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<CRESTプログラム>

研究領域の概要、研究総括の募集・選考にあたっての考え方

戦略目標「遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新」の下の研究領域
(1) 「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」
-たんぱく質の機能発現メカニズムに基づく革新的な新薬、診断技術及び物質生産技術の創製を目指して-
研究総括:大島 泰郎(東京薬科大学生命科学部 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、生命活動の中心的役割を担うたんぱく質の構造及び機能を明らかにしつつ、応用の可能性を探索する研究を対象とするものです。
 具体的には、たんぱく質の構造解析の高度化並びにたんぱく質の動的な構造変化に立脚する触媒活性や代謝調節、情報伝達等の生体反応、発生、免疫、神経系、環境適応等の高次の生命現象のメカニズムの解明とその医薬、診断技術、物質生産への応用、変性・再生等の動的な構造と物性の変化の解析とその制御や改良技術の展開、これら研究に資する新たな測定技術や研究手法の開拓を目指す研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 ゲノム科学の急進展、放射光やNMR、さらには1分子可視化などの研究手法の発展を背景として、生命の機能素子であるタンパク質の研究の新時代が到来した。ゲノム解析がもたらす膨大な配列データやそれから派生する3次元構造データの蓄積は、いわば静的な解析データであるのに対し、細胞内でタンパク質が触媒あるいは分子認識素子として働くとき、あるいは細胞内の代謝回転や熱・有機溶媒変性などは、動的な構造の変化や揺らぎが重要であり、その解析無しには機能素子としてのタンパク質の理解はあり得ない。ゲノム科学を背景としたタンパク質の新時代は、従来にない独創的な仮説や研究手法を必要としている。また、そのためにはより精密なあるいはより迅速な測定技術などを開発することも求められている。このためには異分野との共同研究も奨励されなければならないであろう。タンパク質の構造機能相関あるいは構造物性相関に関する斬新な仮説を検証しようとする研究、オリジナルな研究手法を開拓しようとする研究、異分野との共同研究からブレークスルーを求めようとする研究を奨励したい。
戦略目標「先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出」の下の研究領域
(2) 「免疫難病・感染症等の先進医療技術」
-遺伝子レベルでの発症機構の解明を通じた免疫難病・感染症の新たな治療技術の創製を目指して-
研究総括:岸本 忠三(大阪大学 学長)
研究領域の概要
 この研究領域は、再生医療や抗体工学等を含む先進医療のうち、免疫が関わる各種疾患(例えば免疫由来各種難病や各種感染症)に対する先進医療技術を中心とし、その他関連する先進医療技術も含め、次世代の医療技術の基礎と応用に関する研究を対象とするものです。
具体的には、免疫難病(自己免疫疾患やアレルギー等)の発症機構の遺伝子レベルでの解明とそれに基づいた新しい治療法、例えば抗体療法、遺伝子治療、DNAワクチン、幹細胞治療等の開発および結核、マラリア、エイズ等の細菌、原虫、ウイルス感染症に対する新しいワクチンや創薬の開発につながる基礎的研究等が対象となります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 免疫学は20世紀後半の生命科学分野で最も進展した領域の一つである。生体の免疫系を調節する細胞、分子の働きは、いまやコンピューターグラフィックをみるように解明されている。その成果は、例えば移植臓器の拒絶を防ぐ薬やリウマチに画期的効果を発揮する抗体等、実際の医療の場で大きな役割を演じている。さらに自然免疫研究の発展に伴うDNAワクチンの進展や、ヒトの免疫系遺伝子を組み込んだマウスの作製等も免疫・アレルギー、感染症、癌の分野で新しい治療法や新しい医療の開発につながることが期待される。
また、近年のヒト胚性幹細胞(ES細胞)の確立は、移植医療に画期的な展開をもたらそうとしている。そして、ヒトやウイルス・細菌・原虫などの病原体の全ゲノム配列がほぼ解読された今、ゲノム情報にもとづいた蛋白質の構造と機能の解析が進んでいこうとしている。これらの展開は、21世紀の医学、医療に革命的変化をもたらすことが予想されている。
この領域では免疫学や血液系の異常により引き起こされる難病や腫瘍、アレルギー・アトピー、種々の感染症等に対する新しい治療法や発症予防法の開発、原理に立脚した新しい医薬品の創出等に直接つながっていく可能性をもった基礎的研究を展開することを計画している。
“ちょっと遅れて流行を追う”というような研究ではなく、ユニークで創造性に富み、しかもその研究成果が新しい診断・治療技術の開発につながっていくような、研究者の個性の現れたロマンのある研究提案を期待します。
戦略目標「新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築」の下の研究領域
(3) 「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」
-量子効果、分子機能、並列処理等に基づく新たな高速大容量コンピューティング技術の創製を目指して-
研究総括:田中 英彦(東京大学大学院情報理工学系研究科 研究科長)
研究領域の概要
 この研究領域は、高速大容量情報処理に不可欠な新しい情報処理システムの実現に向け、その技術についてのハードウエア、ソフトウエアの研究を対象とするものです。
