戦略的基礎研究推進事業の概要


1.事業の趣旨

 「科学技術創造立国」を目指し、明日の科学技術につながる知的資産の形成を図るため、大学や国立試験研究機関等に所属する研究者が、その研究機関の研究ポテンシャルを活用しつつ、基礎研究を実施するものである。

2.事業のしくみ

(1) 国(科学技術庁)が科学技術政策に基づいた戦略目標を決定し、科学技術振興事業団 (以下「事業団」という。)に示す。事業団は、その戦略目標の下に推進すべき研究領域を設定する。
(2) 事業団は設定した各研究領域について、研究提案を募集する。
(3) 事業団は研究領域ごとに研究統括を置く。研究統括は、研究提案の選考の責任者となるとともに、個々の研究の実施について、研究進捗状況の把握およびその調整、研究者に対する助言などを行う。
(4) 本事業は、研究代表者を中心とした研究システムである。研究代表者には、自らの研究構想を実現するために、数名〜二十名程度からなる研究チーム(研究を行うための研究者、研究補助者などの集団)を編成し、研究を実施していただく。研究代表者は研究実施期間を通じ、研究の実施、予算の施行・管理等研究全体に責任を持つこととなる。
(5) 研究チームは、研究代表者と同一の研究機関に所属する研究者のみならず、外部の研究機関や企業の研究者等が参加する多様な人材で構成されることを想定している。
(6) 研究提案の選考は、研究統括が選考アドバイザーの協力などを得て行う。事業団はその選考結果を受け、研究代表者および研究課題を選定する。
(7) 研究代表者および研究課題が選ばれると、事業団は、研究統括の意見を聞きながら、研究代表者と相談の上、研究代表者ごとに研究実施の基本となる研究計画および初年度の研究実施計画を決める。研究実施計画は毎年度ごとに作成する。
(8) 併せて事業団は、研究チームを構成する研究代表者や研究者の所属する研究機関と研究契約を締結する。研究機関が国立大学、国立大学附属研究所、大学共同利用機関などの場合は委託研究契約、上記以外の研究機関の場合は共同研究契約となる。
(9) 研究契約が締結された後、研究代表者を中心に研究を実施していただく。一研究課題の研究期間は5年を限度とする。
(10) 本事業では、若手研究者(ポスドクなど)、外国人研究者、研究補助者などの研究への参加を期待している。研究機関が雇用することのできない研究者などが必要な場合は、研究代表者の要請に基づき事業団が雇用して研究チームに派遣することが可能である。
(11) 研究実施場所は、主に研究代表者や研究チームの研究者が所属する研究機関とするが、研究の遂行上必要と認められる場合には、事業団が必要最小限の範囲内で研究実施場所を別途確保することが可能である。
(12) 一研究課題当たりの研究費は、年間平均して5千万円程度から2億円程度(研究期間が5年間の場合、総額で2億円程度から10億円程度)を想定しているが、研究の内容、実施体制、進捗状況などによって変動することとなる。
年度ごとの研究費は、事業団が研究統括、研究代表者と相談した上、研究内容、研究実施体制、研究進捗状況などを考慮して毎年度ごとに額を決定することとしている。研究費には、設備費、材料費、雇用する研究者などの給与、旅費、ワークショップやシンポジウムなどの開催費等が含まれる。なお、その際既存の施設・設備を活用していただ くことを前提とする。
(13) 研究実施に伴い発生した特許権などの知的所有権の扱いは以下の通り。
 @共同研究契約に基づき研究を推進する場合は、事業団と発明を行った研究者との共有とする。但し、研究者が所属する研究機関に権利を譲渡した場合、事業団と研究機関との共有となる。
 A委託研究契約に基づき研究を推進する場合は、出願は原則として委託先で行うこととなるが、特許などが成立した場合、研究交流促進法に基づき、事業団は権利の一部の譲渡を受ける。
(14) 本事業に参加する研究者は、国内外に対し、積極的に研究成果を発表することとし、併せて、事業団が毎年主催するワークショップ、シンポジウムに参加して研究成果を発表していただく。こうした機会を通じて、研究成果などについて外部の評価を得、これらをその後の研究運営に活用していくこととする。
(15) 研究統括ごとに研究事務所を設置し、設備・材料の購入や出張の手続きなど、研究の日常的なお世話をする。研究事務所には、研究計画の調整、研究進捗状況の把握、特許出願、外部発表の手続きなどの業務を行う技術参事、設備や材料の購入、物品管理、出張手続きなどの業務を行う事務参事などが常駐し、研究統括のもとで研究者の支援を行う。

3.戦略目標および研究領域

(1)戦略目標「大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦」の下の研究領域

研究領域「生命活動のプログラム」 研究統括: 村松 正實
(埼玉医科大学 教授)

 この研究領域は、生物に特徴的な生命現象の基礎にある生命活動の本態を、主として分子レベルで解明する研究を対象とするものである。
 具体的には、高等生物の発生・分化・癌化・老化等を含む生命活動の基本にあるメカニズムやそれを遂行するプログラムについてさまざまな方向から追求するものであり、分子レベルの解明を必要とする種々の研究の基礎ともなるものである。

