<用語解説>
*1  量子ビット
 量子演算を行う情報の最小単位で、デジタル信号の1ビット(0または1)と異なり、0と1の重ね合わせ状態(例えば、0が30%で、1が70%という確率情報)をとりえる物理的実体により構成される。光子の偏光の他、光子の位置や位相、電子の有無、電子スピン、核スピン、二準位原子・分子、超伝導電流の方向などで実現される。

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*2  量子情報処理
 量子力学の不思議な性質を利用して古典的にはできない情報処理を行うこと。不思議な性質とは主に (1)重ね合わせ状態と観測による量子ジャンプ、および (2)エンタングルメントを指す。量子コンピューティング、量子暗号、量子テレポーテーション等が含まれる。

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*3  一括操作
 複数の系があるとき古典的操作は全て個々の系への操作に分解できる。たとえば系1の測定、系2への電圧の印加、それらの同時進行などである。しかし量子力学では新たに「両者がエンタングルした状態への量子ジャンプ」など、個々の系への操作に分解できない全体操作があり、それらを一括操作と呼ぶ。技術的にはその制御はチャレンジングな研究課題である。

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*4  量子コンピューティング
 エンタングルした量子ビットは、爆発的多数の可能性を、それほど多くない数の量子ビットで表すことができる。これを利用し複雑な計算を並列処理するのが量子コンピューティングであり、原理的に従来のコンピュータをはるかにしのぐ性能が得られる。特に公開鍵暗号を破る力があるとされている。

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*5  量子暗号
 「量子力学的信号は傷つけずに覗くことができない」という原理を用いて、送られた乱数表についた傷は全て盗聴行為によるものと仮定し、乱数表を縮めて傷を直したものを秘密鍵暗号の鍵とする暗号方式。盗聴者を含めた安全性の理論にはエンタングルメントが不可欠だが、送信者と受信者のみに限ると、必要なテクノロジーとしてエンタングルメントを使うものとそうでないものがある。量子暗号は量子コンピューティングができても破られない。

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*6  量子テレポーテーション
 「量子状態を含めた物質の状態の情報」を古典的通信のみで送ること。ただし準備としてエンタングルしたペアを送信地点と受信地点に配布しておくことが必要である。完全なテレポーテーションには完全なエンタングルメントがリソースとして必要である。

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*7  光カー効果(optical Kerr effect)
 光ファイバーの中で発生する非線形光学現象。電界の強度に比例して屈折率が変化する現象は、一般に「カー効果」というが、光の強度に依存して屈折率が変わる非線形の屈折率現象を特に「光カー効果」と呼んでいる。

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*8  干渉のコントラストv(visibility)
 干渉の強さを表す指標で、干渉縞の明暗の最も明るい部分の明るさをM、最も暗い部分の明るさをmとしたとき、v≡(M-m)/(M+m)で定義される。v=0は干渉ゼロ、1は完全な干渉を表す。vの大小とエンタングルメントの大小は常に対応するとは限らないが、エンタングルメントの存在を証明する他の測定に補われれば、エンタングルメントの強さを視覚的直観に訴える指標であり、測定も困難ではない。

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*9  EOF (entanglement of formation)
 「そのエンタングルメントのペア1個を造り出すために完全なエンタングルメントのペアが平均何個必要か」という量を表し、0(エンタングルメント無し)から1(完全なエンタングルメント)までの値を取る。エンタングルメントの計量として優れているが、下限推定値でなくこの値そのものを測定するためには、次項の量子トモグラフィを行う必要がある。

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*10  量子トモグラフィ
 たとえば脳の状態を知りたい場合、MRIやCTスキャン等の断層写真を撮るが、これは古典系の状態が密度分布で表わされるからである。量子状態で密度分布に相当するのは密度行列であるが、未知の状態にある量子力学的な物理系(光子など)が与えられた場合、その密度行列を実験的に求めることを量子トモグラフィと言う。その考え方や方法はCTスキャンと似ている。テレポーテーションやエンタングルメント蒸留等がどの程度忠実に行われたかを定量評価する際に不可欠となる。

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This page updated on January 23, 2003

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