識を普及し、青少年を始めとする国民の科学技術に対する関心を喚起し、理解を深めることを目的としている。サイエンスチャンネル等により提供するための科学番組の製作等、学校における理科のデジタル教材の開発・普及、全国の科学館に対する支援のほか、平成13年7月には、最先端の科学技術と科学技術の理解増進に関する情報発信と交流のための総合拠点として日本科学未来館を開館させ、年間の入場者数が50万人を超えるなど順調に運営している。

【事業の評価】
 科学技術の振興を図るためには、科学技術が国民に理解され、支持されることが不可欠である。また、将来の科学技術活動を担う人材の確保のためには、青少年が科学技術に親しめる環境を作って行く必要がある。このような観点から、科学技術理解増進事業は非常に重要である。短期間に多彩な事業を活発に展開し、我が国の学校教育機関以外の科学技術理解増進活動の中核的活動として成長してきたことは高く評価できる。
 科学技術理解増進事業の性格から、その効果を短期的に計ることは難しく、たゆみない継続的努力が必要とされるので、今後も学校教育との連携等に配慮しつつ事業団において同事業を継続、発展させることが強く望まれる。

(2)事業運営全般についての評価
 事業団の事業運営全般については、事業団から以下の項目について説明を受け審議を行った。
事業団の事業の変遷
事業団を取り巻く環境の変化とその対応
全体、事業毎の予算及び職員数の推移
経理面における合理化
主な広報活動、事業の周知活動、事業団事業の認知度
事業団事業の中小企業の利用状況
 また、事業団の各事業の相互の関連についても事業団から説明を受け審議を行った。
 事業運営全般に関する本委員会の評価は以下の通りである。

 事業団の年間予算は、発足時の平成8年度の577億円から平成13年度の1,212億円へと短期間の間に倍増している。また、平成10年度から平成14年度にかけて日本科学未来館や全国7カ所の研究成果活用プラザを建設、開館させている。このように事業量が大きく増えるなかで、多くの事業を的確に実施してきている点は高く評価できる。事業団は、科学技術基本計画等に示される国の科学技術振興施策の中核的実施機関として重要な役割が期待されているが、事業実績をみるとその期待に確実に応えていると言えよう。
 予算が増える一方で、職員数は、平成8年度の410人から平成14年度の467人と約1割しか増えていない。この間、内部の人員配置の見直し、契約職員の活用、アウトソーシングの推進などにより人員不足を補ってきている。また、日本科学未来館、研究成果活用プラザを開館させる一方で、科学技術情報流通促進事業の支所の整理・合理化を行っており、全体として見た場合、効率的な業務運営のための努力が窺える。しかし、独立行政法人化後は一層の業務の効率化が求められるので、更にどのような業務の効率化が可能なのか今後良く検討し、実施に移していくことが必要である。
 各事業間の関連については、基礎的研究事業の成果を技術移転事業で取り上げ企業化するケースや異分野交流フォーラムで議論されたアイデアを基礎的研究事業のテーマに採用するケースなど様々な努力がなされている。日本科学未来館において、基礎研究の研究現場を見学コースの一部に組み込むというユニークな試みも見られる。しかし、事業団の規模から考えると更に様々な可能性が考えられ、今後一層の努力を期待したい。

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