[補足説明]

テラ光情報基盤技術開発の主な研究成果

 21世紀は光の拓く時代と言われ、特にライフサイエンス、情報通信、ナノテク、環境などの国の科学技術基本施策として進めている重点分野において、光の果たす役割は計り知れないものがあります。特に、近未来の情報化社会における映像や種々の大容量情報の超高速処理・伝送の需要の増大はとどまるところを知らず、現在の電子技術だけではそれに対応するには限界があり、新しいブレークスルーが求められています。本プロジェクトでは、従来の情報システムとは全く異なる、新しい発想に基づく全光型の超高速フォトニック情報システムの開発を目指して、システム・デバイスなどの光情報基盤技術の開発を行ってきました。

◇超高速時空間テラ光情報変換・伝送システムの提案と実証システムの開発
 フェムト秒パルスレーザーは、多くの波長を持つ光が数十ミクロンのパルス幅に凝縮され、数十ナノ秒(1億分の1秒)の時間間隔で発生します。従来の画像通信では画像を走査し、デジタル信号列にして送っていました。本システムでは極短光パルスの持つ時間情報と周波数情報の2次元性を利用し、1つの極短光パルスに2次元空間情報を記録(変調)させることで情報伝送量を画期的に増加することができる、全く新しい全光型の超高速情報通信技術を提案しました。実証システムを試作し、送信、伝送、受信の各段階における基礎実験に成功し、現在までに毎秒15テラビット(1テラ=1兆)を超える情報変換・処理能力を達成することができました。これは、電気信号の処理能力50ギガビット(1ギガ=10億)の300倍に相当します。また、試作システムに装備する新しい光学素子を開発しました。本システムの応用として、極短光パルス信号の実時間波形画像計測システム(光スペクトログラムスコープ)の開発や次世代光通信システムに必要な超高速フォトニックネットワーク用全光型ルーティングシステムの考案をあわせて行いました。提案した新技術は電気信号と光信号間の変換を伴わない光制御のみによる超高速(超広帯域)の次世代フォトニックネットワークを実現する技術としてその可能性が期待されております。


図1 実証実験システム(画像伝送システム)の構成図


図2 変調時間信号からの文字画像の展開(変換レート3Tbps)

◇カード型画像情報入力システムの実証試作システムの開発
 厚さ5mm以下の超薄型画像情報入力モジュール(TOMBO:Thin Observation Module by Bound Optics)の研究開発を行いました。昆虫のような複眼光学系の利用とディジタル信号処理との組み合わせにより極めて薄い形態のモジュールが実現できました。新しいCMOSイメージセンサの開発・試作とデモンストレーションシステムを完成させ、それに必要な新しい画像再構成アルゴリズムの開発に成功しました。これにより、2mm厚さの超薄型入力モジュールの実現が可能になり、将来のユビキタス社会における個人情報端末などへの展開が期待できます。

図3 TOMBOシステム図4 試作プロトタイプの一例
(a) 複眼画像(b) 再構成画像
図5 取得画像の例

◇高精密微細光学素子作製技術の確立
 電子ビーム描画装置や高密度プラズマエッチング技術を用いて、高精密微細光学素子作製技術を確立し、上記光情報システム構築に必要な高機能高精密光学素子を作製しました。
 その主なものは、
・ 高分散高回折効率フィルター
・ サブ波長(0.3ミクロン以下)の構造を利用した新しい光部品の開発
・ 表面微細構造の作製・複製技術 です。

 これらの技術は、現在や次世代の光情報・通信システムにとって有効な技術として企業の関心が高いものです。

 このような技術の確立により、コア研究室(先端光ファクトリー)は、高機能光学素子研究開発の国内最高の研究拠点と評価されています。
図6 石英ガラス基板上の
表面無反射構造

<用語の解説>
フェムト秒パルスレーザー
 人類がこれまでに達成した最も時間幅の狭い超極短光パルス。実用・市販されている代表例は、パルス幅60フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒、光が僅か0.3ミクロン進む時間)、繰り返し周期80MHzの極短光パルス光源を生成する。チタンサファイア非線形結晶をレーザー共振器に配置し、多数(約100万)の波長の光の波長ピークを揃えるモード同期法というレーザー発振原理で生成する。従ってフェムト秒パルスレーザーを分光器に通すと多数の波長の光に分波する。

ルーティングシステム
 不特定多数の加入者から不特定のタイミングで送られてくる情報を光通信路によって目的とする多数の受信者に送信するときには、通常、パケット(一塊りの情報)として送信する。送られてきた信号を目的とする多数の受信者に配信するためにそれらを仕分ける装置が必要となる。ルーティングシステムはこれらに必要な機能をもつ統合・判別システムである。現在は光⇒電子、電子⇒光変換機能をもつスイッチ、デバイスで構成されているが、将来的には光電、電光変換が不要の全光型の超高速システムが望まれている。

光スペクトログラムスコープ
 光の飛行時間を考慮した光波の干渉現象を利用し、極短光パルスの周波数(波長)分布の時間的変化を2次元画像としてモニター上に実時間表示する波形計測装置。極短光パルスの光ファイバー中を伝搬するときの波形変化や、物質に極短光パルスを照射した時に生じる超高速過渡応答現象の観察など、光通信や物質評価の研究などに威力を発揮する。今までピコ秒(1兆分の1秒)以下の極短光パルスは通常の光電子計測装置ではデバイスの応答速度が遅く直接観測できなかったが、これを可能とする。
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This page updated on November 12, 2002

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