科学技術振興事業団報 第277号
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国際共同研究事業における成果について

「細胞のカルシウム振動を引き起こすIP3レセプターの3次元結晶構造の解明」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)と理化学研究所(理事長 小林俊一)は、生命現象に必須で、細胞内カルシウム振動を引き起こす原因分子であるイノシトール三リン酸(IP3)レセプター(細胞の中のカルシウムの袋からカルシウムを放出するのに重要な栓の役割を持っているチャネル分子)のIP3が結合する部位の結晶化に成功し、3次元X線結晶構造の解明に世界で最初に成功しました。本研究の成果は、英国科学誌ネイチャーより、11月18日午前4時にインターネット版 nature(http://www.nature.com)の Advance Online Publication(AOP)上にて公開されます。

 これは、科学技術振興事業団の国際共同研究事業、カルシウム振動プロジェクト(代表研究者は理化学研究所 脳科学総合研究センター 発生神経生物研究チームリーダー/東京大学医科学研究所教授 御子柴克彦氏、及びスウェーデン カロリンスカ研究所小児科科長/教授 アニタ・アペリア氏)が、理化学研究所 分子神経形成研究チームリーダー 古市貞一氏、東京大学医科学研究所助手 道川貴章氏、カナダトロント大学教授 伊倉光彦氏との研究成果です。

 カルシウムイオン(Ca2+)は、金属イオンとしては唯一の細胞内セカンドメッセンジャーであり、生理的な状態の細胞内Ca2+濃度は、10-7 M、細胞外濃度は10-3 Mを維持しています。外界からの種々の刺激に対応して細胞外からの細胞表面膜を介するCa2+流入と、細胞内小器官(滑面小胞体や核膜など)からのCa2+放出が協調的に働き、時間的・空間的に特異な細胞内のCa2+変動を生じ、多様な生理機能を引き起こします。

 カルシウムは地核を構成する全元素の3 %を占め、金属元素ではアルミニウム、ナトリウムに次いで3番目に豊富なものであり、天然水に比較的大量に含まれています。また、Ca2+は生体において必須のシグナル伝達分子として生理機能に関わっています。動物体内に存在するカルシウム総量のほとんどは、骨、歯、などの硬組織にヒドロキシアパタイトの形で析出しており、きわめてわずかな量のカルシウムがイオン(Ca2+)の形で細胞内外の体液中に存在しています。細胞内のCa2+濃度は10-7 Mと非常に低く保たれています。細胞膜を介して細胞外からCa2+が流入したり、細胞内小器官から細胞質内にCa2+が放出されることにより、Ca2+依存性の種々の生理機能が活性化されます。そして、いったん上昇した細胞内のCa2+は種々の排出系により速やかに細胞質外あるいは小胞体内へ移り、細胞内は再び低Ca2+濃度定常状態に戻ります。Ca2+の関与する細胞機能は以下の様に多岐に渡っています。

(1) 刺激−分泌共役(ホルモン分泌、神経伝達物質放出)
(2) 刺激−収縮共役(筋収縮)
(3) 神経伝達物質の生合成
(4) 細胞の形態、運動
(5) 細胞分裂
(6) 軸索流
(7) シナプスの可塑性
(8) 遺伝子発現
(9) 受精
(10) 背腹軸決定(腹側化因子として)

また、これら以外にも種々の代謝反応などがあります。

 ホルモンや成長因子、神経伝達物質などの細胞外刺激物質の多くは、細胞内セカンドメッセンジャーであるIP3の産生を引き起こします。IP3は細胞内小器官上に存在するIP3レセプターに結合し、チャネルの開口を誘導することで細胞内のCa2+濃度を上昇させます。このようにIP3レセプターが働くためには、リガンド(作用物質)であるIP3が結合しなければなりません。IP3レセプター上には特異的にIP3と結合する部位があり、この部分だけを人為的に作成するとIP3吸収体(IP3スポンジ)として働くことがわかっています。IP3スポンジは、情報伝達のために細胞が本来生成しているIP3の細胞内濃度を変化させることで、上記の様々な細胞機能を調節しうる可能性を持つ物質であり、創薬の点からもIP3結合部位がいかにしてIP3を認識するかを知ることは大変重要であります。

 今回の成果はIP3レセプターのIP3結合部位を結晶化し、X線結晶構造解析により3次元構造を明かにしたというものです。これによりIP3がサンドイッチのように2つの分断された配列により認識される様子を目で見ることが出来ました。この成果から1)この部位を認識する新しい天然のリガンド(IP3と同じ作用を持つ物質)のスクリーニング、2)IP3を認識し可視化するIP3インディケーターの作製、3)IP3スポンジとしての強力な細胞機能の調整薬の作製が可能となります。


◇図1 IP3およびCa2+をメッセンジャーとする細胞内情報伝達系
◆図2 IP3レセプターが関与するさまざまな生理機能
◇図3 イノシトール三リン酸
◆図4 IP3誘導Ca2+放出
◇図5 IP3レセプターの構造
◆図6 IP3レセプターのIP3結合部位の3次元構造
◇図7 IP3レセプターによるIP3認識の分子メカニズム
◆図8 IP3スポンジによる細胞機能調節




(1)科学技術振興事業団 国際共同研究事業「カルシウム振動プロジェクト」
代表研究者:御子柴 克彦
以下の時間は、御子柴先生は会議中につき、コンタクト不可
15日:16:00〜17:00
研究者:道川 貴章
東京大学医科学研究所
TEL:03-5449-5316  FAX: 03-5449-5420

(2)科学技術振興事業団 国際室
調査役 鈴木寿春
TEL 048-226-5630  FAX 048-226-5751

(3)理化学研究所 広報室
嶋田 庸嗣
TEL 048-467-9271 FAX048-462-4715


This page updated on November 18, 2002

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