参考1-1
<さきがけプログラム>
【ポスドク参加型】

研究領域の概要、研究総括の募集・選考にあたっての考え方

(1) 「生体と制御」
研究総括:竹田 美文(実践女子大学生活科学部 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、感染症、アレルギー、免疫疾患等の発症のメカニズムを生体機能や病原微生物との関わりに着目して、分子レベル、細胞レベルあるいは個体レベルで解析することにより、これらの疾患の新しい予防法、治療法の基盤を築く研究を対象とするものです。
 具体的には、病原微生物のゲノム解析によって明らかとなった情報や、ヒトゲノム計画の進展によって得られたゲノム情報を利用したワクチンの開発や遺伝性疾患の解析、あるいは生体防御反応・免疫応答に関わる分子の生体レベルでの解析による免疫系疾患の病因解明、およびそれらに対する新しい治療方法の探索を目指す研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 ヒトゲノム計画の進展により、ゲノムの情報を研究に活用することができるようになっています。一方、病原ウイルスのゲノム情報が明らかになって久しく、病原細菌においても多数のゲノム情報が明らかになりつつあります。これらのゲノム情報を有効に活用して、生体と病原微生物とが複雑に関わっている感染症のメカニズムを明らかにする研究が新しい時代を迎えようとしています。また、アレルギーや免疫疾患の発症メカニズムの研究も、ゲノム情報の活用により新しい展開が期待されています。さらに、これまで別分野的要素が多かった感染症学と免疫学は、最近の自然免疫系の分子機構の解明に伴い、密接な関連性があることがわかってきています。また、病原微生物の関与が考えられる免疫疾患もいくつか報告されるに至っています。そこで、感染症、免疫疾患を包括的にとらえた新しい発想の下に、感染症については、特にワクチン開発研究を、アレルギー・免疫疾患については、ゲノム情報を利用した遺伝性疾患の病原遺伝子解明、分子レベルあるいは生体レベルの解析による病因解明、そして新しい治療薬の開発研究を目指す若手研究者からの独創性ある提案を期待します。
(2) 「光と制御」
研究総括:花村 榮一(千歳科学技術大学光科学部 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、受光と発光、光の伝達制御、スイッチング等に用いられる光デバイス等の実現に向けて、光と物質の相互作用や光機能性材料創製に関する研究を対象とするものです。
 具体的には、非線形光学材料、発光および光記録材料を始めとした光機能性材料実現のため、半導体、酸化物結晶、分子複合体を用い、薄膜、超微粒子とナノクラスター、フォトニクス結晶、それらのハイブリット化と微細加工など、さまざまな形態制御を受けた新規物質創製に関する研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 光に関する研究は科学と技術の進歩を橋渡しする形で進められてきた。まず、産業革命に不可欠であった溶鉱炉の中の光エネルギーの波長分布が測定されるようになると、古典的な電磁気学と統計力学では説明できないことが分かってきた。1900年12月にプランクの量子仮説によって光エネルギー分布が理解されるとともに、20世紀の科学の花形であった量子力学が誕生した。逆に、誘導放射を最も有効に活用することによってレーザーが発明され、今では光通信に、光記録の書き込みからその情報の読み出しまでに利用されるようになった。最近では、量子情報や量子暗号の伝送や処理においても光が主役を演じつつある。
このように、光は科学にも技術にも重要な役割を果たしてきたし、我々の予想もできない潜在能力を秘めているものと思われる。
当研究領域「光と制御」では、純粋科学のアカデミックな研究者から、応用科学や工学における研究者はもちろんのこと企業における技術者まで、光が何らかの形で関わっている広い分野の人々から「光と制御」を切り口とした、斬新な提案や大胆な提案、堅実な、あるいは緻密な提案といった幅広い研究提案を期待する。
(3) 「合成と制御」
研究総括:村井 眞二(科学技術振興事業団研究成果活用プラザ大阪 館長)
研究領域の概要
 この研究領域は、材料化学などの領域における有用な物性と機能を持った新物質創製に対する要請に応え、新現象・新反応・新概念に基づく新しい化学の展開、さらには新合成手法と新機能物質の創製に関する研究を対象とするものです。
 具体的には、有機合成の革新的手法・革新的なシステム、高分子の革新的合成法、などに加え、有機系・有機無機複合系物質、生理活性物質、分子エレクトロニクス材料など優れた機能を持つ新物質・新材料へのアプローチが含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 有機化学の本流、あるいはフロンティアにおいて、革新をもたらすような研究提案を募集します。有機合成や機能材料化学の現状は一定の成功を収めつつも、期待されるレベルの高さからみればまだ極めて不満足な状態です。材料化学などの諸分野におけるさらなる飛躍的進歩をもたらすために、既存の方法や概念の延長ではなく、斬新な芽を持つ研究を期待します。発見を指向する探索型の研究提案などの場合では年次計画にかわって説得力ある研究の方法論・方向の提示を期待します。
 研究対象としては、先導的有機合成とその方法論、反応剤・触媒・活性中間体・反応場の研究の新展開、立体化学・電子状態・分子間相互作用の制御、構造活性相関、理論的取り扱い、高分子新合成法、高機能的な高分子、炭素クラスター・有機電子材料などをふくみます。これらの対象への斬新なアプローチを期待します。
(4) 「協調と制御」
研究総括:沢田 康次(東北工業大学 教授)
研究領域の概要
