科学技術振興事業団報 第305号
平成15年3月27日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp/

「汎用性のある独自な手法による、可視・近赤外域での
世界最短光パルス(1000兆分の3.4秒)の発生・計測に成功」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「サイクル時間域光波制御と単一原子分子現象への応用」(研究代表者:山下幹雄)で進めてきた研究の一環として、超ブロードバンドな光波の制御と超短時間の光パルス波形の計測とを共に初めて実現化し、観測データを自動的にフィードバックして極限短光パルスを得るフォトニクスシステムを開発した。これを用いて可視・近赤外域で世界最短の1000兆分の3.4秒の光パルスの発生に成功した。この研究成果は北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻の山下幹雄グループによって得られたもので、自動的なフィードバックシステムであるため、一般の技術者にも利用できる極めて高い汎用性に特色があり、誰にでも使える世界最短の単一サイクル台の究極の光パルス技術につながるものである。なお、この成果は、3月27日午後4時~4時30分の応用物理学会(神奈川大:量子エレクトロニクス、超高速高強度レーザーセッション)、6月5日の世界最大のレーザー及び光エレクトロニクス国際会議(CLEO 2003,米国)で発表される。
≪背景≫
 高速性の追求はいつの時代にも科学技術の飛躍的発展のための原動力の一つである。レーザーをベースとしたフェムト秒超短時間(100兆分の1秒(10 fs)以下の)光パルス技術はその最先端にあり人類が創り出した最高速技術である。また、時間tがあらゆる現象を記述する基本パラメータであるため、この技術は、自然科学の全分野でこれまで未知であった超短時間域の現象の解明と制御の研究に唯一の強力な手段を提供し、新しい学問と産業を生み出す革新的な力を持っている。すなわち、その特徴は、(1) 時間域の顕微鏡、(2) 時系列的に変化する超高速ダイナミクスが制御できる、(3) 巨大なピーク出力が得られる、(4) 超高密度な信号が得られる(スーパーコンピューターの100万倍近く)、加えて(5) 学際分野横断性にある。
 1998年にFerencz博士が4.0 fs(1 fs = 10-15秒)光パルスの発生(後に測定法に問題があることが判明)、2002年に小林孝嘉博士が3.9 fs光パルスの発生(計測結果の導出に一部仮定あり)が報告された。しかし、これらは、高度な光科学技術の専門家のみが利用可能な技術であった。また、究極の光パルスの必要条件である周波数帯域が1オクターブを越えるものではなく、かつ、単一サイクル台のものでなかった。

≪単一サイクル光パルスとは≫
 例えば、波長が800 nmの光は375 THzの周波数を有し、その1サイクルの時間は2.67 fsである。その光電場が1サイクル振動する時間のみ光強度を有する究極の光パルスを単一サイクル光パルスという。このような光波は極めて広い周波数帯で光波の位相をそろえることで初めて得られる。そのため、単一サイクル光パルスを得るために必要とされる帯域幅として1オクターブ(帯域内に倍波の光周波成分を有する)を越えることが必要とされる。

≪単一サイクル光パルスの発生システム≫ (図1図2)
 本成果では、可視から近赤外(波長500から1090 nm)に渡る1オクターブを越える超ブロードバンドな光波を初めて可能としたこと、計算機制御できる液晶を用いた位相補償装置(SLM)と、超短時間の光パルス波形を高感度(従来法の100倍)ですばやく測定できる装置(変形SPIDER装置、図1図2)とを一体化した。これによって、変形SPIDER装置で測定されたパルス波形の位相データをSLMに自動的にフィードバックし、広い周波数帯域で位相をそろえることにより超短光パルスを得ることができるフォトニクスシステムを実現した。

≪3.4 fs, 1.56単一サイクル台、1オクターブを越える(波長500-1090 nm)光パルス-世界最短-の発生に成功≫ (図3)
 上記システムを用いて、可視域から近赤外域(波長500-1090 nmの白色)の1オクターブを越える、超ブロードバンド(中心波長655 nm)でかつ、1000兆分の3.4秒の超短時間の光強度を有する単一サイクル台(1.56光サイクル)の世界最短光パルス発生に成功した(パルスパワー1.5億ワット、1秒間に1000回の繰り返し光パルス列)。

≪特徴≫
 このシステムはフィードバックを自動的に最適化することが可能なため、光科学技術の専門家でない一般の技術者にも利用できる極めて高い汎用性に特色があり、誰にでも使える世界最短かつ単一サイクル台の究極の光パルス技術につながるものである。

≪将来展望≫
 これまで未知であった超短時間域で生じる量子現象の解明と制御、超高速超高密度光通信、光遺伝子解析などへの広い応用が期待される。

≪まとめ≫
 超ブロードバンドな光波の制御と超短時間の光パルス波形の計測とを共に初めて実現し、それらを一体化した自動最適化技術を開発した。これを用いて可視・近赤外域で世界最短の1000兆分の3.4秒の光パルスの発生に成功した。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:量子効果等の物理現象(研究総括:川治紳治、学習院大学 名誉教授)
研究期間:平成9年度~平成14年度

■ 図13.4fs・1.56サイクル 光パルス発生・計測・制御システム
■ 図2独自な高感度変形SPIDER装置
■ 図33.4 fs・1.56サイクル 光パルスの発生

*****************************************************************************
本件問い合わせ先:
 山下 幹雄(やました みきお)
  北海道大学大学院工学研究科 量子物理工学専攻
    〒060-8628札幌市北区北13条西8丁目
    TEL:011-706-6705 FAX:011-706-7887

 蔵並 真一(くらなみ しんいち)
  科学技術振興事業団 研究推進部 研究第二課
    〒332-0012 川口市本町4-1-8
    TEL:048-226-5641 FAX:048-226-2144
****************************************************************************


This page updated on March 27, 2003

Copyright©2003 Japan Science and Technology Corporation.