研究領域「生体防御のメカニズム」 研究統括: 橋本 嘉幸
((財)佐々木研究所 所長)

 この研究領域は、生物が自らを守るために備えている生体防御のメカニズムについての研究を対象とするものである。
 具体的には動物から植物に至る種々の生物の備えている免疫機能や外敵防御の機構を、個体、組織、細胞、分子・遺伝子等の観点から追及する。さらに生体防御の破綻を引き起こす種々の疾病(免疫関連疾患、ウイルス性疾患、癌等)の誘因や、その診断・治療および予防に関する基礎生物科学的な研究も対象とする。

研究領域「量子効果等の物理現象」 研究統括: 川路 紳治
(学習院大学 教授)

 この研究領域は、原子レベルでの極微細構造に特異的に現われる量子効果等の物理現象についての研究を対象とするものである。
 具体的には、固体内の分子、原子、電子等のふるまいや、それに伴うさまざまな量子効果等についての研究が含まれる。また、このような量子効果以外の極微細領域に現れる現象の先端的研究も対象とする。

研究領域「単一分子・原子レベルの反応制御」 研究統括: 山本明夫
(早稲田大学 客員教授)

 この研究領域は、単一分子・原子レベルの反応に注目し、新規な物質や狙った物質を得る各種の化学反応の研究を対象とするものである。
 具体的には、反応場での分子・原子レベルの反応を理解し、それを制御する反応等を物理・化学・生物的観点から追求すること等が含まれる。
 特に、各種の化学反応を究極的に制御し、伝統的化学の方法論のブレークスルーにつながるような先端的研究を対象とする。

研究領域「極限環境状態における現象」 研究統括: 立木 昌
(金属材料技術研究所 客員研究官)

 この研究領域は、極限環境下における物質の現象についての研究を対象とするものである。
 具体的には、超高温、極低温、超高圧、超高磁場、極高真空、微小重力場等の極限状態において特異な物理・化学的現象を示す物質を分子・原子・電子のレベルで解明すること等が含まれる。また、新物質の創製、極限環境の創出技術、実用材料の開発へ道を拓くような先端的研究や特殊環境下における生物の機能についての先端的研究も対象とする。

(2)戦略目標「脳機能の解明」の下の研究領域

研究領域「脳を知る」 研究統括: 大塚 正徳
(日本臓器製薬(株)生物活性科学研究所 名誉所長)

 この研究領域は、脳機能の解明のうち、人間たる所以の根元である脳の働きの理解を目標とする研究を対象とするものである。
 具体的には、「脳の発生分化機構」「神経回路網の構造、機能と形成機構」「脳の高次機能(記憶、学習、意識、情動、認識と生体リズム等)」「コミュニケーションの脳機能」の解明を目標とする。

研究領域「脳を守る」 研究統括: 杉田 秀夫
(国立精神・神経センター 総長)

 この研究領域は、脳機能の解明のうち、脳の老化、疾病のメカニズムの理解と制御を目標とする研究を対象とするものである。
 具体的には、「脳の発達障害の制御」「脳の老化の制御」「神経・精神障害の機構の解明」「神経・精神障害の修復法の開発」を目標とする。

研究領域「脳を創る」 研究統括: 甘利 俊一
(理化学研究所国際フロンティア研究システムグループディレクター)

 この研究領域は、脳機能の解明のうち、脳型情報処理システムの構築を目標とする研究を対象とするものである。
 具体的には、「脳型デバイス・アーキテクチャ(学習、連想記憶等)」「情報生成処理(認知認識、運動計画、思考、言語、評価、記憶等)システム」の構築を目標とする。

(3)戦略目標「環境にやさしい社会の実現」の下の研究領域

研究領域「環境低負荷型の社会システム」 研究統括: 茅 陽一
(慶應義塾大学 教授)

 この研究領域は、ひっ迫した環境問題に対して、地球との共生と持続的な発展を目指したクリーンな社会システムの実現に関する研究を対象とするものである。
 具体的には、資源のリサイクル、有効利用を概念とするLCA評価の高い生産システム、低エネルギー・資源消費、効率的なエネルギー・資源の利用を基盤とする環境低負荷型の社会/生活/都市/住宅実現のための実証的・システム的研究を中心に、 環境汚染の計測/評価/制御のための革新的な技術開発等も対象とする。

研究領域「地球変動のメカニズム」 研究統括: 浅井 冨夫
(千葉大学 教授)

 この研究領域は、地球環境に関して、地球規模の諸現象の解明とその予測に必要となる研究を対象とするものである。
 具体的には、地球規模での気候変動、水循環、地球温暖化、大気組成の変動、生態系の変動および地球内部変動についてのメカニズムに関し、これらを明らかにするためのプロセスの研究およびそのモデルの研究等を対象とする。


This page updated on March 26, 1999

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