評価結果 |
1. |
「半導体スピントロニクス」は、電子の電荷に加えスピンを利用することが新たな半導体エレクトロニクスを実現し得るものとして捉え、半導体におけるスピン物性を顕著に発現させる手法を探求するとともに、半導体中の電子スピンの制御技術を探索するものである。スピン偏極の形成・保持・輸送・制御・検出を可能とする材料・構造の探索、拡散ドリフト輸送や蓄積・緩和機構などのスピン物性の解明、強磁性相転移制御、スピンコヒーレンス制御などのスピン制御技術の探索など多面的かつ相補的に研究を展開することにより、半導体スピントロニクスという新たな研究領域を開拓するもので、超高速スイッチの実現や演算素子の高機能化など、これまでの半導体デバイスの優れた特性とスピン特有の機能の融合による新しい多機能素子などを創出し、さらには量子情報処理、量子情報通信を実現し得る可能性をも秘め、「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」に資するものと期待される。
大野英男氏は本研究領域に関連する先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
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2. |
「超構造らせん高分子」は、らせん構造が分子認識能、触媒作用及び情報機能を発現し得る要因の一つとして捉え、望みの向きに誘起したらせん高分子を基本骨格として、任意の化合物群を配列することにより、これらの機能を示すらせん構造の超分子を創製し、これを介して生命機能発現の原理の一端などを探求するものである。らせん高分子かららせん超分子を構築しうる方法論の確立、超構造らせんに由来する特異な分子認識能、触媒作用、情報機能の探索など相補的かつ多面的に研究を展開することにより、高分子化学と生命科学が融合した新たな研究領域など化学の新しい分野を開拓するもので、機能性材料、生体適合性材料などの分野における革新的な技術の芽の創出を通じ、「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」に資するものと期待される。
八島栄次氏は本研究領域に関連する先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
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3. |
「自然免疫」は、免疫系全体の理解のためには、従来より免疫研究の中心であった獲得免疫系のみならず、自然免疫系の解明が重要であるという認識のもと、自然免疫系に関連する分子機構を包括的に理解し、自然免疫系の活性化から獲得免疫系成立への関与を探求するものである。生体防御に重要な役割を果す受容体であるToll-like receptorファミリーの自然免疫における役割に関する知見を足がかりに、遺伝子改変マウスの作製・解析による生体レベル、蛋白質レベル、遺伝子レベルでの発現変化の網羅的探索、自然免疫系への関連が予想される分子群のそれぞれの生理機能、直接的、間接的相互作用の実態像の解明、自然免疫系活性化のメカニズムおよび獲得免疫系成立にいたる橋渡し機構の解明を目指す本研究領域は、生体防御に係わる新たな研究領域といえるものであり、免疫異常が深く関与する全身性エリテマトーデス、慢性炎症性腸疾患など難治性疾患の発症機構の解明や感染症予防に有効なワクチン、抗アレルギー剤など医薬品開発への展開が期待され、「先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出」に資するものと認められる。
審良静男氏は本研究領域に関連する先導的な研究を進めてきており、研究総括として相応しいと認められる。
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4. |
「環境応答」は、酸化ストレスや食餌性異物・毒物などの環境ストレスに対応して、生体内でのシグナル伝達物質である転写因子が解毒酵素群などの遺伝子発現を誘導するに至る、一連の生体防御のメカニズムの解明に取り組むもので、これにより生体の環境適応機構を探求するものである。転写因子の細胞内移行、安定化、さらには共役因子の競争的利用までを視野に入れて、生体内における活性化機構の解明やこれらの転写因子が果たす生理機能の解明を試みることにより、食餌性異物、活性酸素、低酸素などの環境ストレスに対する生体応答の包括的理解を深めることを目指す本研究領域は、環境適応メカニズムの破綻と疾病発症との関連性などの探求を通じて革新的医療の実現に寄与することが期待されるものであり、「技術革新による活力に満ちた高齢化社会の実現」に資するものと認められる。
山本雅之氏は本研究領域に関連する先端的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。 |