 人間・社会・環境のそれぞれで生成されその間で伝達される情報の特徴抽出・モデル化、「協調」的情報処理(コミュニケーション)する様式とその「制御」、さらにそれを実現するための手法を研究します。
 例えば、インテリジェントなデバイスとシステム、ブレインコンピューティング、言語的・非言語的コミュニケーション、異種情報の統合シミュレーション、大量データの高速処理による意思決定支援システムの研究などを含みます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 複雑なシステムである人間とその社会及びそれを取り巻く環境との関係における生命活動とその高度な機能を理解し、健全な「協調的人間社会」の構築に貢献することが今世紀の科学技術に求められています。
これを実現するために、人の思考過程や「協調的対話」の進め方に関する脳内プロセスの理解に向けた斬新で有効な種々の研究アプローチとそれを支える情報伝達の生物的メカニズムに関する研究の進展が望まれています。計算機科学を中心として発展した情報の概念だけではこれらの複雑システムを表現するには十分とは言えず、新しい情報学の実験的研究を推進し、それを先導し実験に支えられた理論を発展させる必要があると考えます。
これと平行して、人の思考を支援する「協調的プログラミング」、人と人の間の情報伝達を支援する「協調的ネットワークシステム」、人の運動を支援する「協調的ロボット」、及びそれに必要な新しいセンサ、デバイスの研究も重要です。これらの工学的アプローチはその実用的側面ばかりでなく生物学的研究と相補的な関係にあり相俟って新しい「協調的情報システム」の発展を推進するものであり、若手研究者の新しい発想に溢れた提案を望みます。
(5) 「タイムシグナルと制御」
研究総括:永井 克孝(三菱化学生命科学研究所 取締役所長)
研究領域の概要
 生物は、自らが一旦遺伝子の内にセット(制御)したプログラムを、環境変化に応じてリセットすることにより、生命を維持しようとしている。こうした仕組みとその応用について研究するものです。高齢化への方策に向け、個体から細胞、ゲノム、分子に到る様々な階層的次元で生命を時間的存在として捉えようとする研究などを含みます。例えば、配偶子形成は成長から加齢に至るタイマーのリセット機構、幹細胞の存在や再生は個体レベルでのタイムプログラムのリセット機構であり、また老化はその機構の能力低下として理解できます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 ゲノム情報の素子としての遺伝子について、塩基配列の解読を中心とする物質的基盤の解析が着実に軌道に乗りつつある。そこでいわゆるポストゲノム時代の課題は何かが問われる。遺伝子および遺伝子産物の機能解明の重要性が強調されているのだが、この解読機能の解明は、いわば私たちの"ことば"における単語の特定に相当する。つまり、辞書づくりを進めようというわけであろう。問題はそのあとのセンテンスの構築であり、とりわけ、その基盤となる文法の解明こそ重要であろう。ここに本領域「タイムシグナルと制御」がかかわってくる。生・老・病・死、形態形成、分化、概日リズム、進化分子機構等々はもとより、生物存在の本質的理解は時間を抜きにしては考えられない。これまで現象的ないしは空間的記述と解釈にとどまりがちであったこの領域に、ゲノム解読をふまえての新たなアプローチが可能になろうとしている。逆にいえば、これら時間が典型的に関与する動的な高次階層型システムはゲノムの文法の解明に当たって極めて重要な手がかりを与えるものであり、また、その応用への道を拓くことになるであろう。この目標の達成には、従来の研究領域に加えて、情報科学はもとより、様々の領域らの参加と新鮮な発想が必要であり、特に若手研究者による挑戦を期待している。
(6) 「変換と制御」
研究総括:合志 陽一(国立環境研究所 理事長)
研究領域の概要
 省資源、省エネルギー、さらには環境調和型の物質変換プロセスを目指すため、新規化学反応やエネルギーの創出、それらの利用効率の向上や制御などの研究を行います。
 例えば、錯体や反応触媒、反応プロセスや生成分子のデザイン、エネルギー変換、無害化の促進、計測制御技術の開発及びリサイクルの実現を目指した廃棄物の資源化などに関する研究を含みます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 物質とエネルギーは、現代社会の基盤として中心的な役割を果たしている。一方、物質・材料の生産・消費はさまざまな環境負荷をもたらす。エネルギーの生産・消費も同様に環境負荷を引き起こす。現代社会にとって、物質・材料とエネルギーの生産・消費は不可欠であるが、限りある地球では資源の限界と環境の限界は避けがたい。
 この困難の前に立ちすくみ、絶望する声もある。しかし人類は、持続可能社会を将来のあるべき方向と定め、実現のための方策としてリサイクル社会を創ろうとしている。これは大きな挑戦である。人智の限りを尽くして取り組む価値のある課題である。
 物質・エネルギーの変換を変革し、制御し、新しい社会の基礎を創る。これが我々の目指す方向である。理想は常に地に足をつけた地道な努力がなければ空想に終わる。新しい物質変換を実現し、また、優れた分析・計測や多様な触媒機能を通じてさまざまの変換のより効率的な制御を可能にして、これからの社会を科学技術で支えたい。化学・生物・物理その他どのような分野の研究者であっても、志あれば研究を提案して欲しい。我々は最大限のサポートをするつもりである。既存の研究分類にとらわれない発想を期待している。


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This page updated on October 31, 2002

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