科学技術振興事業団―ケンブリッジ大学 国際共同研究プロジェクト
研究領域「ナノ量子導体アレー」の研究基本計画


 この20年間、ナノスケールの材料および素子に関する我々の理解は著しく進歩したが、この進歩は走査トンネル顕微鏡のような評価の道具、トップダウンおよびボトムアップの加工の道具、ナノスケールの世界の我々の理解を促進する理論計算の道具の発展によってもたらされた。次の10年間にこれらの道具はより洗練され、物理学から医学にわたる様々な科学分野の橋渡しに大いに利用されるであろう。

 当共同研究プロジェクトは、ナノスケールの評価および加工の道具の開拓に関して先導的な役割を果たしてきた2つのグループの共同研究を実現しようとするものである。この研究プロジェクトの目的は、ナノスケールにおいて現れる独特な材料特性を利用して新しい型のコンピューターアーキテクチャーを開拓することにある。

 この共同研究プロジェクトにおいて提案する導電性ナノワイヤーのクロスバー配列は、クロス格子状のナノワイヤーという単純な構造に記憶や演算の能力を持たせることを意図している。ここで開発しようとしている基本的技術は、ナノワイヤーの個々のクロス点にアクセスして、そのクロス点でのナノワイヤー間のカップリングを変化せしめることである。最近の青野グループの研究は、イオン性の物質を用いた単純な配列を用いることによってクロス点の電気的導通を外部電圧によってスイッチできることを示した。カリフォルニアのヒューレットパッカード研究所のStan Williamsのグループも、分子材料による配列を用いて同様の能力を証明している。これらの先導研究はクロスバー構造の潜在能力を如実に示しており、それを確認し、拡張し、最適化することがぜひとも必要とされている。そのためには、その配列における最適な材料を探索し、スイッチング素子の最適な構造を設計し、個々のスイッチにアクセスする最適な方法を検討し、最終的にはその実用化のための加工プロセスを開発しなければならない。

 当研究プロジェクトの5年計画において、我々はそれを幾つかのサブプロジェクトに分割する。それらはクロスバー配列の個々の技術的問題を解決するために論理的な繋がりを持って設定されなければならない。これらのサブプロジェクトは、当研究プロジェクトの全体を成功に導くために常に見直され、必要とあれば新しいサブプロジェクトを追加する必要もあろう。最初は次のサブプロジェクトをもって出発する。

1. 多探針顕微鏡
 最初の多探針顕微鏡は青野グループによって開発され、それは孤立したナノ構造の評価のためのユニークな方法となっている。当研究プロジェクトにおいて鍵となるのは、クロスバー構造の基本としてのナノワイヤー配列の各部に電気的にアクセスして、そこでのスイッチング特性などを測定することである。これは多探針顕微鏡をWellandグループにも建設して、そこで作製されたナノ構造をその場で評価することを含んでいる。ここでは特に密接な協力関係が必要であり、それによって青野グループで開発された技術がWellandグループの開発研究を加速することになる。

2. カーボンナノチューブのクロスバー配列
 細さに関して極限的なナノワイヤーは1重のカーボンナノチューブである。Wellandグループにおいて既に行われている1重のカーボンナノチューブを合成しそれを様々な物質で満たす研究は、クロスする2本のナノチューブのクロス点においてスイッチング機能を実現するために用いることができる。1つの方法は2本のナノチューブのクロス点でのスピンのカップリングを利用することである。もう一つの可能性は青野グループで開発されたクロスバー構造と類似のスイッチング機能を実現するためにナノチューブを化学的に修飾することである。

3. ナノ加工技術
 電子ビーム加工あるいはナノ印刷加工を用いてWellandグループはナノワイヤーの配列構造を作製し、それを青野グループへ供給し、化学修飾や各種評価が行われる。Wellandグループはその作製を銅と銀を用いて開始するが、光を用いて外部から制御可能な光ウエーブガイド構造の探索も行う。予想される研究期間は5年である。このサブプロジェクトは当研究プロジェクトの全体の成功に係わるので、5年の全期間を通じて研究を行う必要がある。

図1  ジアセチレン化合物分子の平坦な単分子膜に様々な間隔(13~26 ナノメートル)で人工的にポリジアセチレン高分子鎖を形成し、走査トンネル顕微鏡(STM)によって観察した結果(図の領域の大きさは100 ナノメートル平方)。図において明るく飛び出した直線構造がポリジアセチレン高分子鎖で、それぞれはSTM の探針によって膜の1点を刺激して連鎖重合反応を誘起せしめて形成された。これはナノワイヤーの形成の一例で、「ナノ量子導体アレー」プロジェクトではこのようなナノワイヤーの組み合わせによって新しいコンピューターアーキテクチャーを形成してゆく(図2参照)。

図2  ナノスケールの量子導体(ナノワイヤー)の組み合わせによって新しいコンピューターアーキテクチャーを構築する概念図。「ナノ量子導体アレー」プロジェクトはこの図のような単純なナノワイヤーのクロスバー構造に記憶や演算の機能を持たせる研究を行う。そのために、個々のクロス点においてナノワイヤー間に電気的あるいは磁気的な相互作用をもたせる。これによって、現在のシリコン半導体素子を基本とするエレクトロニクスを凌駕する新しいナノエレクトロニクスの実現を目指す。

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This page updated on March 18, 2003

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