資料5

戦略目標

戦略目標: がんやウィルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立(平成14年度設定)
1. 名称
がんやウイルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立

2. 具体的な達成目標
2010年までに、免疫反応、がん転移などに関与する「糖鎖」及び糖鎖関連生体情報分子の探索及びその機能解析による情報伝達のメカニズムを解明し、副作用のないがん治療薬(がん細胞だけを特異的に攻撃する治療等)、各種ウイルス・バクテリア感染症の治療・予防薬(ウイルス・バクテリアの標的となる糖鎖を改変するなどによって感染を防止)、糖鎖の制御による遺伝子治療、免疫機能調整等の効率化などを実現することを目指して、以下を達成目標とする。
・細胞内及び細胞間ネットワークの情報伝達系可視化、超微量解析技術の開発  
・機能分子及び情報伝達分子の特定と機能修飾の解析
・生体膜構造と情報伝達の関連解析
・脳神経等における機能分子、形態形成・分化関連分子の機能修飾及び輸送・動態の解析

3. 目標設定の背景及び社会経済上の要請
ヒトゲノムの解析がほぼ終了し、ゲノム情報を活用したポストゲノム研究として、タンパク質の構造・機能解析や、遺伝子多型研究などの国家的なプロジェクトが進行しつつあるが、それとともに遺伝子やタンパク質のみでは表現できない多様な生物シグナル伝達物質として、「糖鎖」をはじめとする生体情報分子の意義が強く認識され、その機能発現のメカニズムを解明する重要性が高まってきている。
また、各種疾患は、生体情報分子の介在により、何らかの異常が細胞内に取り込まれることによって生じ、そのメカニズムの解明が、病気の予防・治療に貢献するなど、幅広い応用が期待される。
このため、今後は糖鎖の基礎的研究における我が国の強みを一層発展させ、新規医薬品等の開発につながる糖鎖の機能解析を推進するとともに、革新的な解析技術を開発することが重要である。

4. 目標設定の科学的裏付け
(1)科学的裏付け
糖鎖はタンパク質及び脂質等に結合して、細胞間の認識や相互作用に関わる働きをもち、がん、慢性疾患、感染症、免疫・脳・発生などの異常、老化などに関わっている。例えば、細胞ががん化すると糖鎖の構造変化が起こることが分かっている。
また、コレラ菌、O-157などの有毒性腸細菌やインフルエンザウイルスなどは、細胞の特定の糖鎖を認識し結合することにより、細胞に侵入し感染することなどが知られている(このことを利用してインフルエンザの症状を劇的に軽減する薬が開発されている。)。
がん、腎臓病、免疫疾患、感染症等に対する医薬品等の開発の重要なターゲットとなるタンパク質の多くは、特定の構造の糖鎖が結合していないと機能せず、あるいは、構造解析に必要な結晶化に困難をきたすので、ゲノム創薬を実現するためには、標的となるタンパク質の構造・機能解析を的確に行うには、適切な構造の糖鎖をタンパク質等に結合させることが必須であることから、糖鎖機能の解明を行うことは極めて重要である。
(2)我が国の研究能力及び海外の動向
糖鎖は、遺伝子やタンパク質に比べ解析が困難なため、主要生体高分子としての重要性を早くから認められていながら研究者の数が少ない領域であったが、我が国は伝統的にこの領域の研究を進め、世界をリードしてきた。
糖鎖の合成に関与する遺伝子はヒトでは約300個あると予測されているが、これまでに発見されている約110個の半数は日本人の手によるもの(米国は約3割、残りは欧州)。特許においても5割以上を日本人が出願している。
我が国では、10年以上前から他国に先駆けて糖鎖の機能研究を推進してきた経緯があり、今日、複数の世界的な研究拠点が形成されつつある。
また、脳神経、免疫系などの発生・再生過程及び異常症と糖鎖についても、大学等における多数の研究者が存する。
米国NSFは昨年9月報告書を発表し、その中で日本の糖鎖研究の先進性を指摘するとともに、糖鎖研究をポストゲノム研究の中心分野の一つとして位置付け、研究開発の促進を提言した。また、NIH(国立衛生研究所)では5年間で約44億円をかける糖鎖研究のプロジェクトを昨年9月から既に開始しているなど、米国においても糖鎖研究に対する取り組みが強化されつつある。
本目標の達成に向けた研究開発を推進するのに必要な基盤的な成果が現在生み出されつつあり、科学的ポテンシャルがある。ただし、近未来のゲノム創薬等を目指してさらに十分な科学的ポテンシャルを増すことが重要。

5. 重点研究期間
 平成14年度から平成16年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題につき概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を上げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)


戻る

This page updated on October 31, 2002

Copyright©2002 Japan Science and Technology Corporation.