 具体的には、量子コンピュータや分子コンピュータ等を含む新しい原理に基づく情報処理システム、従来型のコンピュータの性能を新しい時代に合わせて飛躍的に向上させる要素技術、従来システムの安全性や信頼性向上のための技術、大負荷に耐えられる大容量システム技術等に関する研究が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 現在は情報の果たす役割の高い社会であるが、今後はますますその傾向が強まることが予想される。特にその利用者は一部の人に限られずあらゆる人々である。また、扱う情報の種類も文章や数値だけに留まらず、音、画像など様々なものがあり、高速インターネットの発展により、それらを迅速にやり取り可能である。従って、情報処理技術に対する要求も従来になく幅広く、また厳しいものがある。新たな科学技術研究の必須ツールとしての超高速性、膨大な情報を蓄積処理する大容量性、あらゆる人々が情報システムに頼って生活するための信頼性、人々が安心してシステムを使えるための安全性、変化する処理需要や機器に対応し易い適応性、生涯に渉って使うことを可能とする継続性など様々な要求がある。
この研究領域は、このような要求を満たすための情報処理技術を対象としており、従来のコンピュータシステムを新たな時代の要求に合わせて変革するための抜本的な要素技術として、コンピュータ性能を飛躍的に向上させる要素技術、システムの安全性や信頼性を抜本的に向上させる技術、大負荷に耐えられる大容量システム技術等の他、量子コンピューティングや分子コンピューティングのように全く新しい原理に基づく処理技術を対象としている。
これは基礎研究であるので、5年の研究期間の後、直ぐに実用に供されるものを必ずしも要求してはいないが、5年後に所期の研究計画が達成され、その技術の有用性がかなり明確になるものでありたい。
戦略目標「水の循環予測及び利用システムの構築」の下の研究領域
(4) 「水の循環系モデリングと利用システム」
-水資源と気候、人間活動との関連を踏まえた水資源の循環予測・維持・利用のシステム技術の創製を目指して-
研究総括:虫明 功臣(東京大学生産技術研究所 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、グローバルスケールあるいはリージョナルスケールにおいて、大気・陸域・海域における水の循環の諸過程を明らかにし、水循環モデルの構築を目指すとともに、社会システムにおける水の効率的な利用に関する研究を対象とするものです。
 具体的には、気候変動にともなう水資源分布の変化、人間活動が水循環に及ぼす影響に関する研究に加え、水資源の維持・利用、水循環の変化が社会システムに及ぼす影響の予測、生態系環境を維持・保全・回復する水の機能等に関する研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 水は、一部の化石水を除き、時間的・空間的に偏在かつ変動しながら絶えず循環している。その循環の仕方は、自然的に変動すると同時に、森林伐採、農地開発や食糧増産、都市化あるいは炭酸ガスの排出など、人間活動によっても変化する。言い換えれば、水循環系と人間活動とはダイナミックな相互作用を及ぼし合う関係にある。特に、前世紀後半から始まった急激な人口増加と人間活動の拡大にともなう世界的な水問題、すなわち、飲料水の不足、食糧生産のための水需要の増大、水環境の劣悪化、水災害の激化、さらには気候変動にともなう地球規模での水資源分布の変化などは、今世紀にわたってさらに深刻さを増すと懸念されている。
この研究領域では、こうした問題の解決に向けて、地球規模から地域規模まで様々なスケールにおける水循環とそれにともなう物質循環の諸過程に関する科学技術的解明と予測を基礎として持続可能な水の利用システムを考究する研究を応募の対象とする。
具体的には、各種スケールにおける自然的ならびに人工的水循環/物質循環プロセスの解明とモデリング、農業用水、都市用水等の効率的かつ持続可能な利用システム、水文生態系環境の維持・保全・回復、水循環系の変化への社会システムの対応、などのテーマが上げられる。また、“水循環-利用システム”は、社会経済的側面を強く持っているので、自然科学的アプローチと人文社会科学的アプローチが融合した研究が推奨されるとともに、特に、アジア地域の水問題の解決に資する研究の応募が期待される。
戦略目標「技術革新による活力に満ちた高齢化社会の実現」の下の研究領域
(5) 「生物の発生・分化・再生」
研究総括:堀田 凱樹(国立遺伝学研究所 所長)
研究領域の概要
 生物の発生・分化の過程をとおして分子・細胞・器官等さまざまなレベルでみられる分子機構、生物の巨視的な姿・形の形成を支配する法則、及び失われた組織や細胞の復元・再生過程にみられる生物自身が示す調整性やその分子生物学的メカニズムに関する研究、さらには器官形成の研究等を対象とします。
 具体的には、発生・分化・再生過程における形質発現プログラムの解析、細胞の個性と多様性の分子機構の解明、幹細胞の増殖・分化に関わるプロセスの解析、器官形成・組織形成やそのメカニズムの解明等のテーマについて、遺伝学・分子細胞生物学や遺伝子工学等のさまざまなアプローチによる研究を取り上げます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 「生物の発生・分化・再生」研究領域では、多細胞生物の発生過程のメカニズムを分子・細胞・組織・器官・個体などさまざまなレベルで意欲的に研究を展開し、世界的な活躍が期待できる研究を募集する。例えば、ゲノム情報が次々と知られてきている現状を巧みに先取りした先端的な研究、各種のモデル実験生物を用いた分子細胞生物学的研究、脳神経系など複雑な生体システムの機能とその機構を発生生物学的方法によってエレガントに解析する研究、それらのために必要な新しい技術開発の研究、発生分化や再生に関する知識を医療や診断に応用するための基礎研究、発生・分化・再生などの実験結果と密着した理論的研究、など間口を広くとって様々なテーマの応募を歓迎する。その選考審査にあたっては、研究計画が新鮮で意欲的であること、その現時点での学問的重要性、フィージビリティー、研究代表者のこれまでの研究暦、共同研究態勢の組み方、研究環境確保の可能性、などが特に重視される。
最後に、研究総括の座右の銘を一言。「科学に重要なのは、論理的な推論と見落としのない実験計画である。さらに真の科学者に不可欠なのは、ウラでは論理を飛躍した思考法を自由にできるという才能である。一言で言えば、limited sloppinessである。」

