科学技術振興事業団報 第290号
平成15年1月17日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

「ウイルスに対する免疫応答のシグナル伝達に関与する
新規蛋白質(TICAM-1)の発見」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)の戦略的創造研究推進事業で進めている研究テーマ「自然免疫とヒト難治性免疫疾患」(総括:岸本忠三;研究代表者:瀬谷司)の一環として、タイプIインターフェロン産生を強力に誘導する新規蛋白質(アダプター分子)、TICAM-1を発見した。TICAM-1はウイルス由来二重鎖RNAを認識する自然免疫のレセプター、Toll-like receptor 3 (TLR3) と特異的に連動するので、ヒト細胞をウイルスから守る機構の1つを解明したことになる。本成果は大阪府立成人病センター研究所免疫学部門、瀬谷司研究所長のグループによって得られたもので、将来的には全く新しいタイプの抗ウイルス剤、抗がん剤の開発へ展開するものと期待される。
 なおこの成果は、1月21日付の英国科学雑誌「ネイチャー・イムノロジー」オンライン版で発表される。

≪背景≫
 Toll-like receptors(TLRs)は細菌やウイルスの構成成分を認識する一群の膜受容体で、昆虫からヒトまで広く保存されている。TLRsは、昆虫では形態形成と感染防御に、ヒトでは病原微生物の感染防御に重要な働きをする。1997年に、Medzhitov博士とJaneway博士が最初に昆虫Tollのヒトホモログを報告して以来、次々とToll familyが発見された。ヒトでは10種類 (TLR1¯10) 存在する。各TLRは細胞外領域で様々な微生物成分を認識すると細胞内ドメインを介してアダプター分子と結合し、炎症性サイトカインやタイプIインターフェロン産生を誘導して感染防御に働くことが明らかとなっている。即ち微生物応答の多様性はアダプター分子の選択が1つの鍵になる。

≪TLR3はウイルス由来二重鎖RNAを認識し、IFN-α/β産生を誘導する≫
 長い間、ウイルス感染防御にTLRが関与するかどうか明らかでなかった。Toll-like receptor 3 (TLR3)は繊維芽細胞や樹状細胞に存在し、ウイルス感染に伴い生じるウイルス由来二重鎖RNAを認識し、タイプIインターフェロン(IFN-α/β)産生を誘導して抗ウイルス感染防御に働くことが、昨年Flavell博士らのグループと松本美佐子主任研究員(大阪府立成人病センター研究所)により報告されたが、その誘導機構は不明であった。

≪TICAM-1はTLR3と会合する新規アダプター分子である≫
 瀬谷研究所長のグループは今回TLR3を介したIFN-α/β産生誘導がTLR familyの既報のアダプター分子であるMyD88やTIRAP/Mal以外のアダプター分子に依存することを見出した。TLR3と会合する分子をyeast-two-hybrid法を用いて単離し、TICAM-1と名付けた。TICAM-1は、TIR ドメインを有しTLR3と特異的に会合することから、TLR familyに属する新規アダプター分子であると考えられた。

≪TICAM-1はIFN-β産生を強力に誘導する≫
 TICAM-1を哺乳動物細胞に発現させると、IFN-βの転写を強力に促すことがわかった。 また、TICAM-1は転写因子のNF-κBの活性化も誘導する。IFN-βの転写誘導には転写因子のIRF-3が燐酸化されることが必須であるが、TICAM-1を過剰発現させるとIRF-3が燐酸化され、IFN-βが産生されることも明らかとなった。TICAM-1産生を抑えた繊維芽細胞では、二重鎖RNAによるTLR3を介したIFN-β産生が阻害されることから、TICAM-1が繊維芽細胞において実際にウイルス感染時のIFN-β産生に関与していることが明らかとなった。

≪抗ウイルス治療、癌治療への応用と将来展望≫
 ウイルスはAIDSなど難治性疾患の原因であり、かつC型肝炎ウイルスやHTLVのように発がんを誘起する例も知られている。これらは感染を基盤として起こるのでTLRなどの自然免疫の活性化が有効かも知れない。TICAM-1 は強力なIFN-β産生誘導能をもつのでこれらウイルス疾患、ウイルスによって2次的に発症するがんなどに抑制効果を期待できる。

≪まとめ≫
 今回の成果は、Toll-like receptors 3 (TLR3) に結合し、タイプIインターフェロン産生を誘導する新規アダプター分子、TICAM-1を発見し、TLR3とTICAM-1間の経路が抗ウイルス感染防御に重要な働きがあることを初めて明らかにしたものであり、将来的に全く新しいタイプの抗ウイルス剤や抗がん剤の開発へ展開するものと期待される。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:免疫難病、感染症等の先進医療技術(研究統括:岸本忠三、大阪大学 総長)
研究期間:平成13年度~平成18年度

*****************************************************************************
本件に関する問い合わせ先:
 瀬谷 司(せやつかさ)
  大阪府立成人病センター研究所 免疫学部門
   〒537-8511大阪市東成区中道1丁目3-2
   TEL:06-6973-1209 FAX:06-6973-1209    

 蔵並 真一(くらなみしんいち)
  科学技術振興事業団 研究推進部 研究第二課
   〒332-0012 川口市本町4-1-8
   TEL:048-226-5641 FAX:048-226-1164
****************************************************************************




This page updated on January 20, 2003

Copyright©2003 Japan Science and Technology Corporation.