科学技術振興事業団報 第285号
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「単一分子光メモリの開発」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)は、戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「完全フォトクロミック反応系の構築」(研究代表者:入江正浩 九州大学大学院工学研究院 教授)で進めている研究の一環として、蛍光を利用して単一の分子を用いた光メモリを動作させる原理を見いだした。これにより、光メモリの飛躍的な高集積化に道を開くものと期待される。この研究成果は、九州大学大学院工学研究院、入江正浩教授らの研究グループによって得られたもので、平成14年12月19日付けの英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 大量の情報が世界中を飛び交う情報化社会を迎え、莫大な量の情報をいかに小型の装置に蓄えるかが重要な課題となっている。現在、光メモリは、可搬性のある(記録媒体を取り出せる)大容量記録方式として地位を保ってはいるが、磁気記録に記録密度の点で追いつかれてきている。しかし、究極の高密度化と言う視点に立てば、光メモリの方が優れている。なぜなら、光メモリでは、原理的に分子1つずつに情報を記録することが可能であるからである。分子1つ1つに情報が記録できれば、1ペタビット/in2の高密度化が実現するが、分子1つ1つに情報が記録できるということは、今まで誰にも実証されていなかった。
 本研究では、フォトクロミック光スイッチ分子を用いて、分子1つ1つに光情報を蓄えることが可能になることを実証した。フォトクロミック分子は、光子の情報を、分子構造を変えることにより蓄える。言い替えると、光子1つの情報が分子1つに構造変化として蓄えられることになる。そして、この分子構造変化は、分子を適切に設計すれば、蛍光性のある/なしとして読み出すことができるはずである。今回、ジアリールエテン光スイッチ分子を用いて、に示したように、分子1つ1つの蛍光を分離して検出し、それら1つ1つの分子がON 状態(光子情報を蓄えている)であるか、OFF 状態であるか(光子情報を蓄えていない)を判定し、読み出すことに成功した。さらに、紫外光照射によりON 状態からOFF 状態へ、可視光照射によりOFF からON 状態へデジタル的に変換させるこができるので、1つの分子に光情報を記録し、また消去することが可能となった。
 これまで、こういった現象を実証することができなかった最大の理由は、光劣化しにくい高耐久性フォトクロミック分子が存在していなかった事による。入江教授らのグループは、高い光耐久性と熱安定性をあわせもつジアリールエテンと総称される新しいフォトクロミック分子群を開発し、単一分子蛍光計測にも耐える分子の合成に成功した。
 この「単一分子光メモリ」の特徴は、超高密度記録であるのみならず、これまでのどの記録方式よりも高感度で数個の光子で書き込むことが可能であり、究極の光メモリへの道が拓かれたことになる。また、ON/OFFデジタル的に光応答することから、分子オプトエレクトロニクスへの応用の可能性も秘めている。

 この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
  研究領域: 単一分子・原子レベルの反応制御
(研究統括:山本 明夫 早稲田大学理工学総合研究センター 顧問研究員)
研究期間: 平成9年度~平成14年度

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<語句説明>
ペタ:10の15乗。
フォトクロミック分子:光をあてると可逆に色を変える分子のこと。

図 単一分子の蛍光スイッチ

本件の問い合わせ先:
(研究内容について)
  入江 正浩(いりえ まさひろ)
九州大学大学院光学研究院応用化学部門
〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
TEL:092-642-3556  Fax : 092-641-3167
(事業について)
  森本 茂雄(もりもと しげお)
科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5635  Fax : 048-226-1164



This page updated on December 19, 2002

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