科学技術振興事業団報 第287号
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「抗アポトーシス分子Bcl-2をミトコンドリアに局在させる機構を発見」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)の戦略的創造研究推進事業で進めている研究テーマ「細胞周期の再活性化による再生能力の賦活化」(研究代表者:中山敬一)の一環として、FKBP38が抗アポトーシス分子Bcl-2をミトコンドリアへ局在させることを発見した。この研究成果は、九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門分子発現制御学分野の中山敬一教授のグループによって得られたもので、将来的には全く新しいタイプの抗癌剤の開発へ展開するものと期待される。
 なおこの成果は、12月23日付の英国科学雑誌「ネイチャー・セルバイオロジー」で発表される。

≪背景≫
 アポトーシスとは細胞が自発的に死に至るメカニズムであり、「細胞自殺死」と呼ばれている。本年度のノーベル医学生理学賞を受賞したRobert Horvitz博士が線虫で行った遺伝学的研究は、アポトーシスの機構に関わる遺伝子群を発見したものであり、その中にはアポトーシスを促進するものと抑制するものがあった。ヒトにおいても、この抑制する分子Ced-9に類似する分子としてBcl-2と呼ばれる分子が存在する。このBcl-2は1985年に辻本賀英・現大阪大学大学院医学系研究科教授(当時は米国ウィスター研究所)らによって悪性リンパ腫細胞から発見された分子で、アポトーシスを強力に抑える作用があり、この分子が過剰に働くと癌細胞は抗癌剤に対して抵抗性になる(抗癌剤で死ににくくなる)。1993年に中山教授ら(当時は米国ワシントン大学ハワードヒューズ研究所)は世界で初めてBcl-2の遺伝子を人工的に破壊したマウスを作製し、体内の種々の細胞においてBcl-2がそれらの細胞の長期生存に必要な遺伝子であることを証明した。



≪Bcl-2はミトコンドリアで機能する≫
 Bcl-2は細胞内のミトコンドリアという小器官の膜上に存在しており、ミトコンドリア膜に局在しないとその機能を発揮できない。今までどのようにBcl-2がミトコンドリアへ運ばれるかは全く不明であった。



≪FKBP38はBcl-2をミトコンドリアに運ぶ≫
 中山教授らは今回FKBP38と呼ばれる分子がミトコンドリア膜上でBcl-2と結合していることを発見した。FKBP38の発現量を増加させるとミトコンドリア上のBcl-2の量が増え、逆にFKBP38の発現量を低下させるとBcl-2はミトコンドリアに局在しなくなった。さらにFKBP38をミトコンドリア以外の場所(細胞質や細胞膜)に人工的に発現させてやると、Bcl-2もミトコンドリアを離れてその場所に移行してしまうことがわかった。



≪FKBP38は癌細胞のアポトーシスを制御する≫
 このようなFKBP38の性質から、FKBP38はアポトーシスに対して抑制的に働く分子であることが予想された。そこでFKBP38を過剰に発現させたヒト子宮癌細胞に抗癌剤処理や放射線照射を行うと、正常では起こるはずのアポトーシスが起こらなくなった。逆にこの子宮癌細胞のFKBP38の発現量を人工的に低下させてやると、抗癌剤処理や放射線照射に対して容易にアポトーシスが起こるように癌細胞の性質が変化することが明らかとなった。



≪癌治療への応用と将来展望≫
 多くの癌細胞においてはアポトーシスが起こりにくくなっており、これが抗癌剤や放射線による治療がしばしば効を奏さない理由の一つである。このようなアポトーシス抵抗性の癌細胞に対してアポトーシスを起こしやすくする戦略の一つとして、FKBP38阻害薬を用いてBcl-2のミトコンドリア移行を抑制すれば、抗癌剤や放射線による治療により効果的に癌細胞を殺すことができる可能性がある。つまりFKBP38阻害薬を併用することによって、従来は抗癌剤や放射線が効かなかった多くの癌に対して、効果的な治療が行えることが期待される。このような観点からの抗癌剤は未だ開発されておらず、全く新しい視点からの抗癌剤になり得ると思われる。



≪まとめ≫
 今回の成果は、FKBP38がアポトーシス阻害分子Bcl-2のミトコンドリア局在を決定していることを初めて明らかにしたものであり、将来的に全く新しいタイプの抗癌剤の開発へ展開するものと期待される。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:生物の発生・分化・再生(研究統括:堀田凱樹、国立遺伝学研究所 所長)
研究期間:平成14年度〜平成19年度

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概念図

本件問い合わせ先:
 中山 敬一(なかやまけいいち)
 九州大学生体防御医学研究所
    細胞機能制御学部門分子発現制御学分野
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This page updated on December 23, 2002

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