(6) 「植物の機能と制御」
研究総括:鈴木 昭憲(秋田県立大学 学長)
研究領域の概要
 植物の持つ多様な機能を解明するとともに、その機能を制御し、利用することをめざす研究を対象とします。
 具体的には、植物ゲノムの解析並びに遺伝情報の解明、植物と環境との相互作用や環境ストレス下での植物遺伝情報の発現、さらには分子育種や生理機能の制御等を通じて、食料生産の増大及び質の向上、創薬への応用、パルプや建築材、繊維等の工業製品、その他未利用植物資源の利用、地球環境の保全や災害防止などに至る様々な植物の利活用をめざす研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 
地球環境の劣化、食糧危機等の地球規模の課題解決に、いま、植物の持つ多様な機能が注目されている。本研究領域では、この植物の持つ多様な機能に着目し、その解明と制御を通じて、上記の地球規模での問題解決等、広く人類の福祉に貢献しうる植物科学の推進を目指す。
最近の植物科学では、ゲノム解析の進展等を通じて、植物の機能を遺伝子レベル、分子レベルで理解する事が可能となりつつある。本領域では、最近の植物科学の進展を基礎として、植物の多面的機能の理解と制御にかかわる研究の応募を期待する。また、人類の福祉に貢献し得る、植物の環境保全・修復機能の強化、植物生産における質的、量的向上、植物資源の新しい利用につながる研究、さらに植物科学における新しい研究手法の開発研究も歓迎する。


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This page updated on October 31, 2002

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